料理や店の端々から、メッセージというか「伝えたいものがあるのだ」という強い意志を感じずにはおれないお店があります。もちろんそういうものはどんなお店でもあると思うのですが、すごくストレートにそれが伝わってくるお店。多くはありません。
カレーなしよ。
以前、鬼気迫るすごい旨さのスパゲティを食べた、と書いたことがあります。そこがわたしの中での数少ない強いメッセージ性を感じる店の代表。
甲府国母にある、
「スパゴ」
です。
そのとき感じたのは「スパゲティ、麺を食べさせてやる」という強い意思。料理人の強い思いがその料理から炎のように、オーラのように、ゆらりと立ち昇る感があったのです。考えすぎか?(笑)いや、間違いありません。
2~3回、ランチでお邪魔したことがあるのですが、ディナーが懸案となっていました。それがやっと叶いました。
それで、先に書くのもなんなんですが、改めてわかったことがあったんです。もちろんわたしが想像をするところでの話し。店主、やっぱりスパゲッティを食べさせたいんだと思う。ショート、ロング含めて総称のパスタという言い方の方があっているとは思うんですが、やっぱり「スパゲッティ」なんじゃないか、と勘ぐっています。
ランチで食べた「スパゲッティ カレッティエッラ」や「スパゲッティ ビアンカ」などは具材ではなく、スパゲッティに味付けとしてのチーズやガーリックなどが付加されるのですが、肉や野菜、魚などの固形の具材を使わず、主役、つまりランチではスパゲッティのみスポットライトを浴びるよう余計な要素を削った設計なんですよ。そういうことなのではないのかな。
ディナーで食べたスパゲッティ、これはランチと違っているぞ、とすぐわかりました。棲み分けとして、ランチでは凝った具材を配さないスパゲッティそのものの力を推し出したひと皿。より強いメッセージ性。この店がどんな店なのかをガイドしてくれるような顔を持っています。
それで、ディナーは「ブッロ」や「ポモドーロ」、「ペペロンチーノ」などランチの方向と似た「素のスパゲッティ」ももちろん取り揃えつつも、「プッタネスカ」「ルチアーナ」「ボンゴレ」「カルボナーラ」「ボロネーゼ」などがメイン。ショートパスタの「リガトーニ」「フィジリ」「ブジアーテ」などもありました。楽しい具材が入るものも多いというわけです。
メニューを眺めると「2.4mmスパゲットーニ」「リングイネ」「2mmキタッラ」「2.4mm スパゲットーニ」など使われるパスタのイメージがしやすいよう説明もあります。うん、やはり「しのごの言わずに麺を食え」というメッセージと受け取ったぞ。
この夜は妻と2人。頼んだのはサラダともつ煮込み、パスタ2種という感じです。
葉野菜サラダ(クルミオイル・シェリービネガー・焼きクルミ)
真面目なグリーンサラダです。ランチでもそうなんですが、ちゃんと当たり前に野菜を丁寧に扱ってあります。こういうの大事なんだよ。当たり前のことをやってほしい。おっつけでダメなサラダ出してくるならいっそメニューから落としてほしいもん。サラダは1種のみでドレッシングを3種から選べるようになっていました。
「バルサミコ・オリーブオイル・チーズ」「レモン・オリーブオイル・チーズ」「クルミオイル・シェリービネガー・焼きクルミ」から「クルミオイル・シェリービネガー・焼きクルミ」を。クルミの香りと食感を楽しみつつシェリービネガーの酸味と個性で楽しく食べられるシンプルなサラダ。こういうのがいいよなあ。
牛ハチノス煮込み・トリッパ
これが大変なものだったんです。ちょっと夢に出そうな素晴らしいやつ。濃厚でちゃんと内臓のクセを残しているのに雑味がない。うわーこういうこと出来るのかあ。この驚きたるや。ハチノスってこんなに従順ないい子だったっけか、という感じです。しかし従順だけど個性を殺さないという絶妙調理・調味。
違うかもですが、味噌のニュアンスをどこかにうっすら感じる気がします。これはワインを、、、いやいやいや、甲府から東京まで代行使うってわけにはいかないよねえ。我慢です。デカタッパーいっぱい持ち帰って大事に大事にワインの友として食べたくなります。
ズゴンプロ(煙製サパのガーリックオイル円形細平麺パスタリングイネ)
薫香高く、身のつまった手応え感じる鯖の食感。これまたすごい。塩のエッヂとオイルの馴染み、リングイネの平らな部分の面から舌にざらりとやってくるテクスチャを夢中で楽しみつくします。
ひと口目のインパクトこそサルシッチャのスパゲッティに譲る感があるのですが、噛んでいくほどにその存在感が増して行く面白さはむしろこちらにあるかも。噛むほどに、は麺にもお魚のほうにも感じられて楽しい驚き。圧倒されました。
サルシッチャ(富士桜ポークの腸詰挽き肉とトマト・羊チーズ2.4mm スパゲットーニ)
これ、ものすごい。腸詰めなんて簡単な言葉では済まされない飛び出してくる肉の強い主張。サルシッチャは腸詰めですが、スパゲッティに合わせるときはバラしてやるのだとどこかで聞いた事があります。塩漬け肉であるサルシッチャ、まるで原始肉のような、これもまた噛んでいくのが楽しくて仕方ない食感と味。いやー旨い。
下味の丁寧なチューニングや熟成など感じるところが多いです。そこに2.4mm、ちょいと太めのスパゲットーニの歯を押し返してくる噛み心地と小麦の味、香りがかさなるわけです。幸せすぎてちょっと言葉にならないな。
ソフトドリンクも良かったですよ。
クラフトジンジャーエール(生姜とスパイス・果実)とクラフトスパイスコーラ(11種類のスパイスと果実)。どちらも香り強く、料理に負けない個性を持っています。ジンジャーエールは切れ味心地よく、コーラは甘め。甘い味で料理の進行にリズム、アクセントをつけるのは面白いと気が付きました。
サラダにセコンドピアット(コントルノなしで立派にセコンドをつとめられるパフォーマンスを持ってた)、スパゲッティというシンプルなチョイスとしたんですがこれだけでもうお腹と心はいっぱい。二人ならこれで十分だったなあ。本当は欲張ってあとひと品とも思ったんですが、この日のお腹の都合はここまで。
これであとワインをボトルで頼んでも2人でだいたい1万円ほどで収まってしまう。なんということだ!うむむー。
多人数で行けばもっと種類を楽しめたはずです。貸し切りとかいいよなあ。
スパゲッティというものがこんなに楽しいのか、と改めて思わされました。日本人的舌の感覚で必ずひと口目に「あれ、硬い?」と思わせて、いや、違う、これ以外の正解なしというのを思い知らされるこの楽しさったらないのです。
この日は初めてカウンターの奥の隣の部屋に通してもらいました。そうか、こういう感じだったか。ちょっと包まれ感感じる照明とインテリア、心地がいい場所でした。なかなかに腰を上げ難いなあ。
次回、楽しみつくすために、近くに宿を探さねばならなくなっちゃったな。