なんでもインド料理とウイグル料理を一緒に食べられるお店があると聞きました。とても気になるではないですか。行ってみないといかんね。
カレーですよ。
ちょっとウイグル料理づいている最近です。カスピ海周辺からウイグルあたりにかけての食のことが偶然耳に飛び右近でくることが多く、ウイグルレストランにも偶然巡り合って2回続けて行きました。
この日やってきたのは埼玉東松山。
ロードサイドに変わった形の建物がありました。日本のものではないお城のような、教会のような、不思議な建物。看板には
「ローラン」
という名前がありました。
タクラマカン砂漠に飲み込まれた都、ロプノール湖と共にその名を知るあの王都の名前、楼蘭。なんだか嬉しくなります。子供時代の読書を通した遠い世界や見知らぬ文化、冒険や探検への強い思い。そういう憧れを思い出させてくれます。あそこらへんにわたしの根っこがあるなあ。
さて、お店がちょっと何だかいい感じなのですよ。店内全体、木造で、そこを空色と白で塗り分けられています。
わたし的なカスピ海の東側のイメージがなんとなくなのだが青というのがあって、ちょっと何か感じるものがあるんだよ。
メニューはインド料理が中心という雰囲気で、日本人にわかりやすくなっていました。その中にトムヤムクンも入ったりする、あの感じ。あの感じなのでありますが、全体を俯瞰するとファミリーレストランとしてバランス良いメニューチョイスになっていることがわかるんです。これはメニュー設計巧みなんじゃないかな。
定食はインド料理。チーズナーンもあるけどウイグルのノンもあるという構成。単品はウイグル料理中心、トムヤムクンもフォーもあるよ、グリル類も充実、という組み立てです。スパゲッティまでありました。
うん、なるほどやっぱりそういう意図なんじゃないかな。レストランとして扱いやすいしおもしろい。そういうふうに見ると、お店の建物パッケージもメニュー構成も、メニュー写真のかっちりとした完成度と美しさなども、日本のファミリーレストランに南アジアから中央アジア、東南アジアまでのグラデーションをレイヤードした構成なのだとわかります。いや、かってに理解しました。
これは画期的ではあるまいか。客たちも便利でおもしろいと思っているはずですよ。ほえーこれはいいねえ、勉強になるねえ。
さてと、注文。
ウイグル料理でセット的なものはないので、かといってポロ、ごはんものを頼んでしまうとそれで終わってしまう感もあるしで、アラカルトを自分で組むことにしました。
スープ
サービスで出てきたやつ。ひとくちでニヤリ。これはあれだ、おなじみのホットサワースープだ。おやおや、ここでもこれだね、うれしいね。ヤシオスタンでもこのサンラータン的ホットサワースープを体験しています。酸味控えめのさらりとした野菜とチキンのクリアスープ。グリーンチリを漬けたものが入っていて、なんとなくなんだけどこれ、酢漬けでその酸味も入るのかな、と想像。チリを噛むと辛いけど風味が良いです。
トマトときゅうりの辛味和えサラダ
トマト、きゅうり、タマネギ、長ネギ、ピーマンなどを細切りにして和えたもの。ソースが辛いぞ。ピリ辛くらいで辛くて美味い。これは酢と中国醤油的なものかしら。レッドチリも入って辛くしてあります。辛いんだけどなんだか旨くて食べてしまうんです。最近辛いものを食べるとなんだか耳が聞こえたり聞こえなくなったりする気がする。きっと気のせいだな。
サムサ
マトンミンチをフィリングしたパンです。マトンミンチにタマネギ少々、スパイシーな仕上げです。焼き立てでかなりおいしいなこれ。マトンの軟骨なんかも入っていてかみごたえ楽しくクセになるものです。2個から頼めるみたい。焼いているところを見せてもらいたいものだなあ。タンドールどういうの使ってるのかな。
鶏肉シシカワプ
テーブル用シークに刺さって出てくるこれ、すごいおいしいの。鶏モモ肉が大変に柔らかい仕上がりで驚きました。舌の上で消えちゃう系の柔らかさ、舌触りで悲鳴が出そうです。こりゃあ大したものであるよ。シンプルなスパイス使い、キメ塩で後を引く美味しさがあります。ピーマンとタマネギも効果的。これはリピートしたくなる。1本じゃおさまらんな!
ぼちぼち食べ終わるという感じになっていました。多分シシカワプのオーダーは通ってないんだな、と思っていたんですが、最後に突然やってきました。信じて待つことが大事なのであります。気にもなんないです。こういうので怒る日本人はこういうお店に来ちゃダメ。
シシカワプ
仕上がり上々、マリネの威力かやはりチキンと同様食感よくとても旨いねえ。イヤなクセ一切なし。少々冷めていたのはホールの人が忘れていたのではなくディシャップにコックさんが出し忘れたのでもなく、ただもう時の神の悪戯と思われます。それで良い。先程のカップルに水を注いで行ったウェイターがわたしには注いでくれなかったのも、これはわたしが声をかければいいだけで、たったそれだけのことなのよ。
これね、皮肉や冗談で言っているのではないんです。それも含めて楽しめばよいのだ、と思っています。いや、心から。
それとね、食はその文化、その国への興味の入口になり得るといつでも思ってるんです。
アフガン、イラク、チベット、コンゴ、ソマリア、ウクライナ、ミャンマー、スリランカ。2022年、なにかが動いて強い力が拮抗して、という地域はたくさんあります。単純ではないことは承知で言うのですが、その境界線にある食を見ていくと境界線の意味などないと感じることが多々あると思います。少なくともわたしはそう思ってます。
宗教じゃなくて民族じゃなくて経済じゃなくて、メシをまず基準線において色々やったら幸せに辿り着くんじゃないかなあ。
途中、やってきた若いカップルが窓際の席に座って注文をしていました。どうやらインドカレーを頼んだ様子。楽しそうに食べていてけっこう、けっこう。
願わくば彼らの記憶にウイグルという名前が残りますよう。
あのレストランで食べた料理の生まれ故郷であんなことが起こっているのか、とつながりがうまれれば幸い。そう強く願います。