カレーですよ4747(甲府昭和 錦記飯店)周富徳さんの広東名菜富徳の料理長と甲府で出会う。

きっかけは例によってGoogleマップなんですけどね。Googleマップはご存知の通りGPSの地域情報とキーワード検索で情報が地図上に出てくるんですが、なかなかこう、なんというか「ここ紹介するの?」という面白い検索結果がでてきて毎度無視できないんです。

 

 

カレーですよ。

 

 

たとえば食べログやらなんやらで出てくる店は結局は星の数というアテにならないランキングの要素も多く入るため、ありがち、偏りがちな結果が出る感があって偶然の出会いを感じさせるお店はひっかからないなあ、と感じます。日々下調べをせずに行き当たりばったりで偶然の出会いを求めるわたしのスタイルにおいてはその延長と感じられるGoogleマップの検索(Google検索ではないよ)結果はちょっと楽しいのです。

そうやってこの夜、甲府の道端でカレーの神様からの啓示で指し示されたのがここ。甲府昭和にある中国広東料理のレストラン、

 

「錦記飯店」

 

だったのです。

 

なんで中華料理店が出て来たかというと、Googleマップのレビュー記載の文中にカレーのキーワードが出ていたから。

「カレーを食べたかったのだがやっぱり麻婆豆腐も食べたかったので中華屋に行った」みたいなレビューでも引っかかって来ちゃうところが面白くて、そのノイズをアナログ(自分の目と脳)で除去していくと意外な店に辿り着くんですよ。ノイズ除去中に「中華街の中国料理店で食べたようなカレー」という記載が目に止まり、これは!とやってきました。多少のスキルも必要、というわけです。

果たしてこのお店、なんだこれ全部極上!!うーん、驚いた。間違いのない美味しい料理が出て来ておどろいたんですよ。

注文はカレーライスと餃子。なんというか、その物言い、字面と組み合わせがとてもチープで雑多なものに感じられる注文をしてしまったんですけどね、しかしてその実態、上品かつ繊細な料理がやって来たんであるよ。すごいんだよ。

 

特製咖喱牛腩飯

これがここでのカレーライスの呼び名です。ひと目見た印象で思わず笑顔になるような大盛り具合とごはんがみえないくらいかけられたカレーの愚直な茶色いビジュアル。期待させるねえ。

食べてみると、ああ、いいこれ。強すぎないとろみと牛バラ煮込みの強烈な旨味と舌を撫でくる食感に気持ちをさらわれて戻ってこれません。牛バラ肉がね、ちょっとすごい。西洋料理の煮込みでスジがバラバラになるあれとは少しニュアンスが違うほろっと具合の仕上がりといかにも中華な味付けで感激させられます。

レンコンのパリパリとした感じ、タマネギのシャッキリ感、マッシュルームの舌に絡んでくる柔らかさ、どれもいいなあ。ここらへんも変化が出てとても楽しいです。酸味が前に出て主役を張るのが個性的でおいしくて記憶に残ります。ギリギリのセンをいく咖喱味。カレーにしてカレーにあらず。なにかカレー味のカレーに似たものを食べた、の感が残りました。そこがよかった。これぞ中華咖喱なり、と思うわけです。ああ、こりゃあすごいなあ。

 

餃子

あえての焼き餃子を頼みました。これがまたすごかった。野菜の旨みでぐいっと舌を掴まれる優しいお味。キャベツの風味が穏やかに味の真ん中を支配して、適量のお肉とその肉汁が周りをやわらく囲むという陣容。パンチ方面ではない、ジャパニーズギョーザではない、中国料理の餃子そのものです。

肉汁も上品でこれはもういくらでも食べられるやつだよあぶないなあ。焼きでこれだけ立派な美味しさなんですから水餃子でもすごいんじゃないかなあ。むしろそっちが、すごいんじゃないか。また食べにこないといけないな。

 

ついて来たスープがね、これまたものすごく上品だった。こんなものサービスで出してしまうのかよ。とんでもないなあ。

お塩、忘れたかな、と、いやいやいや、そうじゃなくて、という、そういう狭間で舌を試される感じに圧倒されます。それくらい繊細な味なんですよ。濃いめの味大好きの下賎なわたしでさえ醤油投入を大いに躊躇う凄み、どっしり感があります。コックさんの実力がひしひしと伝わってきてちょっとこわい。

 

最後に杏仁豆腐までついて来ました。あ、これ手作りだ、とひとくちでわかる杏仁豆腐。おかしな角が立つ感じもケミカルな感じもいっさいない、儚い、夢のようなふわりとした感じの食感と香り。

ああ〜もうなんか、とても真面目で良い杏仁豆腐だよ。

どれもなんといいましょうか、「中華屋のメシ」ではなくて「中国民族料理の土着ごはん」でもなくて「中国料理のレストランでの食事」と思わせてくれる立派なものでした。店は飾らないカジュアルな雰囲気で悪くない雰囲気です。その分出てくる料理の品質の高さに驚かされるというわけです。

店の雰囲気をあれこれ言う人が多い某コメント欄でしたが、そういう人たちは何が好きなんだろうねえ。どういう雰囲気がいいと思ってるんだろう。店のインテリア、ファミレスみたいのしか知らないんじゃなかな。そういうのばっかり望むと世の中がのっぺりした画一的世界になっちゃうよ。自分から楽しみを迎えにいかないと。そういうスタンスじゃないと広い世の中を楽しめないと思ます。

中華料理にはカレーライスはありません。カレー粉のその風味を生かしたり下味に使ったりという応用はあるのですが、王道のカレーライス文化はなかなか根付かないまま現代に至っています。

ハウスもエスビーも30年以上頑張って来て少し状況は変わっては来ているみたいですけど。

日本には中華咖喱といわれるジャンルもあるにはありますが、見方と切り口では果たしてこれはカレーか、というものも多いわけです。王道のカレーライススタイルのものもありますが、それはもはやニッポンのカレーライスなんだよね。その少し輪郭がぼやける感じが中華咖喱らしくていいな、と思うのです。

 

そんなことを考えながら、お腹も落ち着いて壁の新聞の切り抜きを眺めるでもなく眺めていると、なるほど納得。こりゃあ大変なお店だったよ。

18年の営業を続けるここ「錦記飯店」、オーナーシェフ易錦燊さんは腕のある広東料理、香港料理の料理人で周富徳氏の弟子筋に当たる方。香港のトップクラスのホテルでの経験を生かし来日、聘珍樓池袋店料理長、御殿山ラフォーレ中華料理長を経て周富徳氏の店、広東名菜富徳で料理長という経歴を持った方だった。

そりゃあそうだ。あの味、あの繊細さ。いやはや納得、驚きました。

やっぱり行き当たりばったり旅はたのしいねえ。

こんなすごい出会いが待ってるのです。