テレビ東京「YOUは何しに日本へ?」をご覧になってこのページを見つけてくださった皆様。どうもありがとうございます。彼らにお店を教えて差し上げたのがわたしです。
このブログは外食のカレーを中心としたレビューメインのブログです。外食とカレーを応援しながら中食、内食のカレーや食をメインテーマに、デジタルガジェットのレビューやアウトドアギア、シューズ、ウェアなどの紹介記事なども織り込み幅広い記事内容のカレー中心のライフスタイルブログとなっています。ライター、ラジオパーソナリティの「はぴい」こと飯塚敦が執筆しています。
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ものすごいことになっちゃったのです。すでに2時間。レストランの行列のことです。そしてそこからまた1時間、ベルギー人の若者ふたりと荻窪の路地裏で突っ立ったままの3時間です。なにやってんだあたしは。ああ、これクレイジーってやつだ。彼らも肩をすくめています。そりゃあそうだ。
カレーですよ。
いったい日本人はなんなのか、そう思ったに違いないでしょう。ましてやこのわたしが、だよ。並ぶのが大嫌いでどうにもこうにも行列を憎んでいるわたしが、だよ。
多分これわたしの史上最高行列であると思われます。レストランの行列でわずか5分でキレて吉野家に駆け込むタイプのこのわたし。それが人生最長の行列に並んでしまった。TDL越えでしょこれ。でもね、そういう価値があるかないかというのはレストランの評価とは切り離して考えています。それはお店のせいではなくてメディアとお客の方の責任だから。
ここ、荻窪の
「トマト」
は日本の欧風カレーの最高峰です。そう断言したい。断言できます。 断言するってば。日本一だぜ。食べればわかるって。
そして、最高峰という言葉をもう一度考えてみてほしいんです。最高峰。最も高い峰、なのですよ。山岳、ヤマなのです。そりゃあ登頂するには困難も伴うってもの。そういうものを避けて安楽に旨いものを求めすぎていたのかもしれないな、あたしは。そうなのかもしれない。
が、行列は嫌いなんだよ(笑)
面白い縁だったんです。今回のザイルパートナー、ベルギー人のラファエルとエリー。まだ知り合ったばかり。しかも会うのこの日はじめて。
インスタグラムでわたしのカレー写真を気にいってくれて、よくコメントをくれるインスタフォロー仲間の「深海のメンダコ」さん。きれいな朝の自然の風景やリスが(野生)走り回る写真、動画がいい感じ。メンダコさん、京都旅行の折に、お味噌屋さんでやたらと日本のカレーのことを聞いてくる二人組のベルギー人に出会ったよ、と報告してくれました。その彼らに「だったらこのアカウントを見るといいよ!」とわたしのインスタグラムのアカウントを伝えてくれたそうなのです。あらそういうのうれしい。
で、そんなやりとりをしているうちにさっそく彼らからメッセージが届きました。
彼らはベルギー・ブリュッセルでジャパニーズスタイカレーのポップアップレストランををやっているらしいのです。なんでもレストランインキュベーター「ココット(Hub.Brussels)」に選ばれての出店だとか。8月からの営業ののち、いったん店をストップ。今回日本でカレーを食べ歩いて次のステップに移るらしいのです。おお、いいね。
彼らのの店の名前は
「koncyu brassels」
黄金虫のデザインの看板を掲げる日本料理、いや、ジャパニーズスタイルカレーのお店です。
来年4月、メニューを刷新し、あらためてリオープンする予定だそう。今回はいわば研究旅行なのだね。
そんな彼らからのコンタクトにうれしい気持ちで応えます。
いま日本の都市部では「スパイスカレー」というものが流行っていること、欧風やクラシックジャパニーズスタイルカレーはちょっと元気がないことなどを伝え、リクエストに応じてジャパニーズスタイルクラシックスにあいふさわしいと思う東京のカレー店を5店ほど彼らに伝えたのです。驚くべきことに彼らはそのうち4店舗をきっちり回ってきました。すごい!えらい!やるなあ。
特別に皆さんに、彼らに伝えたカレーのお店のリストを公開しますね。
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I recommend the following sweet and mild curries in Tokyo.
Jimbocho Bondi http://bondy.co.jp/web/
Jimbocho Gavial https://gavial1982.com
Ogikubo Tomato https://www.chuosen-rr.com/dining/interview15/
https://www.chuo-besthome.co.jp/local/lunch-tomato/
Nishiogikubo Spoon https://www.instagram.com/fcspoon/
Hatagaya Spice https://twitter.com/spice_1973
https://hapi3.net/20220317_curry/
In truth, there are many more. I would love to go to Tokyo for curry if time works out. I don’t speak Belgian or English, but I don’t think language is necessary if we eat curry together.
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そんな流れで5店舗目をわたしと一緒に、というお誘いが来たんですよ。一も二もなく乗ってみますってばそんなのは。なんという楽しい流れだろう!
で、そんな興奮と嬉しさないまぜのコミュニケーションからここで3時間の彼方にある「トマト」の、日本一と言っていい旨いカレーのために行列をしたわけです。彼らは諦めなかった。クレイジー!(笑)と叫びながら諦めない(笑)だからわたしも力を振り絞って3時間の行列に踏みとどまったのです。
3人とも朝飯を食べておらず、会話の中にカレーパンなど出てきたのをきっかけに、近所にあるパン屋さん「クサマ」へ走って(昔、近隣に住んでいたので地の利があるのよ)カレーパンを人数分買い込んで食べたりしました。カレーの前にカレーパンであります。
おいしいんだよね、クサマのカレーパン。クラシックな良いカレーパンで、その味、森下のカトレアのような流れを感じる正しくオーセンティックなカレーパン。
そんな長時間の修行のような行列に、ラファエルとエリーは禅的な何かを掴んだのではないのだろうか、カレーの悟りへと辿り着いたのではなかろうか、など睨んでおるのです(笑)。そんなことを朦朧とする中で考えます。これはやはり修行なのです。カレーとの対峙、カレーの修行。しばらく忘れていたよ、こういうの。願わくば皆さんはこんな目にあって欲しくない。遠のいていく意識の中でそんなことをほにゃほにゃと考えました。
その時トマトのお母さんが「どうぞー」と呼んでくださった。聖母マリアの声に聞こえたぞ。
こうなったからにはスゲーのを頼まざるを得ないわけです。さあ、どうする。
すると流石のラファエルとエリー。「3人で違うものを頼んでシェアしましょう」ときたんです。うむうむ、当然の処遇であり、そういうものの考え方が当たり前に出る彼らにシンパシーを感じずにはいられなかったよ。正しいカレーマニアのアクションです。カレーにちゃんとと情熱をむけているのがわかります。カレーマニアに国境はないのです。カレーに対して欲張りなのだね、わたしと同じだよ。なんとうれしいことだろう。
そんなこんなで、
「和牛ビーフジャワカレー」「仔牛のミルクカレー」「海老カレー」
をお願いすることと決めました。
1982年創業、40年の歴史をもつこのお店、食べてもやっぱりものすごいことになるわけです。ラファエルとエリーは真剣そのもの。テクスチャーをじっと見つめ、香りを熱心に嗅ぎ、二人で感想を述べ合ってそれを動画に撮っています。いいねー。
ビーフジャワカレー
3種の中では一番スパイシーなカレーがこれ。かなりホールスパイスが入っているのが舌でわかります。
スパイスが香り強く、抜け良く、シードなのにハーブ的な感覚がある香り方なのが面白いな。青々しく若い感じのスパイス使い、爽やかさを持っていて非常に気持ちがいい。そんな香りと相対する厚みある味わい、旨みでバランスが完結しています。こりゃあすごいもんだ。
ビーフが本当に柔らかく、こんなに柔らかくしないでもいいんじゃないかくらいの高級肉丸出しな仕上がりで最高なのですよ。これは心底美味いやつです。なんの抵抗もできません。シチューであるけれどカレーであるという「トマト」の真骨頂を感じる好バランス。ああ、夢のよう。
仔牛のミルクカレー
これはもう、初めからカレーを超えたところにあるもの言って差し支えないでしょう。まずはすごい肉が入っています。本当にすごいんだよね。
なんだこれは的な驚きに満ちています。柔らかく、舌にまとわりつくようなエロティックな食感に圧倒されました。まさにクラシックでゴージャスなシチュー、ミルクが強い素晴らしい味で分厚く濃厚、舌をくすぐるような甘みはとても自然なのに甘さ強く感じる不思議なチューニング。
ビーフジャワカレーはきちんとカレーらしさがあってね、奥の方、根っこにシチューを感じる作りなんですけど、これは初めからカレーであることを意図して放棄したような、でもほんの少しカレーなシチュー、そういう落とし所と感じます。これも偉大なやつだなあ。
海老カレー
ちょいと変わったスパイス遣いであると感じます。フェンネルとかカルダモンとかでありましょうか、スピードの速い青々しい香りが強くかおります。これもどこかハーブテイストを感じるな。ちょいと辛めに仕立ててあるのがまたいいんです。
最後にほんのりとビターテイストが口中に残るのが余韻となっていて心地よいですね。エビ、大変に美味しい。大きく、香ばしく、たくさん入っていて素晴らしい味です。口いっぱいに頬張る感じの大きさにも圧倒されました。ああ、もうなんかこういう海老カレーを食べてしまうとちょっと後戻りができなくなるな。海老カレー、これにて人生的に打ち止め、みたいな。
3種類、どれも夢に見そうな味なのです。目眩く(めくるめく)、というのはこのことだな。爆発的に美味しい。濃厚で、どれだけ手をかけたのだろうか、と想像してしまうほどの深くて重層的な味わい。深い淵の底を岸辺からのぞいてしまって震え上がるような感覚があります。
これはもう一朝一夕ではない味わいです。
ごはんにはチーズがのせてあってそれが溶けてしみています。クセのないでしゃばらないチーズを選んでいて感心させられました。強い味のカレーという食べ物といえども気をつけないとチーズの強さには飲み込まれることが多いからね。それとレーズンが数粒乗っているんですが、これが凝ったことやってるんだよね。ブランデーでしょうか、お酒に漬け込んであるのです。ただそのまんま、じゃない。玉ねぎの醤油漬けもオリジナルです。これ、おいしいなあ!
なるほどねえ。隅から隅まで、という感じで手がかかっています。本当にすべてに満遍なく手がかかっているなあ。
それらはもう、この場所だけの世界観を構築するのに絶対的に欠けてはいけないピースたち。それが染み込むようにわかります。
しかし、なんとまあ手間のかかった料理だろうねえ。これをカレーなぞという簡単な言葉で済ませてしまってはバチが当たるってものです。値段が高いという人は食べたことがないまんまでただ古い価値観の「カレーライスの値段」と比較してるだけなんじゃないかなあ。そいういうのダメだよね。全然ダメ。
ラファエルとエリー、大変満足した様子。よかったよかった。
で、ここでデザートにも興味があるようで、
「渋皮栗のアイスクリーム」
を注文することに。
これがまた具合が悪くなりそうなほど美味しい、素晴らしいもの。
栗は、これもブランデーかな、お酒に漬けてあって、それを食べて「僕の国にもコニャックに漬け込む栗のデザートがあるよ」など教えてくれます。ああ、もうなんだかさ、たまらなく楽しいカルチャーの違いを楽しむ会話が続きました(お互い翻訳アプリだのみだけどね)。食というのは本当に楽しい。言葉も人種も越えていくんだ。
彼らは実に熱心でiPadに今回日本で食べたカレーをスクラップしてあってチャートをそれぞれにつけていました。なにがうれしかったって、彼らのカレーに対するスタンス。
それをわたしに見せながら「このチャートの数字はね、いい悪い、美味しいかそうじゃないかじゃないんだよ。辛さや感覚を段階的に表していて肯定否定ではないんだ。」そんなことを語ってくれました。彼らはまさにわたしが立っている場所と同じところに立っているんです。わたしと同じ想いでカレーに相対している。本当にうれしい。涙が出そうになります。
そう、いい悪いではないのですよ。これはね、その個性がどこにあるのか、どっちを向いているかを指し示すチャートなのです。
いい悪いじゃない。愛なんだよ。食べログなんざ、あんなものは意味がないのです。見ないでよろしい、ザマーミロ!サイコーだ!!
その愛をもって彼らはこれから新しいレシピを練り上げるのだと思います。願わくば日本で体験した素晴らしい食のイメージを具現化してほしいものです。
わたしは来春、彼らに会いにお祝いをもって、ベルギーに行かなければいけないな。
追記
実は彼らにはテレビクルーが張り付いていたんです。驚いた、おもしろかった。
在京局です。(テレビ東京)もしかするとあなたの家のお茶の間で、笑い合うラファエルとエリーとわたしとが写っている映像が流れるかもしれないよ。(もう流れた/笑)
テレビ東京「YOUは何しに日本へ?」の2022-11-28放送回紹介記事。
https://www.tv-tokyo.co.jp/youhananishini/article/?id=012455
TVerで2022年12月5日夕方まで見られるみたい。是非見てください。