たまたまだったんですよ。こんないい場所があったのか。何度も通ってたんだけどチャンスなかったもんな。
カレーですよ。
いつも通る道があります。
国道20号を大月で折れて富士吉田に向かう道、国道139号線。富士急行大月線と並行していて、そろそろ禾生駅(かせいって読むんだよ)に差し掛かるあたり。いつでも気になっていてなんとかクルマを止めて見てみたい場所がありました。だけど片側1車線の狭い国道でどうにも止められる場所がないんですよ。
そうやっていつも通り過ぎてばかりいたのですが、この日、たまたま渋滞で(すごく珍しい。渋滞というより先の方のクルマが右折をなかなかできなかったみたい)ほとんど止まりそうなゆっくり走行、細い細い路地があることを発見していそいでウィンカーを出したんです。
見たかったのはレンガでできた橋なんですよ。古そうな橋で、国道から見るとどうも使われていない橋の様子。富士急行の古い橋なのかな、とも思ったんですが、電車の線路はそちら側には通っていないんですよね。色々と謎で、やっとよく見る機会ができたと嬉しくなっておりました。
登山道という看板があったりして、どうやら九鬼山という山への道がここにあるらしい。へえ、そうなんだね。
クルマを止めるとどうやらカフェがあるみたいなんです。よし、ではせっかくなのでコーヒーでも飲もうと立ち寄りました。橋を見渡せるロケーションだったからこれは打ってつけです。
「カフェ 織水」
初めは気がつかなかったんですよ。とてもとても渋い建物で、ちょっと見は倉庫や工場風。近づいてみるとカフェの看板があったんです。入ってみると驚きの洒落たリノベーションが施された気持ちのいい空間。ああ〜これはでっかい当たりを引いてしまったぞ、という予感がぐいぐいときます。
メニューをもらうとおやおや、カレーがあるではないか。
そりゃもう渡りに船と頼んじゃいます。コーヒーがつくセットにしてもらいました。
「織水カレー」
カレー、大変に良かったんです。美味しかった。
スパイスのエッヂが効いているのに穏やかさを感じる不思議なかんじ。多分それは存在感大きいあのひき肉のせいじゃないかな。挽肉がとても美味しいんですよ。ミンチが荒く、ちょうどステーキ肉を叩いた感じ、あれを粗く手切りした感があります。これはちょっとたまらないねえ。
五穀米でしょうか。きれいな色のついたごはんからはほんのりと甘みも感じられます。
コーヒーもたっぷり注いでくださってうれしかったな。
他の料理や焼き菓子など、ヴィーガン対応もしているようで近隣にやってくる外国人のカスタマーたちは心強いだろうね。頼もしいお店です。
店主の男性が話しかけてくれてとても楽しかったんですよ。
レンガの橋が見たかったことを話すと色々教えてくれました。あの橋は実は橋といっても水道橋なのだそう。「駒橋発電所落合水路橋」と呼ばれており、明治40年からここにあるんだそうです。古いねえ。驚いたことにこの登録有形文化財の水路橋はそんなに古いのに現役、未だ1秒当に約25立方メートルの水を大月市の駒橋発電所へ送っているのだとか。なるほどねえ。
1900年代初頭、日露戦争の時代からの絶えざる現役というわけです。昔々は水路橋の脇に人が通れる通路もあって渡れた時期があったそうで、そんな写真も見せてくださいました。
「カフェ 織水」の建物から橋がよく見えるんです。その橋の上を流れる水路とは別にここ、織水の足元にも川が流れていて、水音が聞こえてきます。「雨の日や雪の日の景色がいいのですよ」と御店主。うんうん、さもありなん。わたしも別の天候の日に立ち寄ってみたいですね。雨や雪の日のクルマの運転、好きなので。クルマの足元固めて冬にも来ようと決めました。
店のリノベーションはご店主自ら手を動かしたそうで、とにかく見どころが多いんです。貴重な古いガラスは波打っていて美しくて、それを通して見る景色はまるで時代のフィルターをかけるかのように景色の輪郭を柔らかく見せてくれます。網戸からは快適な川風が入ってくるし。ほんとうにここは天国のようだよ。
大変に救われた気持ちになったのです。
店主、わたしに話しかけてくれます。感音性難聴で耳がよく聞こえないわたし、聞き返したりするとちょっと声を大きくしてくれてあきらめずに、近づいておしゃべりを続けてくれました。これだけのことで物理的な意味以上に気持ちが救われます。それこそがとても大切なもので、わたしが求めているものだったような気がします。
耳がよく聞こえないと言うことでともすれば自らコミュニケーションを諦めてしまうというところが最近の傾向として自分の中にあることには気がついていました。自分でも切ない気持ちでいっぱいなのですけど、いかんともしがたい。それで知り合いの店から足が遠のくなどあるわけですが(行けばおしゃべりをしたくないわけがなくて、でもなかなか難儀で、それがちょっとなんというか辛くてね)こういうことがあると何か前に進む勇気をもらえるような気分になる。うれしいです。
それもあるし、ほかの要素もたくさんあるし。また来たくなる要素が多くて嬉しい。
また早々に立ち寄ります。今度は誰かと一緒にこよう。この気持ちよさのお裾分けをしてみたい。
待っててください。