通い始めたのはそうだなあ、80年代半ばからくらいじゃなかったかなあ。随分若い頃からどうにも通っちゃうんですよ。頻繁ってわけじゃないですが、でもずっといってるな。
カレーですよ。
たしかね、お店のドアが紫色のガラス扉だったんじゃないかな、昔。
その頃から通っています。
覚えてる覚えてる。テーブル、確か天板はベージュだったと思う。「日印友好」って天板に大書きされていてね、それを眺めながらムルギーランチを頬張ってました。
「ナイルレストラン」
はもう好きとか大事とか個人レベルの話しではなくね、カレー遺産なわけで、カレー国宝なわけで、とにかく日本の食の歴史重要点。
初代のA.M.ナイルさんにお声をかけられた記憶も残ってます。これは後で善己さんに聞いて確かめました。「ああ、多分それじいちゃんです」と言ってました。
実はむかしむかし、わたしは歌舞伎座裏の焼鳥屋の雇われをやってたことがあります。自分の店のランチ営業が終わってからでも通し営業だから飯食わせてもらえるんだよね、ナイルレストランは。前掛け姿のまま邪魔したなんてこともありましたがそんなお客も差別なくもてなしてくれる懐深さがあるのがナイルレストランです。歌舞伎役者も焼鳥屋の店員ももここでは平等。最高だと思うよ。
そんな思い出なんてのもある店でのいつもの、
「ムルギーランチ」
こだわりがあって、店のにいさんがたに言われる前にこちらから「ムルギランチください!」というのです。そう決めてます(笑)
キャベツの甘み、マッシュポテトのまろやかさとチキンの滋味深い味わい。よく混ぜて味がちゃんと行き渡ったごはんをほおばって、口の中一杯にしてやるとぐいぐい広がる幸せ感。これぞ完全無欠のひと皿なのですよ。
これね、おもしろいし不思議なメニューだな、と思っています。
ムルギーランチは誰もがおいしいと思う、間口の広さがありますが、実は奥も深いんです。思うに食べ手の舌の経験が多くなるにつれ新しい気づきを与えてくれて、真実に近づけるっていうね。そんな気がしています。
素材の良さやこだわりからの深み、でっぱりへっこみをつける今風にはしない調和というものがある正しいスパイス遣い。混ぜて食べることで出てくる美味しさ。どの要素もムルギーランチには必須のものです。そういうのがわかるまでにわたしは30年かかりました。
そこで一旦出した答えが「これはインド料理とカレーライスを繋ぐミッシングリンクなのではないか」というものです。
どこのレストランもそういういものはあると思うのですが、ここナイルレストランにも変えてはいけない絶対の味というものがあリます。伝統のレシピを決して動かさない決意がなければいけない。しかしその対になる、時代を見て新しいチャレンジを常に続ける力。その両方がないと店は続かないし、善己さんにはそれがあるよな、と納得がいくんです。おしゃべるする度ににそう思う。
「自分の代で創業100年ですから。伝統を守る責務を全うせねばならないのです。」と言ってた横顔はかっこよかったよ。