カレーですよ5530(青梅 夏への扉)延命、崖上の喫茶店。

少し焦り気味で青梅に出かけたのです。夏は真ん中まで差し掛かっています。8月の終わりにはお別れが来る。のだったね。何度か行っておかなければ、と青梅に向かいました。

 

 

カレーですよ。

 

 

話しを聞いた時のショックたるや簡単に表現できるものではなかったな。大事なお店がなくなる時はいつもそう。

無くなって初めて知るその存在の大きさ、などという言葉がありますが、それはただの言葉に過ぎないわけで、しかしそういう局面に行き当たるとその言葉の意味を本当に思い知ったりします。そういうことがあるので閉店が決まったお店に人が集まるのは一部、気持ちがわかるのです。野次馬ではなくそのお店を想っている人のみのこと、です。

さて、わたしの大切な、

 

「夏への扉」

 

が閉まってしまうのです。正確には建物の取り壊しによる移転なのですが、この場所、この建物にあっての「夏への扉」であることも大きな事実で、がそれで困り果ててしまったのです。

それを知ったのは今年の春、4月。常連の女性の陶芸家さんから聞いた話しでした。帰り際に店主にお聞きすると事実のよう。大いに動揺しました。せめて何度か来なければ、とこの日もやってきました。誰にともなくそういう動揺を見透かされぬようにお店に入り、いつもの注文。

 

「野菜カレー」

 

夏場のいつも通り。「野菜カレーに紅茶をつけてください、冷たいやつ」という注文です。メニューも見ずにこのセリフがソラで口をつくんです。

一番初めはたしか、R・ A・ハインラインのあの小説と同じ名前だな、と思ってやってきたと記憶しています。

いつのまにやら気がつくとある日屋根に黒猫の看板がついていた。青梅らしい、という感じかな。

ここは奇跡の空気感。元は古い古い眼科の診療所であったこの建物ならではの、そしてお店のご夫婦が長くやってきた中で生み出した空気感が穏やかに広がり、気分がいいんです。なにかつらいことがあったときに逃げてこられる場所なんではないか、など思うわけです。そういう場所だな、ここは。

谷、切り通しというのかな。その上に立っている古い建物は谷底を走る中央本線を見下ろすようなかたちでそこにあり、その窓から中央本線の屋根を眺めながら紅茶を飲めるんです。線路の継ぎ目を鉄輪がゆっくり踏んでいく音は何やら宮沢賢治的な感覚を呼び起こしてくれると思っています。ますむらひろし的、でもいいかな。猫だからね。とにかく代替えが効かない大事な場所。

そんなことをぼんやり考えているとカレー到着。「チキンカレー」もあるんですが「野菜カレー」ばかり頼んでしまうなあ。野菜3回、チキン1回くらいのサイクルかしら。

野菜カレーはいつも通りの個性でやっぱり美味。わたしの好む丁寧なカレーライス。タマネギを炒めて甘みを引き出してやって、それをカレーに仕立てるというものですが、やりすぎがなく素直にタマネギの甘みが残り穏やか。野菜たちも本来持っている甘みや香りを殺さずにそこにあって控えめに使われたスパイスがカレーとしてのアイデンティを支えています。ステキバランス。

たっぷりと堪能して、必ずやってみようと想っていたことを実行します。例の感熱プリンター内蔵カメラを使っての一葉をね、ここで仕上げてみようかと。

カレーと電車と店の中の写真をあのカメラで撮っておきました。それをプリントしてノートにレイアウト、貼り付けてやります。もうひとつのラベルプリンターで短い感想を書いてこれも貼り付けて大枠は完成。これでダイソーで買った36色入り300円の水性カラーペンで色を乗せてやるんです。

まだ初めて間もないので作風も決まらず拙いものなんですが、本人はとても楽しい。なのでよし、とね。

帰り際、たまたまお客がわたし一人であったので会計の折、ご店主に話しかけました。すると驚きの話しが飛び出したのです。確定ではないけれど8月以降ももう少しだけ、1〜2ヶ月だけど営業するかもしれないとのこと。先方(土地の持ち主やデベロッパー)の都合やらなにやらがあるから確定はできないが、そうらしいのです。ああ、なんとうれしい。

残念ながら冬は越せそうにないようなので、あの素晴らしいアラジンの反射式石油ストーブ、シルバークイーンのオリジナルの穏やかな暖かさはもうここでは体験することは叶わないようなんですが、それでも少しだけ猶予ができたのには胸の中で快哉を叫びたくなりました。

なんとなく、先ほど手を動かした絵日記を店主に見せてみます。喜んでくださったよ。なので差し上げることにしました。レジ脇に飾っておきますよ、と言ってくださり、少し恥ずかしいのだけどね。

あれとは同じものにはならないんですが、うちに帰ってもう一度プリントして同様のものを自分で作れるので気に入って持っててくださる方に差し上げられるのは嬉しいです。そのためにノートは糸綴じではない接着のを選んだよね。

青梅駅のそばの崖上にある古い建物、その喫茶店のことを気持ちの拠り所にしています。本当に尊いものだと思うんです。