ご当地レトルトカレーというもの、ずいぶん楽しくなってきたなあ、と思います。たとえば20年前であれば、当たり外れの激しく大きい難しいジャンルであったというイメージがあるのです。
カレーですよ。
ご当地カレーは当然ではありますが、ご当地の看板を背負うというミッションがあり、宿命として地産の食材を使わねばならないわけです。例外はごく僅かにあるけどね。
いまと違って昔のレトルトのOEM製造はなかなかこだわりを表現するのには難しい枷がついていたのです。人伝ですがこういう話だったらしいです。
その工場の持っている、ある程度幅の極まったカレーソースがいくつか用意されています。たとえば甘口と辛口、焙煎強めの黒いものと茶色いスタンダードなもの。ここらへんから作りたいカレーがどのあたりにあるか考えて落とし所を決め、地元産の食材と合わせてそのあと微調整をする、というようなものだったんですよ。昔はゼロベース開発というのはなかったのです。おたくんとこの具材を入れてちょっとバランスとりましょう、という世界。
悪いとは思わないですが、ある程度味のビジョンがある企画者にとっては苦痛であったに違いありません。それもあって、昔のご当地レトルトカレーは当たり外れが大きかったよなあ。
今では精度、自由度も大きく上がり、企画者の意図に近づけるような努力と方法も選択できるようになりました。ご当地レトルトカレーに新しい未来が見えてきた、と感じます。
そんな中のこれ、
「黄金三日月カレー」
はなかなか個性的な味。気に入ったんです。甲府のご当地レトルトカレーです。
イメージは甘いコーンシチューの上にスパイスを重ねて完成させた感がありました。が、なかなかどうして。ベースが甘い分、塩のエッヂの付け方とスパイス、カルダモンが際立つ調整を巧みに施してあって、ちょいと個性的に仕上げてきてます。
甘いだけかと思いきや、辛さもきちんと組み込んであるのがね、なかなかどうして。やるなあという感じです。
トウモロコシの実とひき肉が食感のアクセントになり、あとがけで黒胡椒など粗めに挽いてふりかけてやるとますますいい感じ。
甲府のご当地カレーという形で企画され、スイートコーン「きみひめ」という品種のペーストを使用。「きみひめ」の持つ特徴的な甘さを生かしつつきちんとスパイシーに仕上げてあります。
「きみひめ」はわりと新めの、甲府市中道地区だけで作られ始めた品種のスイートコーンなのだそう。糖度が大変高いようでそれを生かした加工品づくりとしてこのカレーが生まれたようです。甲府ブランド認定制度の特産第6号として「甲府の証」に認定された農産物です。そういうストーリーを持って生まれたご当地レトルトカレーなのですよ。
ご当地関係に限らず、です。現在、そのジャンルに関わらず「製品の持つストーリー」を重要視するカスタマーが増えました。からだに直接入る食品というジャンルはことさらそのストーリーが大事で、カスタマーはそのストーリーをもとに購買の選択をします。いわば「モノではなくコト」を食べるに等しい消費行動と言えましょう。これを蔑ろにする製品はなかなか販売店の棚のいい位置に置いてもらえな区なりました。面白い時代になったと思います。
昔はご当地カレーなど一般スーパーではお呼びで無いジャンルであったと記憶していますが、36cosが600円ラインというジャンルを作り、育て、その中で「企画モノ」として扱われていたご当地レトルトカレーが一般スーパーの常設棚を得るようになった。そんな流れを見てきました。
まだまだ伸び代のあるジャンルだと考えられます。ご当地レトルトカレーはきっともっと面白くなるよ。