すごく久しぶりになってしまった。こういうのがいけないんです。今やどんな名店、どんな老舗店でもあぐらをかいて商売はできなくなりました。
カレーですよ。
従業員不足、食材値上げ、後継問題、地価の高騰、どうにもならない問題山積。そういう都市部の外食の最近です。他の産業もそうだよね。ここ神保町でもそういう事例はいくつも見て来ました。
そんなひりひりとした業界事情ではあるのですが、ここ、神田神保町の老舗、
「スマトラカレー共栄堂」
はそんなことはお首にも出さず、穏やかな空気があります。
心穏やかになる地下の吹き抜け、螺旋階段をおりた脇のお店。あの上から少し光が入ってくるんだけどやっぱり地下っていう感じが好きなんです。昔の喫茶店を思わせるインテリアは快適そのもの。てきぱきと動くねえさんがホールを仕切ってくれるのも頼もしい。いつ来てもいい気分です。
注文は、
「ポークカレー + 焼りんご」
と決めてきました。冬季の神田神保町界隈のお楽しみときたら「共栄堂の焼りんご」であるよ。これに限るねえ。カレーの後にこれだけの更なる大きな楽しみがあるお店は多くないと思うぞ。
まずはカレー。
前にも思ったことがあるのです。共栄堂のカレーはなんとなくキャンプを思い出すの。代々木のかつてあった名店「キャンプ」でも、キャンプ場のカレーライスでもなくて。
ただキャンプを思い出すのです。
多分、共栄堂独特の焙煎の強く香ばしいカレーライスが焚き火の匂いや爆ぜる火の粉などそういうもののイメージとしてのキャンプに重なるからなのではないかしら、と思っています。まろやかな味わいを焙煎の苦味が引き締める味。ここだけの伝統の味。これだよね、これがいい。
そうそう、良い子にはお勧めしないけどこんな食べ方もできます。あのスープも記憶に強く残ってます。その合わせ技、ね。これはお好みで。
さあ、焼りんごだ。
共栄堂の焼りんごには本物の至福があります。本当に「たまらない」くらいしか感想が出てこないんだよ。味や香りに「引きずり込まれる」感があると毎度感じます。強い甘さとほんのりの酸っぱさ、りんごのいい香り。ふわりとした食感の焼き上がりも素晴らしい。皮の食感も、少し残るヘタのそばにあるかたい部分も、なにもかも愛おしい。
それもこれも、ちゃんとカレーで助走をつけてからでないと辿り着かないというのがね、なんかいい。だからこそ、的なね。
ああ〜、ちょっとほんとうに忘れ難い。
この味、この至福を忘れぬうちに検見川に向かわねばいけないのです。冬の至高のくらべっこなど実施することに決めたのであるよ。向こうも同じかそれ以上に幸せなんだよなあ。