その看板の名前。店の名前に想いが強くこもっているのが手に取るようにわかります。そう感じています。
カレーですよ。
お店は恵比寿にあります。
今回はお店のファンの筆頭。長い付き合いの友人で有名パフェブロガーでもある(濃いめのカレー好きでもある)かりんちゃんに誘ってもらったんですよね。開店からわずか2年半で100回近く通ったのだとか。えええ!それ多すぎ、驚いたなあ。よほど相性が良いのだな、など他人事風に思っていた、
「東京ボンベイ」
という名の、なんと言おうかな、カレースタンド。アップトゥデイトな言い方をすれば、カレーバー。
みなさんご存知の「カレーの店 ボンベイ」は柏のボンベイとして知られています。有名です。
柏のボンベイが満を辞しての東京進出ということです。だからこそのこの名前。東京の名を冠したボンベイなのです。店が開いたのが2018年の春。認知度も上がりファンも多いと聞きました。
ボンベイはご存知湯島のデリーを父に持つお店です。偉大な父の良いところを受け継ぎ、しかしデリーとは違う道を歩む孤高の存在であることが、この日食べて気づかされました。いや、なんというか、驚いたんです。
お店は恵比寿駅の線路沿い。ガーデンプレイス側にあります。
カウンターだけの細長い店で、イスはありません。スタンディングで食べるスタイルです。そういうスタイルで長蛇の列ができる。すごいことです。
さてと、メインで選んだのは、
「マウンテン」
これには驚きました。これ、とにかく胡麻なんです。白胡麻の強さとコク。いや、コクなんて生やさしいものではないよ、この濃度は。
理解度が足りないのかもしれないです。これはカレーかもしれない、カレーでは無いかもしれない。それくらい胡麻が勝っているんですよ。説明しがたいです。
このカレーソースで坦々麺を作ってもいいかも、とまで思わせます。坦々麺のスープそのものではなくその前段階、スープベースに使えるような濃度、輪郭強い味わいで驚かされます。
しかし、ただ胡麻の風味ばかりという事ではなくカレーとしてのスタイルもギリギリで保っているのです。うわあ、このバランス、すごく面白い。
そしてポークのいいやつが入っていて、これもまたすごいのですよ。とても旨いんです。これは一度必ず食べるべき。そして自分で感じ、理解するといいと思う私の説明なんか聞いてちゃダメ。これは体験するに限ります。
キーマ
これまた初めての感覚。味見をさせていただいたんですが。キーマではなくそぼろと呼びたいしっとり感。旨みとおだやかさとスパイスの程良いバランス。いやあ、こういう感じはなかなかほかにないなあ。
柔らかで穏やかな融合点を持っていて、これまたカレーと言う括りとは少し違う場所にあるのかもしれないと思わせます。
そぼろと呼んでそのまま炒り卵などと合わせてみたくなる、そういう風情を感じる料理です。ナッツとキノコの食感が楽しくて、これもとても上手に効いているんだよな。
量もたっぷりあって本当に楽しめるひと皿です。これ、いい。酒のつまみにもなるね。
ビーフ
スペシャルおいしいです。甘い味ベースですがビターチョコレート的な甘い中に引き締まった感覚を持つ好バランスのビーフカレー。これはとても好みのお味です。ああ、これ、なんかたまらん。うっとりします。
甘味を土台にして大人っぽい味でバランスさせるのはなかなか難しいと思います。例えば和食で煮物などであればやりやすいと思うのですが、ことカレーというジャンルでやるとなるとなかなかこれが大変そう。それをさらりとこなしているのがすごいのです。単純に甘いと言う話ではなくて大人っぽさ=高級感、そういうものを感じるのが驚かされますね。
欧風と呼んで差し支えないであろう洗練のあるお味。そしてお肉だ、これがね、とてもいいものが入るんです。お肉は元々の素材の良さと調理技法で何倍にもパフォーマンスを高めることができる食材だと認識していますが、このカレーソースの中に浮かぶ肉塊はまさにそれ。たとえばこのカレー、どこかの新しいホテルが欲しがる味なんじゃないでしょうか。つまり、昔から古く続くホテルのカフェやラウンジにはカレーの銘品がからなずメニューにありました。開業したばかりのホテルなら自分のところの味としてこんなカレー、欲しいのではなかろうかと思ったわけです。とにかくこれはものすごく好みのひと皿。
あと、なんかすごいキーマがあったんだよ。なんだあれは。なんだこれはって思った。
カシミールとキーマの融合というやつです。ものすごいやつです。
あれは、ちょっと別で書かないといけないというもの。すごいです。ああ、あれ食べたい。ひとりじめして食べたい。
ソムリエの林さんがわかりやすくワインを教えてくれました。とてもうれしい。
お店でワインを扱うこととなりそのセレクトやマリアージュを現在、調整しているところなのだとか。
インドワインのスラ・ヴィンヤーズの何種かを検討されているようで、その中にロゼが目を引きました。まだあまり見かけないスラのロゼです。味見をさせていただくと、これがまたよいんですよ。花のような美しいフレーバーで酸味抑えめのフルーティなもの、気をつけないとボトル一本ゴクゴクといってしまいそうな危なくもおいしいものでした。
赤も強すぎず料理に合わせやすそうな印象。スラ、やはり良いワインだね。ワインマップはここ20年でずいぶん書き書き変わりましたね。アジア、良くなったなあ。
カレーばかりを紹介してきましたが、人。
林さんをはじめ価値あるスタッフさんたちがいます。そして代表の磯野さん。磯野シェフ、お気遣い細やかで料理にかける情熱やこだわりが強くにじむよい漢です。自店の料理を大切に思い、誇りに思う姿勢がカレーを説明する姿から大きなバイブスとして伝わってきます。とにかくもっと話を聞きたくなる方でした。
なるほど、こういう人たちが柏のボンベイ各店と東京ボンベイをまわしているのか。とても納得がいきます。
実は一番印象に残ったのがメニューの表紙。ボンベイのロゴの横に「ワーキングクラスヒーロー」と英語の表記があるのです。これはあれだ、ジョンレノンだ。
つまりこうだね。「カレーは難しいものでも高級なものでもなくて、みんなのもの、普通の人たちのものなんだぜ」という意味。
ちょっと、たまらないな。このセンス、
この言葉だけで連載の取材をお願いしたくなりました。どうしても磯野代表の話を聞いてみたいのです。