カレーですよ4634(平塚 ニューローズ)「海の近く」

わたしの住む東京下町からならはるばる、と言っても差し支えない距離でしょう。その店を訪ねるのは結構な旅になります。

その距離感がまた楽しみの一つにもなります。

 

 

カレーですよ。

 

 

信頼できる男、小西シェフが少し前にInstagramで話題にしていた自分のレストランが表紙と特集トップにフィーチャーされている地域誌が気になっていました。綺麗ないいデザインでね。読んでみたいなあと思っていました。「海の近く」という名前。洒落てるなあ。っていうか表紙見たらこれそのまんま小西シェフの店の広報誌に見えるよ。あのうすいバラの色はなんというか、訴求力がすごいんです。カレーの皿と組み合わせるとそのまんま、ニューローズ。世界観の構築がすごい。

しかも小西シェフとけっこうなご無沙汰。さらにわたしが誌面協力したぴあムック刊「究極のカレー2022」が発行されて、そのトップページでニューローズ推し、誌面にドーンと載っているわけです。間接的ではありますが取材でお手間をかけました。そんなこんなで平塚と大磯の間にある、

 

「ニューローズ」

 

に来たくて仕方がなかった。

最大の行きたかった理由はもちろん小西シェフの料理なんですが。それと岡田さんとのおしゃべりも。

ここにくるとなんか気持ちが上がるんだよ。黄色いパンダ4×4と上品な薄ピンクの建物を見ると嬉しさが込み上げます。

 

さて、注文。ランチは初めてだったなあ。

岡田さんはホールとドリンク、調理補助を担当。忙しいポジションを気立の良さと楽しいおしゃべりでやんわりさらりと回しているのが頼もしいのです。彼女にも絶大な信頼を置いておりまして。注文時にサラダとドリンクの追加推奨を目隠しで受け入れます。いやもうね、絶対間違いがないはずの安心感と幸せにしてくれるであろう予感とを強く感じるからなんです。もうね、おまかせでいいの。

そして彼女も小西シェフの料理だからこそ自信を持ってカスタマーへの訴求ができるのだと理解しています。素晴らしいコンビだよなあ。

まずはサラダ。

サラダ、うーん、サラダ。サラダって大変なんだよ。きちんと気持ちを配ってやらないとたちまちくだらないものに下落するんです。野菜をきちんと選んでいるか、野菜を優しく的確に扱っているか、組み合わせをきちんと考えているか。たったこれだけのことなんですけど、飲食店にはとても大変で、できていないお店も多く見かけます。

しかしこれをやるとそのお店の価値がぐんと大きく上がるんですよ。

わたしが言うまでもないことですが、野菜と魚の鮮度管理と扱いは知識も技術も愛も必要です。それを満たしているサラダには幸せが宿っています。

ここ「ニューローズ」のサラダにはランチタイムからしてそれがあるのです。すごいことだよ。

さて、カレーです。

あいがけのスタイルのシンプルながらもこだわり感じるうつくしいカレーが出てきます。

ネオムルグマッカニ、日本でいうところのバターチキンカレーです。よくある甘くて濃くて安直な幸せを得られるあれらとは一線を画すもの。

トマトの自然な味わいとバター、クリームなどから広がりと甘味を感じる味わいです。おかしな凸凹がなくスムースで、上品だなあと感じます。初めの印象が面白いんだよね。おや、これ、カレー粉のにおいだ、と気が付くミックススパイスでしか上がらない例の香りをどんと前にだしています。こういうのは珍しいと思う。

普通ならカレー粉の匂いというやつはどこのシェフもうまいこと自分のオリジナルの味、香りに丸め込もうとするんですよ。小西シェフはそれを隠そうともせず、偉大なるニッポンのカレーライスにオマージュを捧げるかのように、衒い(てらい)なくこの匂いを自分の料理に乗せてきます。ジャパニーズモダンを標榜する彼ならではのセンスです。

期待をいい意味で裏切ってしかもおいしく仕上げて、というのはちょっとプロレス技をかけられている気分です。あっと思っているうちに技をかけられて、いてて、となってる中でしかしうまくするりと技かけてきたなあ、なんて感心しているというような、そんな気分。バターチキンってあるラインを越えるとチーズ的なニュアンスの味、旨味が出る気がするんです。これはそのあるラインを大幅に超えているな。いやもう食べていていろいろと面白くて仕方がないの。

さんナスカレー、だったかな。期間限定のやつ。玉ねぎの丁寧な焙煎が印象に残ります。

おもしろいのが香ばしさの根っこ、スパイス使いなんですが、インド的でもあり西洋的でもあると感じます。なんというのだろうね。このカレーも含めて、全部が全部とは言わないですけど、ニューローズの料理はどこか果実、柑橘やハーブの爽やかな香りがいつでもついて回るようなイメージがあります。

これもなんとなく、なんですけど小西シェフが笑顔を向けてくれるとなるほど、その笑顔の印象からそんなことを思うのかもしれないな、とか。そんな取り留めのないことを考えます。とにかく他にはない味と香り。「ニューローズ」の真骨頂を感じました。

岡田さんにおすすめいただいたほうじ茶のアイスチャイもとても良いもので、冷たいものなのにきちんと香りが立つものは尊いな、と思わされます。おいしかった。

来るたびに思うのです。

同じ思いを持つお店に千葉検見川の「シタール」があるのですが、人、その想い、技術と、それから何よりもお店の空気感。それらがきちんとバランスして存在する、お店にぼんやりとやさしいオーラのようなものを見てしまう場所というのは、多くないです。

ここはそういう数少ない心地のいい場所です。

ちょっと機会を見て行ってくるといいと思うよ。