噂を聞きつけてやってきたのです。ここ福岡にも上野の血を引くカシミール、コルマが存在するという話し。それを聴いて素通りというわけにはいかないわけです。だってわたしはコルママニア。
カレーですよ。
カシミールとコルマ。もう呪いのようなその2つのカレーは東京・湯島で生まれました。真似するなんてのはナンセンスなほど個性的なカレーでしたがどんどん人気を集め、真似をするところが続出しました。暖簾分けや卒業したコックさん以外にも大手チェーンレストラン、大手食品メーカー、スーパーマーケットPBなど枚挙にいとまがありません。
店の名は、
「106サウスインディアン」
といいます。
屋号だけ見ていると見逃してしまいそうな名前でね、一見南インド料理のレストランかと見まごうわけです。わたしもうっかり通り過ぎるところだったよ。看板にカシミールという文字があってハッとしたのです。えええ、カシミール?
お店はいくつかの飲食店が入った洒落た建物の奥。螺旋階段と小さな中庭があり、その奥突き当たりにあります。入っていく時にちょっとワクワクします。およそインド料理店らしからぬ雰囲気だねえ。
店内、仄暗く良い雰囲気となっています。ウェイティングバーに当たるバーカウンターの1人席に通されました。ホールのテーブル席もいいけど、ここも至極の快適さ。カウンターの壁にはガラス扉の奥に山崎や響、白州がインドワインのスーラと共に収められていました。おや、こりゃあ想像してたものよりちょっと格が違うかも。
メニューです。経緯は知らねどメニューを見れば確かにカシミール、コルマの名前が記されていました。おおお、まさかの福岡でカシミールにコルマかあ。迷わずにコルマを注文します。
ホリデイランチのセット、ベーシックなものを選んでその中でいくつかある選択肢を決めます。サモサとスープの選択はスープとしてみたよ。ナーンとごはんはコルマであるからしてやはりごはんに。飲み物もついてきます。
料理を待つ間、ウェイターさんが通り過ぎる度に香ってくる良い匂い、これはきちんとしたお店の上品なスパイス使いと理解しました。レストランとキャンティーンの違いがそこに現れるんです。店に漂う匂いでそれが確かにわかる。そういう匂いがしました。
まずスープとサラダがやってきました。スープ、選んでよかったな。スープがあってよかった。わたしが好きな、インドレストランのスタイルのトマトスープだわ。西洋出汁とトマトのスープの様子。酸味も心地よく、これがなかなかに美味しいのですよ。
インド料理などでキャンティーンではなくレストランを選んだ時にはスープを注文すると楽しい食事になるという感覚があります。これがまさにそれ。
スープを吸ったクルトンも良いねえ、おいしいね。
サラダが美しいのも特筆。ちゃんとした扱いの野菜が出てくるのがうれしいし、実際旨いしね。サラダをきちんとしている店は信頼ができます。野菜って温度、湿度管理と扱いで生きるも死ぬもという食材。そういうことに手をかけているお店は他の皿も間違いがない。いやほんとうに。
コルマ、来たよ。
これはまごうことなきコルマであるのです。が、しかし、上野よりもスパイス香のファストアタック強くほんの少し辛さも強め、クローブやシナモン香るオリエンタル・スパイシー。ああ、これはいい。いいなあ。美味。
オリジナルの上野の香りにもう少し華やぎを乗せてこの店の世界観に合わせてチューニングをしてありました。味の方も範囲を越えないけれどオリジナルよりもう少しよい塩梅に辛く、それがいいんです。大変に気に入りました。そこを尖らせた以外はセオリー通りのコルマの世界。いうことがない。うーん、いうことないよ。
カレーの中に沈んでいるチキンもいいね。ちゃんと店の個性が出ており記憶に残るものです。繊維と直角に噛んだ時の食感もいいんです。くずれておらずしかし素直に噛み切れる食感が心地よく、これもよい記憶として頭に残ります。
ひと口ごとにコルマなのに予想より少し辛いのが楽しくてスプーンを忙しく動かしてしまいます。途中でイタズラをして、ごはんの上でトマトスープをコルマと混ぜてやったんですが大きな変化は出ずに破綻なし。あの味の強さを知るわけです。惜しむらくはタマネギアチャールがテーブルにないことくらいかしらね。
インド系のウェイター氏の達者できちんとした日本語と仕事、接客もレベル高く驚くばかり。「カレー屋」ではなく「良いレストラン」であると感じさせてくれました。これは旨いものを掻き込む上野的ではなく、旨いものをじっくり、の銀座的アプローチかな。いいお店だ。これでミールスもあればビリヤニ、バターチキン、ナーンもあるというのだから恐れ入るのです。
前日、あてにしていた店にことごとく袖にされた分を取り返して余りある体験でした。満席でなかったらもう一杯ドリンクを注文してゆっくりしたかったな。
また来ましょう。