カレーなしよ(山梨甲州市塩山 もつ定食の店)黄金のもつ煮と呼びたい素晴らしい味。

やられた、のひと言だった。旨い。旨すぎる。いやもう本当に。

その定食は要素ひとつひとつが丁寧で、真面目で、きちんと旨いものでした。それがきちんと必要要素分組み合わさって完成している、そういうふうに感じます。なかなかここまで追い込んである定食、ないのじゃないかしら。

 

 

カレーなしよ。

 

 

毎年恒例、7月はお誕生日月間。それとは関係なく桃の季節なんであります。それで、本当に週一くらいの頻度(の場合も多い)で山梨、笛吹、塩山あたりに通います。秘密にしている農園さんの直売所で格安、大量に桃を買いまくるんであります。この日もそういう理由で塩山あたりにおりました。

クルマの中は桃の匂いでいっぱい、50個ほどの桃に囲まれ多幸感でおかしくなりそうですが、それでもお腹は空くわけです。近くで昼ごはん、など思って探したら、

 

「もつ定食の店」

 

というストレートな名前のお店がありました。なんでも馬のもつ煮があるようで、珍しいしそこにするかと決めました。

さあ、これが大変だった。

店内は大変シンプルで、黒と白のシックな内装、カウンターの作りなど、カラオケ店からの転身かな、と思わせるんですが、下品さがないんだよね。カウンターのスツールが背もたれなしのシュッとしたデザインのものを選ぶところなんか、こだわりとセンスを感じさせます。そこに手書きの実直なメニューが張り出されるところなんかを見てお店のお母さんの生真面目さが浮かび上がる感です。ストレートなお店の名前にもそれらが反映されているよね。

今日は奥さんと一緒なので、2つ定食がきました。

 

「馬もつ煮定食」と「豚もつ煮定食」

 

まずはね、メシ。白メシ。これが実に良い炊き上がりなんです。パリっと水分を飛ばして硬めで炊き上げた白メシは粒ひとつづつを感じられるような感覚があって素晴らしいものです。粘りすぎず、しかしきちんとまとまるバランスの良さがあって、旨味甘味は控えめと感じられます。日々の食卓にフィットする感。ガス釜炊きへのこだわりもあって、納得ってもんがあります。ごはんおいしいのは大事だよねえ。

それを横から支える香のものがまたいいの。これ、この糠漬けはスイカじゃなかろうか。糠床の個性がきちんとある発酵の香りと味で大変おいしい。歯応え強くぱりんという感触で歯が入る小気味よさ。こりゃあちょっとたまらんなあ。

お味噌汁は、この出汁は貝出汁かしら。個性的で面白いものです。これもいい、おいしい。

付け合わせの小鉢のマカロニサラダもちゃんと手作りのもので、なんというのか、一回づつ味見をしているのだろうなあ、と感じさせる真面目さ丁寧さを醸し出す良いものでした。

どの料理も折り目正しさを感じるんですよ。いい、いいぞすごいぞ。

 

そして看板のもつ煮込みです。

豚と馬の2種が用意されます。珍しく一人ではなかったので両方とも試す事ができてうれしかったよ。

場所柄、他ではあまり見かけない珍しい馬のもつ煮込みがあるのは面白いですよね。馬もつ煮込みは茶色い煮込み汁、豚もつ煮込みはオレンジ色と一眼で違いが見て取れます。

馬もつ煮込み、もつの歯ごたえがすごいんだよ。決して噛みきれないようなもの、かたいってものではないんですが、きちんとしたアタックのある歯応えで食べていて楽しいです。なんというのかな、大きな生き物のもつを食べているぞ!という感覚が意識されます。が、臭みなどのくせはほぼなくて、おかしな脂っこさもないのです。ほんのりと野生を残してあるという感じの繊細な落としどころに感嘆。

塩を強めに決めてあり箸が忙しくごはんを求めてしまうのも、それがまた楽しい。ああ、いいなあこれは。

 

豚もつ煮込み、これがね、またすごい。柔らかな優しい味付けで惚れ惚れしました。味噌自体を馬もつ煮込みと変えてあるようで、そういうところにも強いこだわりが見て取れます。馬もつ煮込みよりも穏やかな味付け、塩加減で元々の味噌の持っている個性が2つのもつ煮込みの個性、差として強く出るのが大変面白いんです。

この豚もつが、なんと言おうかな、こんなの初めての体験!というくらいにふわりと仕上がっていて、初めはなにを食べているのかわからないくらいのチャーミングな食感。それに寄り添うようにして味噌の柔らかさとエッヂがたたない味噌の口当たりと塩分。ちょっと圧倒されます。ああ!おいしい!!

もつ煮込みに添えられたネギがきちんと切り口新しくシャキシャキしているんです。たったこれだけのことが全体を引き締めて価値あるものに押し上げていると感じます。この2つの定食はそういうものの積み重ねでできているのだ、と理解できるんです。驚くべきものだと思うよ。

最後に5粒のシャインマスカット。ちょっと固まるくらいの甘みと香りでした。これで定食それぞれ900円と750円。どうにも後ろめたくなってきます。いや、もっと置いていくってば。安すぎです。

毎年通っている桃の果樹園の奥様といい、ここのお母さんといい、思いがあって優しいひとばかりなんですよ。

ますます山梨通いの頻度が上がってくるね。