ちょっと驚いたレトルトカレーがあるんです。2回、驚いたんだよ。
カレーですよ。
テレビ関係者の中では有名なお店。そういう流れでテレビや媒体を通して普通の人も知るようになったのですが、元々は欧風カレーの専門レストラン。イートインが当たり前でしたが、いつしかデリバリー専門にシフトをしてお店での食事はできなくなっていました。
もうお分かりのあの店、四谷三丁目の
「オーベルジーヌ」
です。
甘く深い味はボンディ周辺のそれとも違う個性を持ち、東京のカレークラシックスということで括れば必ずその名が出てくる名店といえましょう。
このレトルトカレー、新発売ということですが、たしかすでにレトルトがあったはずだよねえ、と訝しみながら情報源のSNSのアカウントを見れば。あは〜!なんと「36チャンバーズ・オブ・スパイス」の名前。おお!36房が欧風カレーの極北をやるのか、と思わず腰が浮きました。これは面白いことになったぞ。
これが1回目の驚きです。
さっそく成城石井に出向いて手に入れました。いい位置にフェースをとってたよ。オセオセだよね、有名な店だし。
さて、湯煎。そしてさっさと封を切ってカレーをかけて、と。袋を絞って指についたカレーソースをペロリ。きたきたきた。これだ、これだよオーベルジーヌ。驚いた。ほんのちょっぴりの舌への入力で「ああ、これはまちがいなくオーベルジーヌのあじだ」と脳が反応してしまう。ご馳走をこれからたべる、という気構えに気持ちがスイッチする。ああ〜こりゃまさしくアレそのものだな。2回目の驚きです。
レストランの食事、外食の料理に対してレトルトなどでの「再現性」という言葉はあまり好きじゃないです。でもこれ、相当なニアですよ。
うはー甘い。そうそう、そうですそうだった。カレーでここまで甘いのはどうなんだ、と思うのですが、食べ進めると、甘さ、これでいいんではないかと思わされるんだよね、いつも。奥行きがあり、かつ甘さが平坦ではなく立体的だから受け入れられちゃうんです。そこが面白いし、凄みさえ感じさせます。素材の良さとスパイスの支えでそうなっているのかしらね。
必ず添えたいじゃがいもとのコンビネーションがまたよく合うのよねえ。
甘いのですが、けっしてお子様向けではない味です。奥の方にきちんと汗かく辛さもひそませているから。この感じが不思議で面白くて夢中になる人も多いのではないかしら。わたしはそうです。
肉、ああ、肉がちゃんとしてるなあ。というか、ちゃんとどころではないな。美味いんだよ。文章、いつも好んで「旨い」と書くんですが、これは「美味い」が正解。旨、ではなく美味だから。
ちょっと色気をのっけてやるかとガーリックシュリンプを手元でさっと作ってみたよ。エビ、かなり味強めに仕上げます。甘さに負けないようにね。ニンニクと塩とオリーブオイルだけの素朴なものです。そのままだとちと塩辛いだろうなあ。が、これがぴたりときたのです。こういう強い味をぶつけてもいなしてしまう腰の粘りがこのカレーにはあるんだね。本家もそうなんですが、これも寸部違わぬそういう落とし所。なんとまあよくできていること。
これ「おやつ」でいいかもしれない。スイーツ分類でいいかもしれない。オーベルジーヌのカレーはもともとそれくらい甘いんです。しかしごはんが止まらないんだ。カレースイーツ番長と呼んであげたい。東京カリ〜番長もドルチェビータのスイーツ番長も一切関係ないけれど。でもこれやっぱり四ツ谷カレースイーツ番長だとおもうぞ。
初めての人はこの甘さに面食らうかもしれないです。こういう世界もあるのかあ、と一歩引いて思う人も多いかな。例えばそういう舌であれば、真価を発揮するのは追加具材、トッピングです。
今回は強めの味のガーリックシュリンプとしましたが、例えばカットレットを合わせてカツカレーにしてもいいと思います。なんというか、例えてみるに、名古屋飯である味噌カツ的体験になるのではなかろうか、と想像してるんです。ピクルスとか野沢菜漬けのような塩分や酸味、甘さと相対するような付け合わせもいいと思う。ジャガイモももちろん、古くからの欧風カレーの友ですからね。
個人的な意見ですが、好みで言えば甘すぎると思う。が、結果どうなのかというと、食べ始めればスプーンが止まらないし、ひと口ひと口、なんだこれは、と考えながら頭が忙しく回転するのです。だから気がつけばあっという間に完食、なのです。初めから好きでわかっていて食べる「あっという間の完食」とは違う、考えて、わからなくてもうひと口食べて、面白くてもうひと口食べて、また考えて食べて、の繰り返しの果ての「あっという間の完食」。だからまた食べて確かめたくなります。考えるのが楽しいから。ちょっとした自分の味覚の棚卸しをさせられる感がありました。まったく興味深いカレーだよね。
つまりオーベルジーヌのカレー体験そのままなわけです。すごいことです。
当然だけど、お店に行って鍋から注がれるお弁当を買うのが一番いいに決まっています。それこそ本家であるわけですから。でも長期ストック、夜中に食べたいなど幅のあるニーズを十分な満足でカバーできる良い製品だと感じました。
なにものでもないオーベルジーヌの世界観が袋に入ってやってくる。これは事件だと思うぞ。