カレーですよ4799(大森 インド宮廷料理 Mashal / マシャール)雑誌連載の取材。

ついにグランドオープン。たっての思いでお願いをして快諾いただいた取材にお邪魔をしました。

 

 

カレーですよ。

 

 

無茶もいいところなのですが、いくつかのお店にそういうお願いをしています。

このお店のことを誰よりも早くメディアに載せたい。紙の記事にしたい。本当に、誰よりも早く。そういう思いです。

最近だと、例えば湯島の「アトリエデリー」、兜町の「ホッパーズ」。グランドオープン前、オープンしてすぐなどのタイミングでなんとしても取材がしたかったお店です。いずれも新規開店の前から確実に名店確定、土台が違うというお店たちです。本当なら新店はオーブン時など、どんな腕のある経営者、マネージャーでも混乱が必ずあります。自分でそういうのを現場をいくつも見て体験して知っていたから憚られること甚だしいわけです。完全に忙しく、ものすごく大変なのはわかっているんですが、それでも我慢ができない。

そういう気持ちでお願いをした、

 

「インド宮廷料理 マシャール」

 

わたしの連載に書きたくて、グランドオープン数日目にお邪魔をしてきました。

やはりすごかった。書ききれないほどの強い印象を受けました。まずは、料理。

 

タンドーリーチキン

タンドリーチキン はインドではむね肉を使ってわりとカサカサとした感じに仕上がったものを見かけることが多いと感じています。が、ちがうの。フセインさんは違う。

手間ひまかけたしたごしらえで脂を落とし、ただそのままで使わずにきちんと包丁を入れ、丁寧なマリネをして。だからこその仕上がりなのです。舌に向こうから寄り添ってくるような柔らかで官能的な食感に驚かされます。すごいよこれ。なにをもってパーフェクトか、というところもあるとは思いますが、わたしの中でこのタンドリーチキンはパーフェクト。いや、ペルフェクト。なかなかそんな言葉な使わないわたしですが、パーフェクトでいいと思う。すごいです。

この世界にはタンドリーチキンと、フセインさんが手がけたタンドリーチキンとの2つが存在します。

そしてそれに添えられるチャトニがまた目の覚める美味さ。爽やかさ。

辛さがきちんとあって尚且つそれがつらくない。風が吹き抜けるような感覚を覚えて背中がぞくりとします。すごい。

 

マトン ジャハーンギリー コールマー

これはすごい料理だった。カレーという言い方がきっと日本人にはわかりやすいと思うのですが、これはカレーじゃないよ。スチューとかシチューが一番近い表現。

クリームとチーズ的な強いアタックとシチューに程近い濃度。塩強めでしかし嫌味がないというね。まるでバターとクリームの中を泳いでいるような気分になる濃厚でゴージャスなひと皿です。でもおかしな引っ掛かりが全くないんです。乳脂肪やなにやらでゲップ、みたいのがまったくない。どうなってるんだこれは。

ポップコーン的、ポップライス的なシリアルが少し入れてあってね。これが食感にリズムを与えてくれます。ガリッと強い食感のマトン。骨つきです。固いのではなくきちんと手応え、歯応えがあるマトンをこのソースに放り込んであるわけですよ。こんなもの出された日にはひとたまりもない。夢中になります。これはすごい料理だなあ。確かに宮廷料理の趣き。圧倒的でした。

 

ペシャワーリーナーン

サフランの匂いのナッツフィリングのナーンです。ココナッツ、カシューナッツーアーモンドやレーズンをフィリングしてあります。タンドールで焼き上げた後にバターを塗るのですが、そこにサフランが仕込まれているんですよ。まったくスリリングとはこのことだね。

上品で、香り豊かで、ほんのり甘くて、しかし主張しすぎないので他の料理と合わせてもバランスするという手品のような1枚。なるほど宮廷料理の名前は伊達ではないのが伝わります。とんでもないコックさんなんですよ、フセインシェフは。

 

キール

知ってるキールとなぜこうも違うのだろう、と首を捻るほど美味しいキール。ミルキーで優しく、たまにカルダモンが香って心地よく、と、とにかく上品で隙がないのです。インドのスイーツ、極端に甘いものを想像する人も多いでしょう?インド料理をよく知る人ほどそうだと思うんですが。これはそういうものとは一線を画すもの。どんなジャンルの最後に出てもおかしくない味です。

フレンチでもイタリアンでも中華でも。どんなコースにでも合わせられると思う。それは多分「上品さ」がきちんとあるから。これもすごい。

 

チャイ

これまた完璧。完璧です。まずきちんと紅茶が美味しい。それにきちんと必要なマサラが入ります。ちゃんと濃くて、ミルクとの乖離がなく一体感があって、要するに完璧なのですよ。いろいろなチャイがあるけれど、これはなんというか、完璧という言葉を捧げるべき一杯です。チャイって結構難しいと思っています。本物はなに、と思うこともしばしば。チャイってミルクティじゃないんだよね。それがわかります。

 

そんな締めの上手さから、キールとチャイだけでティータイムを過ごすという使い方もありだと感じました。とはいえ他の料理や軽食なども食べたくなるのは致し方なし。

いや、ちょっととんでもないぞこれは。

思うに、インド料理など食べつけないようなフーディー、グルメ、レストランマニアにこそこの料理を味わって欲しいと思います。スパイスの面白さもさることながら、こういう繊細だったりダイナミックだったりを美しく使い分けができる、大きな幅を持つ世界がインド料理の中に内包されていることを知ってほしい。インド料理マニア以外の人こそここにきて、その世界観を楽しむのがいいと思うのです。

 

そして、感慨深かったこと、もうひとつ。

タンドリーチキンとペシャワーリーナーンを食べたからこそわかることがありました。アジャンタでの仕事の日々も経験をしているフセインシェフ。元々は南インドの料理を中心に据えた料理を提供していたアジャンタですが、時代の流れもありましょう、麹町に店を構えてタンドールも導入。でも似非にならなかったのはフセインシェフの腕前や舌があったからなんだな、きっと。それが伝わってくるような味、愛情、技術なのです。心から感服しました。行かないという選択肢のない店です。

前も書きました。誤解を恐れずに書きますが、いかに自分が普段、インド料理でたいしたことないものを食べていたのかがわかってしまいました。いや、ちがうな、モハマド・フセインシェフのレベルが次元が違うということでしょうか。

とにかくスパイスの使い方、味の決め方のレベルが圧倒的に違うんです。ちょっと言葉にできないなこれは。そういう人が動き出したんですよ。しかも、世界のどこでもなく東京・大森で。

なんだかんだ言いながら、日本では実は足らないピースであったマハラジャが食べていた本物の宮廷料理。それがわたしたちも食べられるようになったということです。

 

今までもあったじゃないか、という声は聞く気になれないんだよ。

モハマド・フセインシェフの料理を食べてから、その話はそれからするべきだよ。