柄ではないのですよ、料理教室。しかし先生をお呼びした手前、自分でも席につかねばいけないと思いました。ちゃんと見せてもらって書きたかったからね。そんな気分であったんですが、料理など、手をちっとも動かさないわたしでありますが、その楽しさに心を持っていかれてしまったんです。
カレーですよ。
下北沢駅南西口にてひと月、わたしもライターの一人として参加している地方創生や手仕事などにフォーカスする「KULAFT」というメディアが先日スタートしました。その流れで「KULAFT」のテーマを内包するカフェ、「KULAFT POPUP CACF」を下北沢駅南西口向かいでひと月のあいだ展開することとなったんです。
そこにお呼びしたのが浜松「アンミッカル」を主催する料理講師である菅沼映里先生。インド料理を教えてくれました。とにかくおもしろい、最初から最後まで目を離しことができない料理教室でした。デモというスタイルで生徒さんは手を動かさず先生が調理を進めながら説明するスタイルです。
まずは座学から。
よく使われるものからそうではないものまで、生徒さん各人の前にスパイスを一通り皿に出してくださってスパイスを実際に舌と鼻で確かめながら話しが進みます。香りや味、食感などをわたしたち生徒も全員直接確かめていきます。もちろん先生の解説で順を追ってという流れです。これがなかなかに楽しいんだよ。
スパイスそれぞれの味や香りをある程度イメージできるわたしですが、実はこういうホールスパイスをひとつずつ嗅ぐ、味わうは久しぶりなのです。ここうやってもう一度やり直し、というか一度にそれぞれを確かめていくチャンスって意外とないものです。香りの輪郭を改めて楽しく理解するひととき。色々とリセットをしてもらえる感じ、かなあ。
ホールのスパイスを噛み締めるたびにいろいろなレストランのカレーの特徴や個性を思い出し、グローブの強いあの店のカレーやカルダモンが爽やかに香るあの店のピクルスなど思い出します。丁寧な説明でとてもわかりやすく、途中頷きや笑いが上がる楽しい時間でした。
そして調理デモが始まります。今回、すごかったな。いわゆるカレーは4種。うち1種はドライタイプ。それに副菜のサブジ(炒め煮)までカバー。これを3時間の講座で全て目の前でデモしてもらえるんです。
火を入れていくとタマネギが柔らかく香り、そこからニンニクがぱっと匂いを広げて。ああこれ、とても幸せ。そして水加減、火加減、時間経過で刻々と変わっていく鍋の中身。それを解説付きで香りの変化を楽しみながら学んでいくんです。なんとも贅沢な時間。
先生がなにか、いや、スパイスなんですが、そういうものを入れるたび、鍋をかき回すたびに香りが変わっていきます。こういうのはね、レシピブックやインターネットでは体験できないんだよねえ。途中途中での味の変化やベースができた時点での味見などもあり、とにかく楽しいんです。生徒さんたちも一所懸命メモをしたりじっと目を逸らさず集中して先生の手先を見つめています。
センスいい講座なんですよ。
時間がかかるダールの鍋は火を入れ始めてからはそんなにいじらなくていいのでたまに手をいれてあとはほおっぽりっぱなし、つまり煮込みなわけです。それがあって、もう一つのコンロでは目まぐるしく鍋の中の様子が変わり、香りが変わり、しかもベースのチキングレイヴィ(あえてこの名で呼んでます)が途中で完成して、それを鍋を分けてやって3つの違う料理に枝分かれさせるんです。
こりゃあすごいなあ。飽きない、楽しい、幾つものレシピをいっぺんに得られてお得、という極めてよい料理教室。うむ、うむ、なんかすごい。柄にもなく見ているうちにその場で手を動かしてみたくなるんだよ。それで、ダール。最後の最後、他の料理があらかた仕上がったタイミングでテンパリング!味付け香り付けををキメるんです。しかもその味がその一閃でバッチリときまる。もうね、惚れ惚れしちゃいます。かっこいいなあ。
言ってしまっていいのか悪いのか、の話し。デモスタイルの料理教室、これはちょっとエンターテイメントに近いのではないかと思ったんです。時間経過とともに加わり、変化する香りと色、そのタイミングタイミングで味見があって、新しい味が体験できて、目の前で出来上がっていく料理。その知識をうちに持ち帰って自分で作らずともかなり楽しい体験だと思うんです。
アシスタント担当の方もすごかったのです。とにかく上手に気配を消すのとものすごく的確にサポートをするのがカッコ良くてねえ。タイミング絶妙の先生の手元にある調理用の水の補充やアイテムの移動など、彼女あってのこの教室の淀みない流れだと確信しました。いろいろまいっちゃいます。
そしてひと息ついて思うのは、わたしのような料理をしないんだけど外食や食事のバックボーンのような話しが好きな人間にとって今回の料理教室は一種「エンターテイメントに近いもの」と感じられてしまったんです。料理教室という括りでやってらっしゃる方にはいささか失礼な言い方となるとは自覚してるんですが、あえて感じたことをそのまま記すよ。
まず座学。興味のあるジャンルなのでとても楽しいんです。そして知ってはいるけど実際に実践、体感はあまりしない「スパイスの現物を見て感触や香りを体感する」というあの最初の時間。刺激的で大変楽しかったな。そしてその記憶が新しいままに料理のデモが始まると「あの味と香りのあれがここでこんなふうに入るのか」「調理の中での変化、こうなのか」など興味深いんです。
調理はとにかく面白いです。食材の計量やカットなどは済んでおり流れが淀むことなく進んでいくのも気持ちがいいんだよね。それで、大事なのがここで、レシピブックでは気付けない匂い、音、色の変化と調理のタイミングがシンクロして、なんだかリズムが出てくるんです。このリズムに乗ると理解がより深まっていくんです。これはあれだ、グルーヴとバイブスという話しだわ。音楽っぽい。
この一連の流れ。すべてがこの後やってくる試食に繋がってて(試食どころではないしっかりした食事となったんですが)、まさにその時を待ちながら期待に胸躍るエンターテイメント感を感じずにおれなかった、というわけです。
作らない人がその流れやライブ感を楽しむという視点で料理教室に足を運ぶのはありなのではなかろうか、どうかな。もちろんその教室のスタイルにも左右されるところは大きいと思います。ただ料理を作る過程とテクニックを見せてもらうのではダメなんだよ。
なぜその工程が必要なのか。その理由の奥の方にその料理の生まれた場所の歴史やカルチャーがあり、それを知り、その上で調理をライブで見て楽しむ。ああ、これやっぱりエンターテイメントに近いものかもしれない。そのことを口に出さず、そっと受講して自分の腹の中だけで調理ライブと料理の歴史や理由を知る、なんていい趣味だと思うな。
いろいろ書きましたが、わたしと所属を同じくする日本のフードスタイリストの祖、マロンさんも同じような楽しみをずっと昔からわたしたちに投げかけてくれていたことを思い出しました。
新しい趣味ができた気分であるぞ。
そうそう、料理の完成写真もね。今回は長くなったので味やら何やらの話しはなしで。写真、見てください。
おいしかったかって?そんなもの、きまってます。
言わずもがな、です。