ホームページからお問い合わせ、お誘いをいただきました。最近なかなかチャンスがなかったホテルのカレー。が、いつもの定番ではないんですよ。どうやらフェアをやっていてフェア期間内のシーズナルメニューでカレーがあるらしいのです。願ってもいないチャンスがやってきました。
カレーですよ。
そのホテルまではわりと近いんです。そうだった。
デジタルキッチンからタクシーで15分。わかっているつもりではありましたが、日比谷界隈、大変に近いなあ。なかなか用事がなかったうえに折からのウィルス蔓延でご縁のなかったホテルでの食事。ずいぶん久しぶりです。
お誘いをくださったのは、
「帝国ホテル」
そして帝国ホテルといえばご存知の定番、あのカレー。
「帝国ホテル特製カレー」は野菜カレーとビーフカレー、海老フライのカレーの3種が用意されています。有名なメニューですね。あの場所で食べると3000円前後という価格は大いにリーズナブルであるとよくわかるんです。
今回、本館1階のオールデイダイニング
「パークサイドダイナー」
で提供されるカレーフェアの3種の料理の中で注目のひと皿。
「深谷ねぎカレー ~初代会長 渋沢栄一にオマージュを込めて~」
というもの。
凝ったメニューであるにも関わらず定番のカレーとほぼ同じ価格でのラインナップです。
ホテルという空間。その特性はサービス、カスタマーファーストというものを旨とする場所です。自分での安全管理こそ大切である今ですが、それ以上にホテルという空間は安全を感じさせる穏やかな空気があります。伝統ある独立系名門ホテルなら尚更のこと。
こういう言い方もなんですけど、外の雑踏の無秩序と誰ぞわからぬ人々の往来と比べ、厚いフィルターを通してこの場所にいる人が限定され、尚且つホテルマンの皆さんの目配りが行き届く空間。思わず肩から力が抜けていきます。安心、快適がありました。
広報のご担当が案内してくださり、 「パークサイドダイナー」へ。
今回のカレーフェアの概要や取り組みなどを少し伺いました。
このカレーのバックボーンを伺ったのですが、なかなか楽しいものなんですよ。
**帝国ホテル様ホームページ「カレーフェア [パークサイドダイナー]」より**
このカレー、帝国ホテル 第14代東京料理長の杉本雄シェフの考案、渾身のひと皿。帝国ホテル初代会長の渋沢栄一氏にオマージュを込めたひと皿なのです。渋沢初代会長の出身地、埼玉県深谷市の名産、深谷ねぎを使用、その持ち味の甘味や苦味、辛味などを引き出しカレーソースの旨味とコクに結びつけています。ねぎの青い部分から作ったオイルでライスを和え、美しい色と旨みを作り出しているのがすごい。白い部分はグリルして焼き目をつけ、その甘みを存分に引き出してあります。
肉の産地のチョイスまでこだわり、深谷市の「むさし麦豚」を低温調理で柔らかくジューシーに仕上げ、 赤玉ねぎ、ピーマン、 新芽のコリアンダー添えとして着地させています。表面を焼いたライムが添えてあり、好みでしぼって食べるという提案も大変面白いです。
杉本シェフに伺うと、帝国ホテルには著名人ゆかりのさまざまなメニューがあるのだそう。ホテルに縁ある著名人の方々に喜んでもらえる味、というコンセプトでメニューを考え抜いた、歴代シェフたちに続く渾身のメニューの数々なのです。今回の「深谷 ねぎカレー」も、もし渋沢栄一翁に食べていただけるなら、という想いからの創作。そのバックボーン、ストーリーに1867年、当時 27歳だった渋沢氏がパリ万博幕府使節団の一員として旅に出た様子を綴った「航西日記」の中の記述に、立ち寄ったセイロンでカレーに出会ったという一文を見つけ(すごい!)また渋沢氏の出身地、埼玉県深谷市の特産物である深谷ねぎとむさし麦豚にフォーカス、カレーという形でメニューを完成させたのだそうです。
そんなお話しのあとほどなくしてカレーがやってきました。
見目麗しい、そんな言葉を思い出すこの緑色の美しいカレー。驚いたのはカレーソースだけではなくごはんも美しい緑色だったこと。これだけ綺麗な色を出しているということはちょいと強い味なんではなかろうか、と想像しました。
まずごはんを口に入れると意外や薄味だね。当然ながらカレーソースと合わせるためのチューニングです。この美しい色は深谷ねぎの頭の緑色の部分をで作ったオイルで和えて完成させているそう。ごはんだけでいける塩加減のもう2歩手前という感じて、どこからかほんの少し辛味も感じる気がします。
カレーソースが美しい。緑色のカレー、シチューとくればタイのゲーンキャオワーン、タイグリーンカレー。それとインドのサーグを思い出しますよね。からし菜やほうれん草など使うカレーです。しかしこの「深谷ねぎカレー」の美しい緑はどちらにも属さない澄んだ緑色。
ゲーンキャオワーンはココナツミルクを使い、どうしてもチャオプラヤーのようなくすんだ緑になります。インドのサーグもここまで彩度は高くないですね。そんなことを思いながらスプーンを口に運ぶと、これが意外。カレーソース、バターやクリームなど乳製品の厚みある風味を感じるんですよ。緑色でカレーとくればどうもやはりアジアの料理を思い浮かべてしまうクセがあります。こらはそれとはちょっとニュアンスが違うもの。
帝国ホテルのカレーソース、その土台になるのは昭和初期に第8代料理長の石渡文治郎シェフが ヨーロッパ修行中「近代フランス料理の父」であるオーギュスト・エスコフィエ氏の直弟子となり習得した味を原型としています。みじん切りのたまねぎ、にんにく、生姜などの野菜をバターでしっかりと炒めたものにカレー粉を 加えブイヨンでのばしたものを、裏ごしせずに野菜のつぶつぶ感を残して 仕上げるスタイル。この伝統のカレーソースを祖としてスパイスなどでアレンジされたものが定番の「帝国ホテル特製カレー」。
そのバックボーンをこの緑色のカレーソースの奥の方にももちらりと感じさせる仕上がりなのです。
添えられた深谷ねぎ、ローストされたそれはシンプルでおかしないじり方をされずに素直なとろみと甘味が引き出されています。青臭さなく風味豊かであおあおしくて。添えられたライムには表面に焦げ目をつけてあるのがおもしろいんです。なんでだろう。気になります。
むさし麦豚のローストポークは上品でおいしくて、悲鳴が上がりそう。きちんとカレーソースにあっていてカレーソースの強さにまけていないのが素晴らしいですね。
エスニックと欧風の間にある何かという感。しかしカレーとしてのそのジャンルが思い当たらないんです。それはつまり、オリジナリティ。この世にないものを創造する、ジャンルという区分けを意味ないものにするこのひと皿は大いに楽しめる、気迫こもるものでした。
ひととおおりいただいて、マンゴーラッシーやハイジンジャーをいただきながら広報ご担当としばしお話し。その中で思ったのがホテルのヘリテイジをうまく結びつけたメニューの楽しさでした。
渋沢栄一氏を料理のキーにするというのは、とうぜんながら氏を初代会長として頂く帝国ホテル以外では生み出せないストーリーです。帝国ホテルのレストランならではのアプローチなのですね。残念ながら新しいホテルや外資系チェーンには、どうやっても真似ができない部分といえましょう。
独立系の深い歴史を持つホテルならではの、太く厚みあるバックボーンからのひと皿がこのカレー。
そういうものを含めた想いも一緒に食べるというところにこのひと皿の価値があるのです。
https://www.imperialhotel.co.jp/j/tokyo/restaurant/parkside_diner/plan/curry_fair.html