カレーですよ4527(池上HITONAMI インド宮廷料理Mashal/一般社団法人Mashal)伝説の帰還。

インド宮廷料理のシェフであるモハマド・フセインさんはわたしのとってちょっとした伝説上の人物、アイドルなのです。

インドUP州出身のフセインさんはわたしも行ったことのあるインド、オールドデリーのカリムホテルで1970年代に勤務経験があるそうです。日本では言わずと知れた九段坂上・麹町の名店、アジャンタでタンドール料理に腕を振るっていました。青山のシターラの総料理長も務めていた経験があると聞きます。アジャンタでインド料理の薫陶を受け、当時は意識していなかったが日本のモダンインディアの祖とも言える青山のシターラで、湯むきトマトに詰めたリゾットを夢中で食べながら「これはインド料理じゃないぞ」など思っていた20代の終わりのわたし。大事なシーンで知らぬうちにフセインさんの料理を食べていたことが今になってわかり、ふるえています。

 

そんなフセインさんが新しい動きを始めたと聞き及んで、その皮切りとなる今回のイベントに取るものも取らず駆けつけたのです。

 

「インド宮廷料理「Mashal」プレオープンイベント」

 

という題名の、1日だけの料理の提供イベント。

池上にある「HITONAMI」というワークショップスペース兼オーガニックカフェでの開催となりました。

主催はフセインさんとともにMashal共同代表を務めるアリ三貴子さん。彼女もアジャンタでアルバイトをしていた経験があり、そこでフセインさんと仲良くなったそうなんです。

浅野哲哉さんの「風来坊のカレー見聞録」を擦り切れるまで読んでいた身としては感慨深いものがあります。いや、そもそも浅野哲哉さんがFacebookを介してつながっているということ自体が奇跡を感じているんですけどね。いや、両さん(増田さん/笑)もだ。ちなみに渡辺玲先生からお聞きしましたが、フセインさんは主に麹町時代を中心に活躍されたそうです。渡辺先生にもアジャンタの頃のお話が聞きたいんだよなあ。

 

さておき。

Mashal(マシャール)にはまだ店舗はありません。イベント、テイクアウト販売、冷凍宅配セット、オリジナルブレンドスパイス、インド料理レッスンなど無店舗でできることをまずは始めるということらしいんですね。南アジアと日本を繋ぐというミッションを掲げての活動です。

そしてそのスタートのプレイベントとしてのインド宮廷料理ランチ&ディナーということでの今回の開催。そりゃあ期待しちゃいますよ。

申し込み、ひやりとしたんだよね。どうやら一瞬で埋まってしまったようで、インド料理の好きなアンテナ高い人々はとにかく手が早いなあと舌を巻きます。

さて当日。

 

店に入ればやっぱりどうも知った顔ばかり。そしてみればなるほどの「カレーの人」はおらず「インドカルチャーの人」ばかりがいるのは大納得、おもしろいです。とはいえカレーの人々、モハマド・フセインさんの料理を見落としてしまうのは、これは大きなミスであること、お伝えせねばいけないと思っていますよ。そして奥ではフセインさんの奥様がチャパーティを焼いてらっしゃる。なんということだ。色々すごいです、この会。

さあ、食事だよ。まず、サラダとスープ。

サラダ、ルッコラが辛くて美味しいです。シンプルだけど良いサラダ。きゅうり、大根はスティック状でこういう薄いスライスではない扱いはカチュンバルを思わせるな。ドレッシング、例のオレンジ色の系統だが甘さは抑えられていて上品、大人っぽいのがうれしいです。サラダひとつでも小さな気づきがいろいろあるねえ。

豆のスープがすごく美味しい。すごかった。言葉を失う感がありました。ちょっとこれはなんだろうね、クリーム的なものとかも入ってるのかしら。旨みとまろみがすごいんです。インド料理、カレーとかそういう狭く範囲を区切るのではなくてきちんと美味しいスープとして確立された味を感じます。スープというのはやはりいいものだなあ。

そしてスープは食堂ではなくてレストランの証。西洋のスタイルに準じて入るわけですが、基準の一つといっていいんじゃないでしょうか。ポタージュとか乳製品の深みを感じるまろやかな味にレモンを絞って酸味を楽しむスタイル。これがまたよくあっていて楽しくなるんだよ。初めからやられる感ありありです。

メインのプレートは焼き物を贅沢に4種のせてあるごはんとチャパティのプレートにカレーが2種類。

4種から選べたのでダールとマトンコールマを選んでみました。

 

まずはダール。

ぽったりした豆のシチューは舌に、脳に、胃袋に、全域で優しく、なんというかきょうは体にいいものを食べてるなあ、という気持ちが素直にやってきます。

 

スパイスというのはチューニングの妙で如何様にも世界を作れるというのがすごく伝わってくるね。

炭水化物なしでこれをその位置に置き、この3倍食べたい気分になりました。わかりづらい表現か、我ながら。

マトンコールマは、これはちょっとした芸術品。マトン自体の複雑な味をいなしてまとめて大きな味の流れ、方向に一体感を作ってあって。圧倒されました。

肉の扱いというのがわかっているコックさんの仕事であるとすなおに舌が理解をします。

本当に圧倒という言葉を使ってまったくおかしくない体験でした。

焼き物もあるのでした。4種もあるのだよ、伝説的なタンドール調理の達人の焼き物が。そういうものすごいものが何気なく皿にのっていることに震えが走ります。

 

カバブ、これはもうこれからハンバーグはこれでお願いします、という好みの味の決め方。酸味と香ばしさの使い分けにエッヂとエキゾティックな雰囲気を感じます。

チキンマライティッカは、おかしなことをいうと言われそうだけど、不思議と西京焼きをを思い出すんだよ。良い意味での例の味噌のあれとおなじような舌への引っ掛かりとどこかからくる甘味が似た感覚なんです。

うわーおもしろいなあ。これはクセになるし、なおかつなかなか代替えが効くものではないと強く感じます。

シュリンプティッカの香ばしさといったらないんだよ。エビの旨みを上手に引き出すマリネの具合とぷっちりという噛み切った時の歯応え、食感に嬉しさ込み上げます。

甲殻類の素晴らしさ、いや、甲殻類の良さをインド宮廷料理の作法で何倍にもパワーアップするとこうなるのか、という納得。

そしてフィッシュティッカ。ああ〜もう一体どうすればこうなるのだ、という火加減からやってくるのであろう、ふわりとした仕上がり。ひとくち食べてしばらく口が聞けず、動けず、という状態になってしまいました。

このふわふわの仕上がりは、たとえるなら天使の頬をぺろりと舐めているような感覚とでも言いましょうか。花のような儚さを伴う食感なのです。全身を揺さぶられるような体験だったな。

 

誤解を恐れずに言いますが、いかに自分が普段、インド料理でたいしたことないものを食べていたのかがわかってしまいます。いや、ちがうな、モハマド・フセインシェフのレベルの方が次元が違うということだな。とにかくスパイスの使い方、味の決め方のレベルが違う。圧倒的に違うんです。ちょっと言葉にできないなこれは。

こういう人が動き出したんですよ。しかも、世界のどこでもなく東京で。なんという楽しみなことだろうか。

実は足らないピースであった北インド、というよりもマハラジャが食べていた宮廷料理というものがわたしたちにも食べられるようになるのです。

今までもあったじゃないか、という声は聞く気になれない。そうじゃない。

 

モハマド・フセインシェフの料理を食べてから、話はそれからとするべきだよ。