その日は大好きなパン屋さんにいたのです。大網白里、季美の森。それで、なにもかもが信じられないほど幸せになって、パン屋さんを出て、そのあとふと我に帰ってホームセンターに行かねばいけないことに気がつきました。ちょっとみたい、確かめたいものがあったんだよね。
カレーなしよ。
コメリに寄ったけど未達成。ケイヨーD2によって、またも未達成でどうするかな、と思っていると陽が落ちました。
うん、いいや、今日は。晩メシが優先だ。
気づけば東金にいました。ケイヨーD2東金店。126号線沿いのその道をもう少し先に行けばあの店があるではないですか。
そっか、そういうルートだわこれ。あそこはどうにも好きなのです。決めた。
「なかよしドライブイン」
に行こう。ヅケ定食を食べよう。そうします。
薄れてよく見えない看板がどうにも好きなのです。広い駐車場の真ん中で強く存在感を主張する看板。店の窓には灯りが灯っており、調理場のお父さんが料理をしている様子がうっすら見えました。
さてと。
常連さんらしき1組が楽しそうにやっています。わたしはよそ者。そっと気配を抑えて小さくこんばんわを言って席に着きました。おかあさんが注文を聞いてくれます。残念、カツオは売り切れで、
「マグロにんにく醤油漬け定食」
をお願いすることにしました。
昔は土間だったんだろうな、とわかるコンクリ打ちっ放しの床。家の居間のような畳敷の小上がり。とても心地よい店です。こういうのが好きだな。ピカピカツルツルよりもこういうのがいい。
さて、嬉しさ込み上げる「マグロにんにく醤油漬け定食」がこれですよ。アルミの四角い給食盆に乗ってやってくるのも堪らぬ嬉しさなのです。
シンプルで「こういうのがいいんだよ」と思わず独りごちてしまう正しき定食屋の定食。これだ、これだ、と頭が喜んでいます。ごはんがたくさんで、漬物も味付けのりも、その大盛りごはんを食べさせるために機能するのがわかる構成。しかもマグロのにんにく醤油漬けは問答無用の強い味で多分ちゃんとバランスを考えるとこの大盛りのごはんのあと0.5倍プラスでも余裕でクリアするであろう味。まったくもって、こういうのがいいよ。たまらんよ。
たっぷりの白メシと味噌汁、沢庵に味付けのり。そしてマグロにんにく醤油漬け。ぱっと見醤油の中に沈んだマグロがどれくらい入っているのかわからないんです。それて箸を突っ込んでみるとあんぐりと顎が下がるのです。底の底までみっちり、なのよ。これは大変、食べる前からごはん不足の不安を抱えてしまう量です。
マグロの上にどかっと乗せられたニンニクおろしが一層不安を煽ってきます。スペクタクル、まさにそれだよ。食べ始めれば濃い醤油の味とピリピリと舌に刺激が来る大量のニンニクおろしによって盛りの良いどんぶりメシがどんどん減っていきます。これはたまらないなあ!マグロの味どこに、という輩もいるでしょう。これはこれで良いの。こういうのが食べたいの。これでいい。まったくこれがいい。
みるみるうちにお腹はふくらんで、ほっと一息。
なんというのか、この定食、このマグロにんにく醤油漬けが、という話だけではないのだよね。この場所の空気やそれを作っているのであろう常連さんたちとおとうさんおかあさんの気遣いや雰囲気。そういうものを一切合切まとめて喰らってお腹が満たされた、というのが本当のところ。
いや、ひとつ間違っていた。お腹が、ではなくてお腹も気持ちも、だ。
殺伐とした東京での暮らしが現実と思えなくなる気分になります。