カレーですよ5320(検見川 シタール)「親切にされた」という感覚。

やはり、というか当然ではあるのですが、しかしやはり、圧倒されるのです。

 

 

カレーですよ。

 

 

圧倒される、というのは物言いとして少し違うのかもしれません。心地よい先回りをずっとされている嬉しさ、快適。それを後で思い返して深い感慨を覚えるような、そういうレストラン体験。

検見川の、

 

「シタール」

 

を訪れると毎度そういうことが起こるんです。どうにも居心地がいいんです。少し前のSNS投稿でも書いたのですが、良いお店で食事をする充実感というのは本当に代え難いものがあります。「良い店」は単純に「おいしい店」ではないんです。おいしいだけでは足りないんだよ。おいしいひと皿を含めたレストラン体験すべてが幸せをよこしてくれるような、そういうお店。

大変に良い夜になりました。

店の前に偶然オーナーのお嬢さんがいらっしゃった。わたしの顔を覚えていてくださったことがまずうれしかったんです。彼女もすでにこのお店の大きな力となっています。お店を出るタイミングだったようですが、挨拶をしてくれて席まで案内をしてくださった。うれしいです、こういうの。それで、そのあとどうやらホール長と料理長にこそっと申し送りをしてくださった様子。嬉しくもちょいと気恥ずかしいですな。

ホール担当はあたりまえに季節メニューを自分の言葉で薦めてくれます。「当たり前に」って書いたけど、その当たり前をどれだけのホール担当者ができていることか。この店ではいつでも適切で熱意あるプレゼンテーションで「自分の言葉で」というところがあって、そういうものに大事なものが宿るんです。

都市部の高級ホテルにあるメゾンなんてのはサービスのかたまりのようなもんですが、それよりももう少しあったかい感じでこちらの心に近く立ってくださり「きちんと自分の意思を持った接客やサービス」をしてくれます。何度来てもあまたあるレストランの規範になりうるもので、驚かされるんです。けっして言い過ぎだと思ってないよ。

さて、料理です。

「シタール夏サラダ」

 

は納得の内容。

コリアンダーがたっぷりはいり、パパドとレーズンのアクセントもいい感じ。特筆はドレッシングでコリアンダー、ミント、ししとうなどを使ってあって青々しくさわやかです。ちょっとミントチャトニとか緑系のチャトニの趣もあっていい感じ。ああ、なるほどなあ。これはシャレたやり方だなあ。インドレストランとしてのやり方と、でも古典で留めない自由さがあります。

シタールの料理、いわゆるカレー類は意識をシャンと持っていないと大変なことになるんだよ。どのカレーもどうにもスープ部分、グレイヴィ部分がおいしいから。本当にいつもやっちゃうんですが、確かめながらすすってるうちに半分くらいその汁が減ってしまっているんです。大事に思ってるラーメン屋さんなんかでも起こる現象。これはいかん。ナーンもごはんもあるってのに。これが毎度のことなのです。本当に、毎度。とにかくどれもちゃんと個性があって「シタールらしい味」になっています。

これね、以前インタビューで聞いた「デリー」田中社長の話しを思い出すんですよ。レギュラーメニューではないちょっと変わったものを作っても人に食べさせると「デリーっぽい」といわれてしまう、と困り顔。しかしそれこそが、と思うんです。あれと同じだな。シタールの味も必ずシタールだな、という背骨を持っているんです。そこに何をのせるか、それを生かして何を表現するか、そこだと思う。

「白身魚の夏野菜カレー」にもちゃんとそれがあると感じます。

 

「白身魚の夏野菜カレー」

 

メニューには「マサラに漬けた柔らかい身のメカジキを、ナス、ピーマン、トマト、オクラなどの夏野菜と一緒にカレーリーフの香りでさわやかに仕上げました。ライスによく合う夏にぴったりのカレーです。」とありました。これが実にいいんだよ。

全体の印象で言えば、もちろんマサラでありカレーであるのですが、サラサラと粘度低いカレーソース全域に行き渡ったお魚の旨みが日本人の舌の根っこ、和食ルーツを思い出させてくれます。旨いんであるよ。そして思い知るわけです。いつもと同じだな、おさかなは。

メカジキは身が詰まっているのにふわりと仕上がり、ピーマンや青唐辛子、いや、ししとうかな。苦味が加わるのが良いアクセント。オクラやナスが夏らしさを出しています。ああ、とてもいいなあ。これはごはんがあうなあ。

 

 

妻が頼んだ「トリプルカレーセット」も良かったなあ。おもしろかったし。

彼女はシタールのバターチキンを知らないのです。セットでついてきて、という感じでバターチキンには特に思い入れなく頼んだ的なスタンス。気持ち、よくわかるよ。バターチキンってなんというか、悪い意味で様式化しちゃってるからね。つまらないものに成り下がっちゃってるところがある。

ただシタールのバターチキンは違う。まるで違うんです。「まあだまされたとおもって」と勧めると、やはりひと口でコロリ。そりゃあそうだよ。これだけは説明は無理、食べないとわからないもん。食べると後戻りできないやつ。シタールのバターチキンはそういう料理です。

「手作りレモンピールのレモンラッシー」がまたいいのです。これも夏の季節メニュー。ラッシーという輪郭やわらかい飲み物を、甘さをぐっと控えて爽やかさと切れ味を前に出してあります。これはいいなあ。とにかく香りが爽やかで気持ちよくて、料理のリセットにとてもいい。いいねえ、これ。すきだなあ。

料理長からのお言葉や料理の意図の説明、わたしの感想を聞いての笑顔など。とても楽しい時間です。心遣いもじゅうぶん過ぎるほどいただいて、おなか以上に心が満たされました。席を立つのが残念で、では次はいつ、とついつい考えてしまう。そういうお店。

帰り道、駐車場へ歩きながら「親切にされた」という感覚がいつでも必ず手の中に残ります。

いつきてもそれは変わらないんです。