群馬県前橋市にニューデリーという店があることをちょっと意外な場所で知ったんですよ。知ったのは平日の20時半を回ったスーパーマーケットの売り場だったんです。
カレーですよ。
なんてことを一つ前の記事で書きました。
「AコープJAファーマーズ 朝日町」というJA系のスーパーマーケットの売り場に冷凍カレーを発見したのです。コルマ、インドカレー、カシミールカレーなどという名前がついていれば当然買って帰ります。
その製造元が前橋のレストラン、
「スパイス料理ニューデリー」
でした。
創業1978年とあります。デリー上野本店のラインナップを手本にしている様子。これを買わない手はないわけですよ。それで、前回カシミールを食べながらいろいろと「現代にやってきた昔の味のカシミール」について考察してみたんです。そして今回は、コルマ。わたしがデリーで最も愛しているメニューであるコルマです。
解凍ののちレンジアップ、説明通りに仕上げてこの日も大量に白ごはんを用意してあります。さて、どうか。
あら!これは。なるほどお。
本家よりも焙煎浅めでフルーティな甘味が特徴的に感じます。そうなんですよ。あのタマネギ焙煎がコルマカレーの肝となります。大変な仕事だし繊細なものでもあるタマネギ焙煎。デリーインスパイアやデリーの味をベンチマークにするお店でコルマを頼むと一番その違いが出るのが焙煎だと感じています。焙煎が浅いとどうしても軽い味わいになります。それは悪いのではなくて個性といったものであると考えています。
そういうタマネギ焙煎に辛さを重ねてきているという味。ちょっとチリの辛さが強く出る感があるんですが、これもまたこのコルマ独自の個性の範囲で、こういうのは良いと思うのです。
特徴的なのは他にもホールのブラックペッパーがぽろぽろと入っているところ。チキンもちゃんと旨いですよ。鶏の旨味や香りがあって上等なものでした。
そして今回、みなさんとは共有できる話ではないのですが、一番面白かった体験。わたしだけの特別な気づきとひらめき、自分の舌のバックボーンがどこにあるかが見えたという話なんですけどね。
すごく面白いことに気がついたんですよ。
わたしの母の作るカレーがあるんですが。今では年老いた母は家で自分だけが食べる少量のカレーを固形ルウで作るばかりとなっていますが、かつては玉ねぎを大量に刻んで深く炒め、エスビーの赤缶と何やら色々なものを入れて奇跡のような美味いカレーを作ってくれていました。今から4〜50年前と考えるとかなりモダンでおもしろいレシピだったと思います。
どこか新聞か雑誌に載ったレシピをスクラップしていたとかなんとか。このカレーがわたしのカレー好きを加速させた一因であると思っています。そのカレーを思い出したのですよ、この群馬で買い求めたコルマに。
浅めの焙煎と強い甘味と旨味。ほんのりとあがるカレー粉ないしはそれに準ずる香り。これってデリーのコルマの系譜の下にあると言われればその通りなのじゃないかしら。
焙煎を強くしてプロがブラッシュアップするとあのカウンターで出てくるコルマになるんじゃないかしら。ちょっとしたリバースエンジニアリング的な話になってきましたが。
そして、その軸を頭の中でチューニングし直すと、母のあの味をも思い出すんです。なんだろう、この面白くも不思議な流れ、繋がり。
なんだ、そういうことだったのか。
わたしが多くの人が好きなカシミールよりもだんぜんコルマを選ぶ理由。そんなところにあったのか。こんなに単純なことだったのか。本家、デリーの深い焙煎の中に隠れて見えなかった真実が、群馬のニューデリーの軽めの焙煎の中から浮かび上がってきました。
スプーンを運ぶ手がだんだん遅くなってきます。それは、いろいろと考えながら食べるから。それと、母の、いまは作ってもらえなくなったあの味がここにあって、それがなくなるのが惜しくて仕方がないから。
わたしのカレーを食べて歩く旅は、ゴールというものを設定していなかったなあ、とふと気がつきました。それがいま突然やってきてしまったのかもしれません。なんということだろう。そういうことだったのか。結局そうか。
母のカレーを越えるような偉大なカレーはやはりないということか。やはりここに辿り着くのか。
気づきというものはかくも突然やってくるものなのですね。あてなどなかった旅の途中で突然、いつでも下車できる権利を手に入れてしまった気分です。それても、しばらく旅は続くでしょう。
母が存命のうちにこのことに気がついてよかった。明日は妻を連れて母のカレーの作り方を聞きに行こう。
【追記】
大丈夫。旅は終わりません。ただ、これは一旦最終回だな、と本気で思ってしまったんですよ。だから、最終回のタイトル。今年の最後の記事としました。
明日からは「シン・カレーですよ。」がはじまります。(ウソ。そのまんま続きます)