カーンさんが困っていると聞いた。昨今本当に周り中から聞こえてくる時節柄にやられてのことのようで。顔出しにいかなくちゃ。
カレーですよ。
お出かけが深夜に及んだその日、クルマで帰り道でもあった新宿、文化女子大脇へ。
歩道橋のちょうど下にあるインド料理店の小さな店が、
「パトワール」
テイクアウト窓からのぞくと、あれ?カーンさんいないかな。コックさんに聞くとすぐ戻るよって。とりあえずまずはお弁当買わないと。
「C弁当」
の名前でおなじみのキーマカレー弁当は、わたしが知っているキーマカレーとはまったく似ていない、でもすごくおいしいもの。
自室に持ち帰るわずか30分を我慢するのがつらくなるくらい好きなのだ。ああ、はやく蓋を開けたい。
しばらくするとカーンさんが戻ってきた。
満面の笑顔で話しかけてくれる。やはりなかなか大変な様子。そんな中でもわたしが顔を出してくれたことをとても喜んでくれて、お弁当の袋に頼んでいない余計なものを入れようとする(笑)
「カーンさん!いいから。ダメだから!」と言っても聞いてくれない。特上の笑顔のまま、でっかいタンドリーチキンを弁当の袋に詰め込んでくれる。持ち帰りラッシーまで来てしまった。こりゃあ困った。
そうだ、店頭に置いてあった焼き菓子。あれを買おう。そうしよう。そうなのだ。この店のカラーとはちと違う洒落たマフィンやパウンドケーキが置いてあった。
しかも当然ながらここパトワールの店頭に置いてあるわけで、ハラール。ムスリムの友人に分けてあげて一緒に食べることができる。いうことがない。
その上この焼き菓子、カーンさんの娘さんが焼いているのだ。カーンさんが嬉しそうに「ダイキンハムスメニハイルンダヨ。」と教えてくれた。もう最高としか言いようがない。買わない理由がないのだ。
いくつか見繕って「これちょうだい!」と袋詰めをお願いして。「お釣りいらないよっ!」と札を渡したら困った顔。その顔が急にパッと輝いて焼き菓子をひっつかんで追加で袋に入れてきた(笑)ああ〜。
もうこうなると抵抗できない。それは「愛」だったり「友情」だったりだから。きっとそう。
「絶対SNSとブログに書いてみんなに来てもらうから!」と言ってクルマに乗り込むとまたもや満面の笑みで手を振ってくれた。心が大きく動く。
さて、深夜の自室。もう無理だ。てっぺんをとっくにまわっているが、我慢の限界。やっつけることに決める。
C弁当、挽肉というよりはタマネギとトマトが主体となったペースト状のカレーで、タマネギとかピーマンがちらちらと入るのも食感、味の変化が出て好ましい。たしかに写真を見れば肉そぼろが見て取れる。しかしもはやわたしの中ではそれのことはどうでもよく、トマトとタマネギにまみれる幸せが優先となる。
そしてその横に鎮座する、わりと面積を占める生野菜。これが大事なのだ。
いや、むしろこれがなかったらいくらおいしいキーマカレーであってもその実力を120%で発揮することはできない。
甘いドレッシングがかかったとてもおいしいサラダ。この野菜の水分とドレッシングが底に落ちてごはんの方に染みてゆく。そこを上に乗ったキーマカレーと混ぜて食べてやるのだ。
ああ、なんということだ。これを書いているうちにまた食べたくなってきた。バカみたいだ。この感想を書く前に食べ終わったばかりだというのに。
それくらい好きで、それくらいおいしい。クセになって困る味である。
カーンさんの笑顔を思い出しながら、彼の愛情を存分に浴びる気分で食べ切った。
フレディマーキュリーにどうも似ている彼の目元やチャーミングなまつ毛を思い出しながら「アイワズボーントゥラヴユー」なんか聴いてみる。
そんな深夜となった。