
どうもクルマでばかり出かけるわたしなんですが、自転車も好きなのです。速度帯が変わると見えるものが変わってくるよね。自動二輪の時も、原付の時もそれぞれ別のものが見えて面白かったもん。
カレーですよ。
自転車で町をゆっくりまわると普段見落としているいいものが見えてきます。神社の門前町の看板建築家、こんな場所に?の洒落たサンドイッチやさん。ペンキに塗り込められた昔の看板。こんな寒い季節の小春日和は自転車に限るなあ。


それで、この日は近所の亀戸界隈から東部亀戸線を伝って小村井や東あずまあたりをふらふらと。小さな私鉄の線路脇の細い道なんてのを走るのは自転車ならではの醍醐味です。


いつも深夜に一人でやってくるビリーザキッド墨田本店も違う顔を見せています。そうだ、と思い出したよ。まだランチタイムに間に合うかしら。時計を見ると13時をずいぶん回っています。いやでもなんとか間に合うか。14時のラストオーダーに滑り込むべく細い路地を伝って自転車を走らせます。

ふうふう、たどりついたぞ。よし、まだオープンの看板がかかっている。よかったよかった。押上の、
「スパイスカフェ」
のランチに間に合ったよ。
看板の横の金網に自転車をくくりつけます。蔦や草木が鬱蒼と生い茂る古い古い木造アパート(わたしより年上なのだぞ)をリノベーションした建物。伊藤シェフのジムニーとこの草木の生い茂る画が実によく似合っていて毎度羨ましくて仕方がないんです。カッコいいなあ。

一見入り口がわからないのが楽しい感じでね、細い通路を奥へ進むと玄関があります。入り口ではなく玄関と呼びたい。いや、玄関そのものだからね。もともとは古くてかっこいいアパートだったんだから。

いつ来てもしあわせに感じる目に優しい色合いと光と影がある店内。なんというのかなあ、快適という言葉だけではとてもじゃないが言い表せないおだやかで居心地がいい空気が流れています。ここにくると肩からスーッと力が抜けていく感じ、かな。入り口側の通路を客席に向かう伊藤シェフが目に飛び込んできました。あ!とおもうと伊藤さんも気がついてくれて声をかけてくれました。うれしい。

幸いなことに待ちはなく、すうっと席についくことができました。しかし喜んでほんやらしている場合ではないぞ。そろそろラストオーダー、注文をしなければ。
ラッサム、ラムキーマ、エビ、ココナッツ、ポークビンダル、サンバル、骨付きチキン、としあわせな選び放題です。ここに季節のカレーの牡蠣カレーが追加されます。きょうは海のもので合わせようかな。
「2種のカレー」
のセットにしましょう。

副菜4種、ライス、デザート、ドリンクという内容。で、カレーを選ばねばね。まずはわたしの好物のエビカレー。それにエクストラチャージをちょっぴりつけての牡蠣カレー。これはもう選ばざるを得ないわけです。超スペシャルなやつだから。うっかり後で気づいたのですが、牡蠣カレーはこの日がスタートだった模様。まったくもって運がいいぞ。飲み物は温かい紅茶としました。
さて、カレーの時間。

待望の牡蠣のカレー、とんでもないなこれは。
舌の味蕾を突き破ってからだじゅうに牡蠣の旨みが駆け巡る快感。口中からどくどくと牡蠣のエキスを体に輸血するような気分で多幸感がものすごいの。これは危険だ。うますぎて危険すぎる!



そしてエビカレーもそれに肉薄する旨み天国です。エビの体の中に入って薄透明のエビの殻の中から水面の光を眩しく見上げる感じ、もはや自分自身がエビなのではないかという眩暈に似た感覚、なにいってるんだあたしは。など文章がリリックになりつつあるのはもうからだじゅうにスパイスカフェエキスが回ったってこと。


こんなにうまいもので、しかもがっちりと腹一杯にさせてくれるのですよ、スパイスカフェは。こんなにステキで洒落たお店なのにさ。ちゃんとお腹いっぱい。ちゃんとお腹いっぱいはすごく大事だと思います。いやあ、たまらない。それらいしか言葉が出てこない。困ったものであるよ。


スパイスカフェにおいてカレーという括りは単なる入り口に過ぎないと感じます。そういうレストランだしそれだけのポテンシャル、パフォーマンスが間違いなくある場所。カレーはものすごい美味しいわけで、そのカレーを上回る、カレーではない他のスパイス料理も間違いないわけで。今度はランチコースにせねばいけないなあ。


ものすごい満足感の中、紅茶が出てきてのち、デザート。あ、そうだった。デザートあるんだった、、とおもったら。伊藤シェフがやってきて「はい、デザートです」ってこれ!!デザート盛りになってた。これ、レギュラーでついてるやつじゃない、、よね?ああ、もうなんかすみません、伊藤さん。ごちそうになります。

そんでぜんぶ美味しい。まったくもう!みかんのシャーベットにシビレます。器の底っていうか器の外側の底にレモンを敷いてある楽しさときたら!マンゴーのふわふわもご機嫌に美味しいし、ガトーショコラのチョコレートの濃さときたらね、大変だぞ。



なにが幸せってスパイスカフェはすわっているだけで幸せなのです。庭から草木を通して入る、壁の光と影を見ているだけで穏やかな心持ちなっていきます。そんな場所に至福のカレーがあるわけで。なんという完璧な場所だろうねえ。

それで、これ実は場所の話しではないのです。レストランは味でもなければ場所でもない。もちろんそれも大前提として大切ですが、なによりもこの場所の空気を作り上げてお店の人たち、それこそが尊く代え難いものだと思っています。いくらパッケージを同じくしてもその空気は一朝一夕では作れないからね。人ありき、なのです。

レストランは体験です。あそこに行こう、と思い立った時からもうすでにレストラン体験はスタートしていると思ってます。気持ちのよい対応と案内、オーナーシェフの趣味や心持ちがわかるようなインテリア、エクステリア。快適な店内と心地よい気配り、目配り。そしてやっと料理なわけですよ。どの要素も欠けていたら最高にはならないからね。
やはりここ、スパイスカフェはいろいろと気持ちを揺さぶられてしまう場所。このままうち帰って仕事をせずに寝ちゃいたいくらい感激、天に召されてしまったぞ。

気持ちに余裕の引き出しをくれるレストラン。
ここはわたしにとってのパーフェクトワールド。1000年続いてほしいです(勝手)。
