スパイスカフェの伊藤さんがお弁当を始めたらしい、これは一大事。
本当に一大事だと思う。
カレーですよ。
なぜかと言えば。
もちろん大変ではないレストランは、現在の状況ではこの世の中にただの1店舗だって存在しないわけではあります。
それにしても長く続く有名店、そして伊藤シェフがここ何年も取り組んでいる、コースメニューとワインのマリアージュというテーマ。スパイス料理のレストランとしてかなり尖ったそのテーマを持ちながらのカレーのお弁当シフト発動。
このことでどれだけ大変かが窺い知れます。
でもね、あの
「スパイスカフェ」
の料理を持ち帰って楽しめるというのは、わたしたちお客にとってはなかなかに魅力的な話です。こういう時だからこそ明るい話題としてとらえていっぱい買いに行くといいよね。
そんなわけでクルマでそっと、押上、スパイスカフェへ。
相変わらずの素敵な佇まいと細い路地をそーっと入っていくあの感覚。あれこそスパイスカフェ。うれしいなあ。
久しぶりになっちゃってたな。やっぱりエントランスでワクワクさせてくれる店、いいよね。
こういう感じ、カレーのキーワードを持つレストランとしてはとても珍しいお店なわけであります。
入り口にはちゃんと注意書きがあったり、お弁当の持ち帰りのメニューがあったりで踏ん張ってらっしゃるのが分かります。
大事に思っているお店は皆さんが自らなにかお手伝いしないといけません。そうだよね。
入り口を入ると伊藤シェフが忙しそうに立ち働いているのが見えました。なんか、ほっとするな。
席数を減らして間隔を開けて、相席もなし。14時くらいですがお客さんが3組ほどいます。有名店の痛し痒しなところだよね。開ければお客さんは来てしまう。このコントロールが難しい現在、なのだと思います。
ホールの女性にオーダーを伝えます。
カレーは「エビカレー」と「角切りマトンカレー」で、ごはんとおかずのセットもひとつ。贅沢しよう。カレーふたつだ。こういう時だもんね。
外で待ちます。あの路地にはベンチがあって、寒い時期じゃないので緑を眺めながらのんびり待つのはちょっと楽しい時間です。人も出入りの人がほんの少しだけだし。
カレーが出来て、お客さんも帰って、そんなタイミングだったのでお弁当を受け取りつつ伊藤さんとおしゃべり。
厳しい話もお互い出ましたが、こういうのが明けたら一緒にキャンプ行きましょうね!と約束して店を出ます。少し気が晴れます。
さあ、帰宅。カレーの時間だ。
パックを開けばコレ。うわー気持ちがドーンと持ち上がります。
どうかな。どんなかな。
いや、わかってるんだけどね、すごく繊細で美味しくて。そういうのはわかってるんだけど一回づつドキドキするんですよね。伊藤シェフの料理は。
エビカレー
まず香りがドカンとくるのがすごい。うわーこれ香ばしいエビの香りだ。ひと口運べばたちまちエビのエキスの津波に襲われるこの感じ。すごいダシが出ています。
よくこういうやつ、アメリケーヌソースとかビスクとか例えますけどそれとは違うニュアンスだね。ほんのりと和風の感覚もあるんですよ。受け取り方の感覚だとは思いますがおもしろいなあ。
玉ねぎの微塵がうまい具合にその形を残し、やんわり食感まで残っていて楽しいです。
なんといおうかなあ。この味で炊き込みご飯を炊いてみたいなあ、とか変なことを思いながらスプーンが止まりません。
角切りラムカレー
実にセンスよくラムの香りが引き出されています。ラム独特のクセといいましょうか、複雑なあの味わいと旨味がバランス良くスパイスでまとめられているんです。
そしてこれを辛口に持っていくというのが、まさにそうして欲しかったというような痒い所に手が届く感。いや、素晴らしい調味調整だわ。
やっぱりスパイスカフェは、伊藤シェフは素晴らしい。
ごはんとおかずのセットもこれまたすごい。
これいうと怒られちゃうと思うけど、このごはん&おかず4種セットは、このまま食べても、カレーなしでも成立しちゃう美味しさと味の多様性があるんです。
これはパリップかな。
鰹出汁が強くきいて、旨味厚い味わいの豆のペースト状に仕上げられたおかず。これたまらないなあ。すごく好きだなあ。
普通の日本の家庭の常備菜でもアリな感じの優しさ穏やかさ。
ジャガイモのサブジかな、これもいいんです。
シンプルでジャガイモの甘味が引き出されていてうっとりしてしまいます。
チリが一本入っていたのですが、あまり辛くないのでたまに噛みながら食べ進めるとこへまた風味がよくてクセになります。
キャベツの酢漬け、これ、もう好きなやつで止まんないやつ。すごくいい!
香りもいいし酸味も過ぎずで着地点のセンスが素晴らしいものです。うわーこりゃボウルいっぱい欲しいよ。
野菜のサブジかな。
とても優しい味わいで、ごはんに乗ったおかずはみんなそういう感じの調整でいい感じ。うーんこれはこの4品でごはん完食できるぞ。
そう言いながらもカレーの美味しさにやられます。やっぱりごはんと合わせないとねえ、と本音が口をつきます。
食べ切って、心残りながらも食べ切って、思うのは。
改めておいしいものと言うのはどれだけ日々の気持ちの助けになるかと言うこと。それを思い知らされる味でした。
震災の時もそうでした。暖かくて美味しいものを食べると勇気が湧いてきました。
いまこそその勇気を引っ張り出してくれる、素晴らしいレストランたちを応援しなければいけないタイミングです。
入手の方法は限られるけれど、その限られた中でレストランが作ったおいしいものを食べる。
すごく大事だと思っています。