カレーですよ4827(チェーンレストラン ロイヤルホスト)カシミール、香りの遺伝子。

ご存じのロイヤルホストのカシミールカレー。ビーフ仕立てです。とても美味しいものです。

 

 

カレーですよ。

 

 

カシミールカレーの逸話で有名なものがあるの、ご存じですか。もちろん祖である湯島のデリーでの話し。

メニューブックの印刷の時に本来の名前ではなくまちがえてカシミールカレーという表記になってしまった事がありました。それをまあ良かろうと直さずにそのまま使って販売が始まったと言う逸話、実話。実はカシミールカレーという名前は当初意図とは違う間違った名前だったのです。そしてその間違えを直さず使った、ちょっとシャレの効いたやり方です。これが後で効いてくるわけです。

本来カシミールカレーなどという料理はインドにもパキスタンにもないものです。それはつまり間違って命名となったデリーのオリジナル料理ということになるでしょう。追随するレストランはその間違えエピソードを知らず、調べもせずで現地にあるカレーのジャンル、名前だと思ってそのままその名を使うわけです。つまりその名前をデリー以外で使うとデリーのマネ、というのがわかってしまうという仕掛け。

それこそがいま、金色の免罪符となって輝いています。唯一無二のものなのですよ。

田中社長に話しを聞いたことがありました。むかしむかしのとある日に、スーツ姿の数人組がやってきて全員カシミールカレーを頼んできました。あれこれと頭を捻りながら食べている様子。帰りしなに領収書を求められたのですが、宛名はロイヤルホストであったようで。そこは領収書なしで生きなさいよ!(笑)

そんなエピソードがあるそうで、立場によって思い色々ではありましょうが、歴史の傍観者のわたしとしては大変におもしろい。おおらかな時代であったという事です。

 

今は夏。カレーフェアを毎年続けるロイヤルホスト、季節メニューのページにオマール海老を使ったカレーなどがありました。が、やはり今日は「ロイヤルホストのカシミールカレー」が食べたかったんだ。

ロイヤルホスト、きちんとしたレストランだなあ、といつも感心します。ホールの女性担当さん、お客の少ない深夜帯でしたがホールにすらりと立って客への目配りをきちんと忘れない。素晴らしいな。接客もそうですが、端々に品というものを感じます。もともと「ファミリーレストランではない」と自ら公言するだけのことをやっているね。ファミレスではないよ、その町の1番の洋食店でありたいのだよ、という思いでやっている、と先先代だったか、代表の取材の時に伺った事があります。

 

さて、カレー。

まずビーフ、これ痺れる美味しさだよねえ。

ここは間違いなくロイヤルホストの面目躍如。柔らかく、旨味深く、香りよく。きちんと良い肉を使って然るべき調理をしてあるのがわかる味なのです。生真面目さとでもいうものを感じさせます。カットステーキが入っているという言い方がわかりやすいと思います。しかも品質、まったくもって悪くないのです。

それは他の食材にも及んでおり、じゃがいものねっとりした食感が途中からするりと喉を通る時に感触を変えるおどろきとか、タマネギはパリパリという食感を上手に残してあるところとか、ナスも嫌味のない揚げ具合とか。

そしてそれ以上に素晴らしいと思うのが辛さの落とし所とコントロール。

ロイヤルホストのカシミールカレー、けっして激辛にはしていないです。洋食店としての範囲を逸脱しない、他のメニューとのバランスも考えた中での強い辛さで、これは正直本家よりも食べやすいし受け入れやすいと感じます。つまり客を選ばないということ。ロイヤルホストというレストランの立場と顧客からたどり着いた場所だと思う。

たとえば、あの美味しい肉をちゃんと味わえる分のマージンを舌に残してくれているという事だったり。それでいて辛いものを食べた喜び、満足もくれるんです。大したものだなあ。このバランス感覚が全国チェーンということ。

逆に客を選ぶ、選べるからこその本家デリーの鋭く強い、ソリッドな辛さなわけです。あの辛さで田舎のロードサイドでの展開はできないでしょう。どちらのチューニングにも理由があり、納得ができます。

フルーツチャツネ。チャトニではなくチャツネが添えられていました。昔からあるあのジャムのようなやつ。これ、辛さ緩和もあるけれど、それよりも変化と奥行きを出すのになかなかの働きをしてくれる良いもの。福神漬けではなく桜漬けという合わせ方もちゃんと考えてのことであるのが舌でわかるのよね。圧倒される。

はじまりのヒントはたしかにデリーからもらってきたものかもしれないけれど、定番としてグランドメニューに長く掲載されているこのカシミールカレーはたしかに「ロイヤルホストのカシミールカレー」として咀嚼、消化され成長、個性をきちんと手に入れていると感じます。オリジナルから香るあの香りの遺伝子をきちんと受け継いでいるなと感じるのです。

オリジナルはよりシャープに、そして派生で全国に広がった洋食店のカシミールはリトルホット&マイルド、進化の別の道を歩んでいるのです。他にも別の進化の果てにある「それぞれのカシミールカレー」がいろいろな場所に存在します。大変に面白いものです。