いえね、そりゃあもうこういうのはけっして褒められたことではなのですが、しかし、
こういうこともあるから面白いのがレトルトカレーや冷凍カレー。ちょっととんでもない体験をしました。
カレーですよ。
簡単にいっちゃえば古い冷凍カレーがたまたま残っていました、というだけのお話し。でもね、そういう簡単に言ってしまえるものじゃなかったのですよ、発見されたカレーが。
ほんとうにね、まるでタイムマシンのようだった。
いや、違うな。コールドスリープという言い方の方がなんとなくしっくりきます。
うちの奥さんが冷凍庫を整理してて、いろいろときれいにしてくれました。「冷凍のカレー、まとめておいたからね」と教えてくれました。
最近のコロナ渦で冷凍カレーのニーズの高まりとともにそういう製品のレビューや意見を求められることも多くなりました。それで、冷凍のストックもそこそこいつでも数があって、冷凍庫の大きい冷蔵庫に買い換えをしたいな、なんて思っています。そんななかでまとめてくれた冷凍カレーの中に見慣れないパックを見つけたんです。
いや、見慣れない、は間違い。見慣れたサイズの冷凍パックで、何度も注文しては食べてを繰り返した見慣れたパック。
それが世界から失われてからもう5年どころではないはずです。
冷凍で、なぜだかすごく状態よくここ、2020年までやってきてくれたカレー。まったくと言っていいほどあの頃と変わらずに美しいまま、時を越えてやってきたですよ、そのカレーは。そのブランド名は、
「ハマルカレー」
ちょっと震えました。
爆発的においしい、そして当時はこういう味の調整は存在していなかった、今でもまったく遜色なく現代のカレーと戦えて、それを越えていくポテンシャルを持つすごいやつなんです。
自分のいろいろな執筆原稿をまとめたテキストファイルを検索してみたのですが、最後にクール便が届いて食べたのが2011年の冬のことのようでした。
なんということだ。そんなに経っているのか。本当にそうなのかな。ほんとうにもうそんなに経ったの?
実はその後2018年に同じように冷凍庫で発見したハマルカレーの「チキンと野菜」を食べた原稿も出てきました。さてこれは、
「チキン」
です。
お湯を沸かして湯煎調理。わかってはいますけれど、やっぱりそうだ、これは間違い無くハマルカレー。湯煎の時点で途中から隠しようのないクローブやシナモンの甘い香りがふわりと漂います。
骨付きチキンが2本とゆで卵。そうそうこれだ。これだよね。
食べればすぐにやってくる、明らかに発酵調味料由来だとわかるまろみのしあわせ。
そこから追っかけでやってくる辛さの大きなうねり。そのままずっと口の中は大辛のままなのに全然嫌じゃない、あの感覚。ああ、あなんとうことだ。
このメンマの食感。味のよく染みたおでんの卵の如き甘みと旨味深い茹で卵。そしてこれ以上ないくらい骨離れのいいチキンの旨味。
まったくおかしいぞ。昨日届いて冷凍庫に入れたような、あの頃と何も変わらない味や香り。逆に怖くなってきます。自分の舌や鼻が思い出の補正が入ってバカになってるんじゃないか。いや、それは違うな。ただもうそのままなんだ、これ。そのまま8年前のままなんだ、そうなんだ。
時など止まったままだったのではないのかしら。いまは2009年なのではないの?
そんな感想しか出ませんでした。
息が詰まるような短い食事の時間が終わり、食べ終わったところで夢が、できてしまいました。
わたしじゃなくてもいいんです。
伊藤シェフから教わって、一之江のあの工房でハマルカレーを製造してみたい。ハマルカレーを再起動。いまこそ再びあの素晴らしい味を世に問うてみたい。そう思ったんです。
伊藤シェフはお元気でしょうか。