ランチメニューのトゥデイズスペシャルにいつでもパキスタン料理がラインナップされるうれしいパキスタンレストランがある。しかもそれが歩いて行ける距離にあるというのは堪えられない。
カレーですよ。
なにしろ歩いて行けるので、しかも駅への道すがらでもあるので出かけたついでで店頭に出ている小さなホワイトボードを確かめに行く。
ムスリムの人々の料理でムガル帝国末期の18世紀末にハイデラバードやデリー辺りの王の食卓から生まれたとされているもの。長時間煮込むため深夜に調理され早朝に出来立てを食べる、という話も聞いたことがある。
さて、注文したニハリがやってきた。ごはんとナーンを選べるとのことだがごはんを選んだ。単純に好みの問題だ。
シャバシャバというキーワードがあるが、これはもうちょっと粘度があるというか、ぽたぽたした感じを受けた。
しゃば、のところがマトンのオイルでぽたに変換されたとでも言おうか。そういう感じのシチューに仕上がっている。
濃厚とろりで深くよい味。マトンの旨味がぐいっときてたまに針生姜がピリリと爽やかに舌をリセットしてくれる。
骨付きマトンは、これはもう「まんが肉」と言ってもいいビジュアル。思わず嬉しさこみ上げる。
はじめは嬉しくて骨を握って直接肉にかぶりついていたが、靴下を脱がせる要領でするりと骨から抜け落ちるので骨から抜いて食べてもいい。皿の片隅に骨を置き、肉を頬張る。
マトンの良い香りが口いっぱいに広がり、コラーゲンのプルプル部分や筋がばらけな肉部分など口からはみ出そうである。幸せとともに肉をかみしめる。うまい。大変にうまい。ちょっと何かたまらない気分である。
骨を皿の隅に置いたが忘れてはいけない。骨の中には髄が入っている。吸い出すのもいいが、スプーンの柄で押し出してもいい。特別に美味しい場所だ。
肉もいいが、シチューが本当にうまいので何度もスプーンですくって食べてしまい、見る見るうちに減っていってしまう。これはいけない。ごはんを食べるのを忘れているではないか。
そして山盛りで供されるごはんも侮ってはいけない。
ねっとり炊き上がっているが塩味が効いている。これまたいい。ニハリも濃い目の味であるが思ったより塩分は多くないようで、このごはんと合わせるとどうにもバランス良く、おいしく、止まらなくなってしまう。
サラダには例のオレンジ色をした甘いドレッシング。これが功を奏してか、本来の食べ方ではないのだが、ニハリとごはんにサラダも少し足してやって食べるとなかなかいい。あの甘いドレッシングがうまく作用する様子で美味しさアップがあった。おもしろい。
まだまだ日本では貴重品のパキスタン料理。とはいえ一部地域ではコミュニティもあり、その集中した場所にレストランがある。富山県射水市や埼玉県八潮市。名古屋港にもパキスタンレストランがあったはずだ。それぞれのコミュニティの成り立ちや理由を知るとますます食事が楽しくなる。
理由を知っているものを食べるというのはとても楽しいことだと思っている。
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