浜松にあるインド料理の持ち帰り専門店「アンミッカル」の冷凍カレー。
地域に根ざし、人をつなぐ料理というイメージのビジネスモデルです。料理に込められた「理由」がとても明確で説得力を強く感じます。
カレーですよ。
そうなのです。ただの「美味しいインドカレー」ではないんですよ。それじゃあダメなんです、菅沼店主の心の中ではそれだけじゃダメと思っているんだと思います。
現代においては「ただ美味しいもの=それだけのもの」となってしまうところがあります。これは特に最近強く感じるところ。厳しい時代です。なにかというとですね、カスタマーたちは食品に限らずその製品に対して「ストーリー」を求めるのです。
プロダクトにストーリーがなければモノは売れない。そういう時代です。値段だけで勝負するものはまた別ですが、それにしても、です。品質を担保にその品質のバックボーンや生まれのストーリーを明確にせねば人は財布を開かない。そういう時代になったと感じています。
「アンミッカル」
の料理たちにはそういうものが後付けではなく初めから宿っています。もうね、全然成り立ちや考え方が違う。ちょっと料理と簡単に片付けられない根っこをもって世に生まれてくるのです。
カレー、5種いただいたのですが、2種の合いがけを2回、続けたので最後に残ったのは1種類。いくつか組み合わせて楽しく混ぜ食べ。そう言いながらもやっぱりやりたかったごはんに直かがけスタイル。
「マトンコロンブ」
それで行ってみます。
これ、そうだなあ。あま旨いとでもいうのかしら。辛いのは辛いんですけどお肉の旨みが強く作用して辛さと相対する甘みが強く感じられる味です。強く油の中に抽出された旨みとそれをしつこくさせないスパイスの力の均衡が素晴らしくて、かなり印象強い食体験として舌と記憶に残るものでした。
噛んでも噛んでも旨い汁が出てくるマトンのブロック肉。途中、自分で用意したライタ(ヨーグルト)を加えるとこれがまた劇的に美味しくなるんです。酸味が強めに出た自家製のヨーグルトにタマネギみじんを加えました。ああ、これすごくよい。マトンの良さ、グレイヴィの素性の良さがぐっとが前に出てくる感があります。
フレッシュのトマトも間に挟むと効果的でした。酸味の要素が大切なのがよくわかります。肉の味わいのあいだあいだに店主、菅沼さんの、作り手の優しさのようなものが垣間見られるもの。途中で結構な辛さになってきているのを気がつくんですが、それに気がつく前に半分がた食べてしまってました。優しさと旨味に助けられてスプーンが進んでしまうわけです。ああ、なんだこれすごいな。
なんというのだろうね。他の4種も含めた総合的な印象なんですが、お花畑の横にたたずんで、お花が開くのを微速度撮影で早回しで見ているような気分とでもいうのかしら。とにかく味と香りが開いては収まり、また開くんです。お花畑で深呼吸してる感じ。いくつかのカレーを同じ皿に盛り付け交互に食べているとそんな気持ちになるんです。ああ、なんだこの幸せ。思い出しただけで幸せ。
本当に思うのは、こういう味と香りのものを知らずに日々過ごす人が未だたくさんいるのであろうということ。自分の知っている味、親しんだ味はとても尊いもので、他のものにに変えがたいと感じます。だから、変えるのではなくて、自分の味覚や嗅覚体験に幅を、膨らみを作るために、自分の舌と頭と心に経験を積ませるために、是非とも食べてみてほしいと思います。(手に入れるの大変なんだけど)
菅沼店主の料理はどれも日本の食材を使ってインドの手法とスパイスで仕上げられています。だからしばしば知っている食材が口に入ってきます。知っている素材をいつもとは違う調理調味で仕上げたものを口ににするというのはなかなかこう、面白い体験でね。きっと夢中になるはずです。その知らない味はインド由来のスタイルです。
こういうところから自分の興味を生み出し、その先にある文化や歴史とかけ合わせていくと、新しい地平が見えると思う。そこにただ食べるのではない楽しみがあるのです。