丁寧なカレーはたくさんあると思います。丁寧なカレーでかつ比較するものがあまりないというもの、そちらは多くないかもしれない。その多くない店の一つが鴨川、江見吉浦にあるんです。ちょいと遠いんだけど思い出しては通っています。
カレーですよ。
安房鴨川から千倉方面に少し走った江見吉浦という港のそば、128号線沿いの崖の上にそのお店はあります。
道路を挟んで向こう側は太平洋というロケーション。店内、天井の高い居心地いい雰囲気でね。
前回来た時に後から調べて知ったことがありました。シェフはホテルニューオータニに40年もいらっしゃった方なのです。丁寧な仕事や味の向いている方向などいろいろ合点がいったものでした。その店の名前は、
「ライバック」
あんな値段で出しちゃいけないと強く思った価値あるカレーと料理。なんというか、正しくカレーやさんのカレーライスの値段なのですがひとくち食べるとあっと驚いて申し訳なくなるんです。安すぎるのがわかるんです。この夜もどうにもまた食べたくなってやってきました。
気取らないテレビが流れる雰囲気と手書きのメニュー表。値段帯は600円台から1100円ほどとお手軽すぎ。なのにサラダとミネストローネがつくんだよ。そしてそのサラダとミネストローネ自体にちゃんと価値があるんです。
メニューではジビエ推しの様子で猪や鹿のカツカレーなどあっておもしろいです。鯨カツのカレーやハチノスカレー(これは前回食べました)など素通りし難いメニューも多いんですが、決して変わり肉だけを売りにしているわけではないんだよ。この日は、
「煮込みビーフカレー」
を注文。すごいものでした。
まずは前回同様、サラダとスープ。これを楽しみにしていました。シンプルなのですがその分余計に良さが際立つ料理。スープはミネストローネです。洒落ているしすごくいいんです。強い旨味を感じるのに口の中で軽やかさを保つのが驚き。サラダも木訥に見えてきちんとドレッシングも自家製でうれしさひとしお。ああ、うまい。楽しい。
さて、カレーです。
ビーフ煮込みは別調理。普段は別調理にがっかりさせられることもあるんですがここのは全く違うんです。考え方が違うのだと思います。普通だと別調理の具材は利便性から。カレー鍋で具材をいっしょに煮込んでしまうとなんだかんだで手をかけないと出涸らしになってしまうことも多い。またカレーソース自体が一つの具材の味になってしまい多品種の具材に合わせづらくなる。だから別調理にするわけです。
でもライバックは違う。
たとえばビーフに対して一番いい調理を施すために、そういう理由のために別煮込みになっているのです。そういうものが伝わる味と内容なんですよ。驚かされます。
カレーに入ったお肉、という捉え方で食べると舌に激震走ります。まったくそういうものではない。素晴らしい食感と想像を遥かに越える美味しさ。なんだこれは、とつい言葉がでてしまうんです。
なんというかな、赤くないローストビーフというか、自分の舌を食べているような一体感というか、ちょっと表現がむつかしい素晴らしいもの。
カレーソース、カレーと単純に呼ぶとバチが当たりそうな良いものです。これはレストラン料理の「ソース」のポジションだと感じます。それがソースよりも少し多めにサーブされるという感がね、あるんです。
辛く、香り高く、奥行き深い味。「皿に敷いてある」のが西洋料理のソースの使い方、そのお作法に則しているのが目で見て確認できます。
カレーソースに混ぜ物はしない一本気なスタイルで手間がかかっている、技術が必要である、そういうものが無言でひたひたと伝わってくる凄みがあるんだよ。焙煎深い玉ねぎの旨味がうわーっと舌に集まってくる驚き。香ばしく、濃厚だけどいつまでもぐずぐずと舌の上に残らない幕引きに脱帽。
そしてその脱帽したハゲあたまはすでに汗でいっぱい。きちんと辛いけど過ぎたものではなくバランスが良いのです。その中でしっかりと汗をかかされてしましました。
ホテルニューオータニに40年もいらっしゃったというのがなるほど、こうなるか。こうなるよね、と納得いきます。
手抜きなく、どれもきちんとした料理。それが1000円札1枚とちょいちょいというのはいけない。もったいない。そういうのがなんだか嬉しくなってしまい、調子に乗って持ち帰りも頼んでしまいました。
選んだのはカレーではなく酒のつまみになるようなもの。猪カツを頂いて帰ることになりました。いやね、。生意気を言うわけではなく、心からなんですが、もう少しお金を落としたかったんですよ。何もかもが安すぎるから。こんなに手の込んだものがなぜ、と頭を抱えるようなお値段。もっとお金使わないと。
そして追加でお願いしたものがまた、安すぎる。うーん、悩ましきループに陥ってしまう。
持ち帰ってお酒を飲みました。
猪カツ
軽やかな旨味としっかりした、かたいのとは違う歯応えと。余計な調味料要らずで美味しく食べられます。後味に残る香り風味が豚と少し違うように感じるのは先入観でしょうか。クセもなく美味しいよいもので、なるほどあのカレーソースに合わせると楽しいものになるだろうと想像できます。他にも鹿肉を使ったものもあったよ。
生ハム
しっかりした食感の旨味強い生ハム。しっとり感と噛んでいく中あふれる旨味で酒が進み、その役割を果たして有り余る。ああ、これたまらんなあ。
鴨のロースト
うわーこれおいしい、と深夜に思わず呟きました。まろやかで、脂がしっかり乗っていて、舌触りも官能的な厚みある鴨ロースト。これは絶品だな。高級なステーキのニュアンスに似ると感じます。
お陰で深夜、大いにワインが進みました。久しぶりにお家で飲んだなあ。
食べに行ってお土産も買う、は楽しいことだね。部屋にまっすぐ帰れるときは忘れず実践しよう。またお邪魔しないとなあ。