企画、アイディアが出て、具体的に話が進み始めてからもう1年ほど経っただろうか。ついに、である。
わたしが関わり、12月に製品として世に出たカレーがある。正確にはカレールウ。その製品名を、
「TRICOカレーフレーク」
という。
この製品、皆さんが目にすることは、あまりない。
それというのもこのカレールウは業務用。今回は給食調理業務の現場で使われるものの開発であった。
企画と開発は京都、甘利香辛食品と中野のトリコカレー。
カレー粉や黒胡椒のC&Aブランド(業務スーパーやヨークベニマルで見かけるはずだ)で知る人ぞ知る京都で70年以上続く老舗のスパイスメーカー「甘利香辛食品」。そこの担当、田中さんと中野の人気カレー専門店「トリコカレー 」の店主、佐藤さんをわたしがつないで三者での協力、開発。製品として形となった。
当初から企業給食用というコンセプトであった。
いろいろ検討しながらレトルトではなくルウという形での開発となった。それというのもレトルトでは出せない粘度とニュアンスを達成するためだったのだ。
特異ともいっていい、味、食感、香りとも既存品にはない大変個性的なものである。
売り先の各事業所で春前まで任意のカレーフェアが行われる。題して
**「カレーブロガーはぴい氏注目の名店 トリコ監修カレー」 **
となっている。
気恥ずかしくもあるが、時間をかけて形になったもの。晴れがましい気持ちでいっぱいだ。
それぞれの現場、社員食堂でトッピングが変わったりしながらも今回のトリコカレー 佐藤店主が監修したカレールウでカレーライスが作られ、提供される。
以前も何度も書いたが中野「トリコカレー」は唯一無二の店だ。こんなカレーはほかで食べたことがない。
まずその粘度。驚くべき高粘度のカレーソース。
店ではその高粘度のカレーソースをお客が自分の好みでスープで割って濃度を調整することも可能というどこにもないスタイルを確立。大変に面白い。ジャパニーズスタイルカレーライスという分類に入ると思うが、ローズマリーの香りがするというのがまた個性的でこの店でしか食べられないものとなっている。
そして「甘利香辛食品」の開発力。今回は店のカレーそのものを再現するというのではなく、トリコカレー と甘利香辛食品で開発をして、店の味のコピーではなく、新しいベストなものを作ろう、というやり方。
とはいえ結果、まさにこれはトリコカレーの味、というものに仕上がっていて驚かされた。
難しいニュアンスを口にする佐藤店主の感覚をすくいとって繊細な調整をかけてくる甘利香辛食品の開発担当。それでも簡単には首を縦に振らない佐藤店主の一途さと真面目さ。そのぶつかり合いが続く様をハラハラしながら見ていたが、最終的に素晴らしい味に仕上がった。
わたしも間で何度も味見をさせてもらったが、ぐいぐいと味がいい方向へ向かっていくのを目の当たりにして大いに圧倒された。
もちろんカレールウ、使用する現場の皆さんの腕にかかっている部分もある。そういう部分まで出来る限り、想定する限りの調整を尽くして出来上がったカレールウは、ちょっと前例のないもの。
ひよこ豆のパウダーを使ってとろみの感触を作り出したところや特徴的なローズマリーの香りをよくもここまで、というくらいカレールウの中に残したり。とても印象的でおいしいカレールウに仕上がっている。
それで、どうしても販売されている、食べられている現場を見たいというわがままなお願いを切望、甘利香辛食品の田中さんが販社であるグリーンハウスさんにお願いをしてもらい調整をいただいて、都内にある大手企業の社員食堂での試食が叶った。
わたしはフリーランスを長く続けており、社員食堂がある環境で働いたことは一度もなかった。それだけにますます感慨深い。
グリーンハウスのデザイナーさん渾身のポスターが食堂に貼られている。トリコカレーの行列のイメージと店主佐藤さんの愛車のベスパがスタイリッシュにデザインされ、私のおすすめであることが示されている。なんと洒落ていることか。
ディスプレイも同じく洒落ていて、材料として使用されているひよこ豆やハーブなどが飾られ、華やかだ。ちゃんと売ってやろう、きちんと食べ手に伝えようという気持ちの現れが形になっていて、気持ちが震える。こみ上げる。
今回この社員食堂で提供されるトリコカレー監修のカレーライスはカツカレーというスタイル。
わたしも試食をさせてもらった。
トリコカレー の特徴は懐の深さ、広さ。
強い個性のトリコカレー なのだがトッピングと喧嘩をしない。不思議なくらい柔軟だ。
カレーとトッピング、どちらかの個性が沈んでしまうということがなく、トリコカレー としての個性を残しながらトッピングのよさをも引き立てるというちょっと奇跡的なバランスを作る力を持っている。
ひよこ豆を使って強くつけたとろみとパンチのある味で満足感たっぷり。そのわりにお腹にもたれない、ビジネスマンが集う社員食堂のカレーとしてかなりよいものなのではないだろうか。
今回のメニューではマリネサラダとスープがついていた。わかめとタマネギのクリアスープ、これをすこしカレールウにかけてやって濃度調整をしてみる。うん、このスタイルこそトリコカレー 。調整の幅があり、好みを自分で作れる楽しさもちゃんと再現されている。なんと楽しいことだろう。
この製品は販売会社を経て全国の社員食堂などに提供されるはずだ。皆さんが目にすることはあまりないと冒頭で書いたが、幸運な方は自社の社員食堂でわたしのオススメが表記されたポスターを目にするかもしれない。
ぜひ、その日のランチはトリコカレーを選んでほしいと思っている。
そして、そんな幸運な人は、ぜひわたしにその感想を聞かせてほしい。
反響如何では、もしかするとコンシューマー販売、一般流通などという嬉しいことになるやもしれない。
応援を、強く求む。