大滝店主のところにおしゃべりに行きました。
白子たまねぎたくさんあったので持っていきました。ちょっとおしゃべりしてたら勝手にラーメンが出てきたよ。もう慣れました。
カレーですよ。
油断しているとすぐにラーメンの試作とかごはん物の試作とかいろんなことを言いながら食べさせにかかってくる大滝天守が大好きです。
油断していると、ラーメン店なのになぜだかカレー味、スパイス味のものを繰り出してくるこのお店が大好きです。
「拉麺5510」
はうちからちょっと出た通りの並びにあります。
このお店が近所にあって本当にありがたい。大好きなんです。20年近くラーメン苦手できたんだけど、このお店でそれ、変わったなあ。
いま、なんにも言わないで出てきたこれは「ほんいつ」本日の一杯という日替わりの定番ではないラーメンです。名付けて、
「ほんいつ~鶏塩雲呑麺」
ワンタンだね。それで、塩ラーメンだ。シンプルな感じなんじゃはないだろうかねえ。
そう思って食べてみると、これがね、すごいんです。打ちのめされます、いやホント。
すごいんだよいろいろと。なんかとんでもない。
まず、油。油、すごいです。
スープの水面に少し輪を描く黄色く澄んだ油が美しく黄色く光ります。スープと一緒に口に含むと、あれっ!これはなんだろう、このスパイスの香り、なんだっけ。香ばしくてちょっとクミンのようなカレーリーフのようなニュアンスで、、、
「これ、葉山椒なんですよ。」
ええ?!これが?南アジアのスパイスの香りそのまんまな気がするんだけど。
「熱して香りを油にうつしたんです。」
なんと!これは面白い。インド料理界隈の人であればよく知っているテンパリングの手法ですね。だけどアジア的スパイスの香りが山椒からっていうのには驚いた。なんというセンス。すごいなあ。
そしてさらに面白いのがね、油だけ口に含むと香りがしないんですよ。なんで?なんでだ?
例のヤバイ日本酒使いの深旨い塩出汁スープと合わせて初めて香りがあがるこの不思議。いや〜これはちょっとすごいぞ。面白すぎて何度も試してしまいます。香りが出たり引っ込んだり。いったいこれはなんなのだろう。
麺をすすると今度は小麦粉の香りが強く香って山椒の香りが後に下がります。小麦粉の香りが勝っているということだね。すごいなあ、なんでこんなコントロールできるんだろうか。
さあ、次は大滝店主がカレーワンタンとなんか軽くさらりと呼ぶこれ。これがまた驚くべきものだったんです。
噛みつくと、、、あっスパイスの香りが強い。強いなあ。これはうまいなあ。とてもうまい。
面白いのがこれ、なぜワンタンなのかということ。少し考察するとやはりそう。味変、でしょ。
ラーメン店の味変という概念はカレー脳ではなかなか構築しづらいものだと考えているんだよね。ラーメンの味変は色々な場所に仕掛けがあって、食べ進めていくと自動的に味変が始まる感じだと思っています。ちょっと洒落てみると、まるで物語をなぞるような感覚、とでも言いましょうか。
カレーではどちらかというと食べ手が自ら能動的に変えにいくというのが普通で、変化の流れやストーリーを作るという概念はあまりないのではなかろうか。あってもラーメンよりももう少し荒っぽいものと感じます。
面白さはまだあって、このカレーワンタン、キーマカレーをワンタンで包んだようなもの、と店主はいうんですけど「それ、違うでしょ。わざと言ってるでしょ。カレーじゃないよねこれ」というとニヤニヤしながら認めてきます。カレーにしてしまってはダメなんですよ。カレーじゃダメなの。強い個性だけどご飯に乗せて食べるものではないし。いや、それも合うと思うけど、ここはやっぱり意図通りにラーメンの上で使うものだとおもいます。これを食べるとまたも先ほどの葉山椒のかおりがスーッと奥に引っ込んでカレーワンタンのじょうずにバランスしたスパイスの香りが前へ出る。ちょっと奇跡を感じるバランス感。すげー。
食べ終わってごちそうさまするとまた中で何か動きが見えます。
あ、ヤバイな、と思うまもなく「はい、デザート」
ちがうから。デザートちがうから。
でももう無抵抗のまま受け入れます。「キーマカレーご飯」であります。
ところがこれもまた曲者。カレーに見えてカレーでない。日本人は煮込みかけご飯をカレーと認識するわけですが、決定的なキーになるのがほんの少しでもいいのでスパイスらしきものが入っていること。これがないとただの「かけご飯」と認識するんです。これはかけご飯。
けど、すごいぞこれ。カレーの手前での寸止め感が天才的で、ニンニクを入れてあるのにそのニンニクだけ摘み出して食べるとニンニクの匂いがしない。なのに全体で食べるとニンニクの香りありという、なんだかラーメンもご飯も悪い魔法使われてるんじゃないかと思うくらいの悪魔的仕上がり。
いや、すごいものを食べてしまった。なんだったんだあれは。
大滝店主、なんなんだ、あの人は。