深夜25時過ぎ。思い立っての南新宿。こんな時間に頼りになるお店があるのです。そういうお店が本当に少なくなったよな。
カレーですよ。
昔は良かった、は老人の口癖でしょう。時代は移り変わります。でもやっぱり良かったことは多かったよな。
たとえば大久保と新宿の間、職安通りの端にある懐かしき「グレートインディア」は早朝までインネパっぽい感じのグレイヴィをたくさんの種類用意して待っていてくれました。よく店の前に深夜、オートバイを止めてカレー食ってました。
錦糸町の「アジアカレーハウス」は20時からの開店とまるで深夜食堂。早朝までの営業は大変ありがたかったな。ポーターのバングラのあんちゃんたちと食べるベンガル料理はちょいと楽しかったのです。しかしコロナで風俗が失速して終夜営業は無くなっちゃった。あの上下白の麻のスーツにパナマ帽のバングラ紳士はどうしてるだろう。
麹町の日テレ横の老舗「アジャンタ」は24時間インド人が腕を振るってくれて早朝であろうが深夜であろうがものすごくうまいインド料理を食わせくれました。それも時代が変わり、テレビ局が移転して深夜と早朝のテレビマンのニーズがなくなって深夜営業は終わってしまったのです。
そんななかで孤軍奮闘、気を吐くのが新宿の文化服装ならびの歩道橋下にある、
「パトワール 新宿店」
いつも助けられるよねえ。
新宿南口を通り過ぎて青梅街道を初台の方に進みます。商店、飲食店が途切れて夜中の学校のがらんとした寂しい空気が漂う前を通り過ぎると突然派手で明るい光が目に飛び込んできます。ウィンカーを出してブレーキを踏まざるを得ない。しかたがない。
こんな深夜なのにカーンさんが厨房に立っていて、待っていてくれます。うまいカレーを作って待っていてくれるんだよ。ほんとうにうれしい。
今の状況的、時代的にもなかなかこんな尊いお店はないと思う。
この日もいつも通りのC弁当、ドライカレーを頼みます。カーンさんはなぜか鍋を2つ火にかけます。予感は的中、頼んでいないビリヤニ弁当が出てきてしまうわけです。わたしがカウンターで1ミリほど視線を動かしてビリヤニのメニューを眺めたのを察知されたのか?!
お札を数枚を間に置いていつもの押し問答。むず痒くも幸せな時間です。いつもわたしが根負けします。カーンさんの気持ちが伝わるよ。
結局やっぱり折れてC弁当だけの支払いとなってしまいます。
サービスも、深夜営業も、無理はけっしてしないでほしいんです。しかし、深夜の気持ちの拠り所があるというのは、わたしのような不定期でフラフラと仕事をしているような人間にとっては、あの場所にあの光が灯っているという事実だけで、それはもう「救い」なんです。それを思うだけでも気持ちのささくれが消えていきます。
しかしそんなことを言っているだけではダメなんだ。店はいつか消えるのです。必ずとは言わないけど、それでも、どんな名店でも消えるんです。その消える日を10年、20年と先延ばしにする力を持つのが我々お客なんです。だから、行って、食って、金を落としてなんぼなんです。
せっかく日本に来てくれて、気持ちを込めてうまいもんを食わせてくれる彼らに恩返しをせねばいけない。そうでしょう?
わたしはいつもそう思っています。