夏の山梨といえば「桃」。もうそれに尽きるのであります。あたしは毎年7月になると取るものも取らずで山梨笛吹、勝沼あたりに出かけていくんです。ハネ桃買い占めであるよ。
カレーなしよ。
いろいろと大きく端折るんですが、今年はここまで2回行って150個くらい買った。いや3桁って、、わかる(笑)わかります。でも事実。人にあげたやつもあるけど自分でもおかしいと感じるもん。業者ではないぞ。ひとりじめだ。
それでこの季節は山梨の外食が捗ることとなるわけです。主に勝沼、笛吹辺りとなるわけです。素晴らしいお店、クセのあるお店、たくさんあるんだよ。今回も素晴らしくもクセ強い店に当たったぞ。良いお店でした。こんにちはとさようならがあったよ。
「スター苑」
という洋食店。
そのスジではちょっと知られる昭和レトロのドライブインです。むかしむかしの洋食店というところ。今回も例によって行き当たりばったりで近隣昼メシになにかないかと探していて行き当たったのです。ここがどうにもいいお店でね。当たり、大当たり。
まずは外観がいいんです。すごくいい。凝った木組みの窓枠や外壁に並ぶランプなどクラシックでとても見応えがありす。庭先には朽ちたダットラのキャビン部分が置かれていたり、もともと葡萄棚があった名残が見て取れたり。矢印に英文字でロゴを入れた行燈看板など圧巻。いや風情があるなあ。
店内も強く個性的。広く窓をとった作りにメッシュのカーテンなど当時のモダンでありクラシックでもあり。
何がやりたかったのかがわかるような、どんな店だったのかがわかるようなインテリアです。
その中でレストランの歩みと歩調を合わせて子供客への気遣いのおもちゃやぬいぐるみ、来店する芸能人などの色紙など歴史の堆積物が場所場所に置かれ、ここだけの空気感を醸成しています。ちょっとしたプロファイリングができそうな地層がそこここに眠っており、目が楽しいんですよ。
さて、メニュー。手書きで随分年季が入ったものです。これもまた面白い。内容はほ豊富で多彩。ビーフシチューやポークカツレツ、チキンソテーなど目移りしてしまうよ。カレー、サンドイッチやオムレツなどの軽食も充実。ホットケーキにパフェなどまで網羅しており圧倒されます。さあどうしよう。
わたしは
「ロシア風ハンバーグ ベーコン巻き生クリームがけ」
を選びました。同行の妻は「スエーデン風ポークカツレツ チーズ・ロースハムはさみやき」。これも魅力的だよなあ。
驚いたのはお料理が完成してテーブルにやってきた時。おかあさんがワゴンで運んでくれます。そのワゴン配膳を2回に分けて出てきた料理がこれ。
注文はメインディッシュとごはんの2皿だよね、と思いきや。テーブルが皿でいっぱいになっちゃったよ。なんだこれすごいぞ。このにぎやかな光景ときたらないですね。メインディッシュとごはんの2皿は予想通り。いや、メインディッシュは予想よりも彩りも豊かなビジュアルの凝ったもの。そこにコンソメスープ、サラダ、小付、デザートと予想の倍の皿数になっちゃった。
これはランチではなく立派にディナーで通用する内容だよねえ。そういえばメニューはグランドメニューのみでランチ設定はないようでした。それどころか価格がランチ価格という感じでここまで出てきちゃう。つまりディナーがランチ価格という感覚なんであるよ。こりゃあ驚いた。こんな凝った料理をこんなにお安く、心配になります。
わたしのハンバーグには驚かされました。いやね、それがもこもこと生クリームが乗っているんですよ。あ、いや、メニューにも書いてあったのだけどね。いやでもしかし。本当にパフェなどに使うような生クリームがそのビジュアルそのままに波を描いてハンバーグの上に鎮座するんですよ。しかもパフェと共用だと思われますが、甘いのであるぞ。
ところがこれ、異常にハンバーグの味とマッチしておいしい、おいしい。すごくおいしい。あらーどうなってるんだこりゃ、くらいしか言葉が出てこないんです。わたしがよく言うところの「みたらし理論」であるなこれは。あまからなのよ。いや、あまじょっぱが正しいか。みたらし舌である日本人の我々に深くぶっ刺さる味です。
ハンバーグ自体は肉の挽きがかなり細かくペーストに近い感。まるで肉で作ったフレンチフライ(ポテトを一度マッシュして再び成形する)のような感覚がある、というのは例えがおかしいかなあ。大変面白いんです。そしてとても美味しいの。クセになると言うのが正しいなあ。
「スエーデン風ポークカツレツ チーズ・ロースハムはさみやき」は王道の美味しさ。塩味のエッヂも鋭く、しかしマイルドなチーズと脂身もきっちり美味しいポークの組み合わせはもはや抵抗の術なし。素晴らしいです。どの料理も、付け合わせひとつにしてもきちんと心配りがあるところにね、嬉しさが込み上げます。
オクラときゅうりの小付けはおかあさんが「わたしが作ったので食べてみてね」なんて説明してくれてかわいらしいんですよ。うれしくなっちゃう。デザートもおまけしてくれました。桃のゼリー。旬のものでもてなしてくれるこの嬉しさよ。
ご店主は腰がずいぶん曲がっていて少し心配になるんですが、どっこい手捌きに迷いなく、ホールまでこなされています。歩みも確かでそりゃあそうだ、これだけの仕込みと手間をかけて一人で厨房を回しているんだもの。生半可ではできない仕事です。そりゃ納得がいくってもんです。
お会計で少しおかあさんに聞きました。もう58年も続くお店だそうで、実は年内くらいで閉めるらしいんです。なんでも更地にして人に貸すとかなんとか。ああ、もったいないなあ。もったいないけど仕方がない。これだけの量のお仕事、お二人で明け方まで仕込みをすることもあるんだとか。そりゃあそろそろお休みになったほうがいいよ。ホントに。
とはいえ地元のかたがたは残念に思うだろうね。きっとここで親子で3代、たくさん思い出を作った方々がいっぱいいるだろうからね。そういう人たちがもう一度お店に行って、たくさんの昔の記憶を楽しむ時間を作ってほしいと、他人ながら思うのです。
レストランはね、タイムマシンなんだよ。味の記憶と場所の記憶が重なる場所は本当にタイムマシンみたいなんだよ。