カレーなしよ(蔵前 鳥越 おかず横丁 入舟や水上商店)佃煮のおいしいやつ。

「入舟や水上商店」はわたしのお気に入りの佃煮屋です。その外観、古い古い店構えに気持ちがぐいっと掴まれるんですよ。いつ来てもそう。まるで自分が池波正太郎にでもなったような、鬼平犯科帳の登場人物になったような気分で買い物をするのです。だからわざわざおかず横丁まで足を運びます。

入り口の扉、これがまた木の引き戸で実にいいんですが、それを除いた間口いっぱいのショウウインドウが大変素晴らしい。脛から下くらいを洒落たタイル張りにしてあって、3段程の棚になっています。そこに琺瑯のバットや洗面器ほどのガラスの深い器が並べられ、それぞれに佃煮や煮豆などが入っています。じつにこう、舌の奥から唾がじわりと湧いてくるような絵面なのであります。

わかさぎの甘露煮、あみ、あさり、いなご、しらすの佃煮、いかあられにしいたけ昆布と季節で、仕入れで変わってゆく佃煮が並び、どうにも選び切れない。うーん、この場に白ごはんが欲しい。

引き戸を引いて店内に入ると、これがまた心地よいんです。不必要な照明がうるさい現代的なお店と違って、すうっと暗い店内で気持ちが穏やかになります。奥には大きな羽釜が2連で並ぶ様や仕込み台が見えて、信頼できるお店だなあ、と素直に感じ入ります。昭和10年創業、ずっとむかしから羽釜で炊いているんですよ、といつぞやお店の若旦那かしら、お話ししてくれたことがありました。

カウンターには昔懐かしい肉屋でよく見た水色とクリーム色の大きな機械式の計りが置いてあったり、どうにも気持ちがグラグラと動いてしまうんだよ。子供の頃に戻ったような「昔の商店」なんです。まったくの貴重品。そのカウンターの中にもガラス張りの奥に佃煮が見えて、またもなにを買おうかと迷ってしまうのです。ええい、いっそ全種類!

この日も迷いながらも、うろうろ迷ったりあうあうと品定めを続けるのはどうもカッコ悪いよな、と下町育ちの悪いところ、「ええかっこしい」が頭をもたげてきました。さあさあ、ささっと注文だよ。

 

「葉唐とあさり100ずつと、、甘口昆布は200グラムください。」

 

なんとか格好がついたかな。格好がつくとかつかないとか、恥ずかしいだみっともないだを思っているのは自分だけなのであるけれどね。そんなこと誰も気にしちゃあいないってさ。そういうのも含めて東京の東の方で生まれ育った人間のダメなところでもあり、面白いところでもあるのです。

年末は31日までやっているよ、とおかみさんが言っていました。そうだ、田作りは売っていたっけか。正月の分を買いに行かなければね。

ふりかけ

釜の中の様子が見えてくるような穏やかで滋味深い味。おかかと胡麻の香ばしさの二重奏に舌が喜びに震えています。これはご飯によく混ぜてやりたいねえ。おにぎりにするといいと思う。一見ただのおにぎりを食べていると見せかけて、実は心の中でその美味しさに卒倒しかけている自分がいる、みたいな。そんな密かな楽しみを得られるすごいやつです。

葉唐昆布

昆布の、浅い海の底を想像させる味のゆらめきがあって、唐辛子がその風味を強く残しながら尖った先端を昆布に丸められて、とまあ実に収まり良いんです。あまからに少しエッヂを加えた味の落とし所がもうもう実に実にニクイ。たまらない。一瞬塩分強めと感じるんですが、そんなことはどうでも良くなるこの味、この刺激。ああ〜もう、落ちてゆくとはこのことかー。

福神漬け

カレーの添え物など思ったら勘違いも甚だしい。これでごはん、優に二膳が消えていくやつ。蓮根、なた豆、大根、みなシャキシャキと心地いい食感なのですがそのシャキシャキが個別で微妙に違ってそれが口の中で楽しく感じられます。大根はパリパリ、蓮根はシャキシャキ、なた豆はぽくぽく。いやもうなんとも楽しくて。奥行き感じるあまじょっぱさもたまらないのです。そこらの福神漬け、あれはなんなのだ、と言いたくなるぞ。

佃煮ってのは白ごはんと一緒になるとホントに幸せをくれるものです。

わざわざおかず横丁まで買いに行った甲斐があるってもんであるよ。