カレーですよ5374(目黒 タイ料理 みもっと)美しきタイ料理。

目黒、権之助坂下から少しはなれた閑静な路地にあるタイ料理のレストラン「みもっと」は東京のタイレストラン界隈でも頭ひとつ抜けて、と例えられるお店です。行ってきました。

 

 

カレーですよ。

 

 

スタイルはモダンタイキュイジーヌだと思いこんでいたんですが、ちょとちがう。実はタイ料理のオーセンティックなものを大切に土台としているんです。その上で日本の食材をセンスよく合わせて完成させるスタイル。店主の腕、センスが冴える数々の料理が楽しめます。単純にモダンで括っていいものでないなと感じました。また簡単に「タイ料理」と言い切ってしまうのを躊躇う自由さも持っているのがすごいなあ。

 

「タイ料理 みもっと」

 

はそんな風に見えるお店。

 

いまはディナーのコースがほぼ中心。アラカルトはやっていないようで(と思ったら不定期でたまにやることもあるみたい。SNSフォロー必須だな)、月毎に内容が変わっていき、季節の素材がうつろうのと歩調を合わせているというわけです。

本来、食というものはそういうもの。通年で北海道から沖縄の向こうまで全国で同じ値段と同じ内容というチェーンは、便利ではあるけれど、企業努力というところも見えるけれど、やはり少し歪んでいると言わざるを得ない。そう思っています。もっと自然でいいよね。

 

さて、この夜のコースの印象を少し。

 

ポピアトード サイ ネーム / ネーム 春雨 卵 スイートチリソース

これはチリソースがよくあるものではなく、甘味控えめ奥行き深めでおやっと思わせます。

 

プードーン ナムチムタレー / 渡り蟹 グリーンチリソース

感激。ワタリガニの味付け刺身、とでも形容すれば良いかりら。実に実に美味しいです。生の蟹をナンプラー漬けにしてあるんですよ。蟹は無言に、がまさに当てはまるひと皿。ナムチム(タレ)をつけてたのしむスタイル。辛く、爽やかで大変にいいなあ。

 

トムセップ / 但馬玄モツ タイハーブ プラーラー

イサーンのモツスープです。驚いたのがモツの下処理が大変丁寧でまったくくさみえぐみがないこと。モツだとわかるのですが雑味が一切なくてなんだか頭が空回りする感じ。驚くべき仕上がりといえます。すっぱ辛いスープが蒸し暑い東京の夏にぴたりとはまってます。

 

ラープ プラー / 穴子 ミント タイハーブ 米粉

ほぼ和食然と仕上がったこれ、ラープであるぞ。ラープは和えものというか、トスサラダ的なものですが、それを分解、和のイメージをミックスして再構築、そのように見えます。これがどうにもうまいんだ。何気なく食べてしまうのは惜しいと感じます。料理の名前の意味を知り、その上でどういうミクスチャーなのか理解して食べると楽しさ倍増!が、何にもなしで食べてもうまいものはうまい。そういうことです。

 

ヤムムーヨー / べトナム式ソーセージ セロリ

セロリ、インゲンなどがダイスカットでサイズを揃えてあります。食感、香りが異なるのが楽しいひと皿。アジアではわりとインゲンを生食するんですが、それを知らぬ人が食べると新鮮な驚きがあって楽しかろうなあ。

 

トムカーガイ ボーラン / 大山丸鶏 ココナッツ チリジャム

「名前を知ってるがあれとはまったく違う、いい意味で」という一言に尽きるすごかったやつ。ビジュアルも美しく、チキンの食感は魚と鶏のいいとこ取り的なものがありました。ココナツミルクとガランガル=カー(生姜の一種)やハーブなどが入るのですが、余計な具材を入れてこないのが潔く、スタイリッシュ。いい、いいなこれ。

 

プラーヌン マナオ / マナガツオ レモングラス ライム チリ

この美しさときたら。これは和の佇まい。そこに柑橘の香りと少し刺激のある差し色の味。

 

ガイヤーン カミン / 軍鶏 ターメリック ココナッツソムタム

きちんと美味しいしゃもの鶏もも肉。歯を押し返す弾力も嬉しいガイヤーン。

 

ゲーン ムーテーポー / 岩中豚 空芯菜鰹節こぶみかん

ゲーンは日本ではタイカレーと訳されています。でもそんな単純なものではないし、元々の意味は汁ものの意味です。これはなんというんだろう。こぶみかんの香りからでしょうか。スペイン料理で出てきそうな感覚。オレンジの香りのポークスープという程。

きれいな紫色の古代米のごはんがついてきました。こちらも風味が良く、少しスープに浸して食べました。でもこれ、パンでいけるんじゃないかなあ。パンがいい気がする。

 

カノム / シャインマスカット パンダンリーフ もち上生菓子/お抹茶

仕上げのデザートも、上品。

 

品数が多く、端折ったところもありますが、とにかくこの内容で12000円はお値打ちを感じます。

丁寧な品書きが手元にあるのですが、まずは伏せて、料理が届くたびにひと口食べてから眺めると良いと思います。するといま食べたものの輪郭が少し見えてきます。多分、そういうのが楽しいと思う。

 

ちょっぴりお勉強をして出かけるのもいいでしょう。たとえば、プラーヌン マナオなんてのが出て来たのですが、プラーはお魚、ヌンは蒸し料理、マナオは柑橘。タイのライム(メキシカンライム)のこと。調理法と素材を組み合わせた料理名はわりと万国共通です。他の国でもいくつかの調理法と素材を現地の言葉で覚えたりメモしていくとなかなかに面白いのです。そんな楽しみもあります。

たとえばムーマナオなんか出て来たら「マナオはライム、ムーはなんだっけかね。ガイ(鶏)、ムー(豚)、ヌア(牛)だからそうか、豚肉のマナオソースかな」なんて考察しながらメニューを選んだり食べて確かめたりすると楽しいよ。

 

自分から積極的に料理を楽しみに行くのはとても良いと思うのです。そして「みもっと」のような店に辿り着くと自分が知っている料理と同じ名前なのになんでこんなに(良い方に)違うんだろう、と頭を捻る。食の冒険がますます楽しくなります。