久しぶりに老舗のカレーブログ仲間、エスニカンさんから招集がかかったのです。その時点で楽しい集まりに決まってるのでスケジュールをキリキリと調整。
カレーですよ。
どんな集まりなのかしら、と聞いてみれば、ダクシンの新店。そうか、大手町店が開いたのだったね。八重洲店が再開発で閉まってどうなるかなと思ってたら大手町に出店。嬉しい人が多いはずです。そりゃあもう、ますます一も二もなく行かねばならないのです。ラターさんには親切にしてもらってるしね。エスニカンさんとも随分久しぶりだしスパイシー丸山さんにも会えるし。
大手町店、とんでもないお店でした。おそらくこういう立地でこれだけの規模内容のインドレストランは東京にもそう多くない、いや、なかったんじゃないかな。
ビジネス街のど真ん中、大手町ファーストスクウェアの101という住所。NTT土地開発が大手町の真ん中にぶっ建てたツインタワーの超高層オフィスビルです。
簡単にいうと最新のモダンオフィスビルでキラッキラにカッコいい場所です。
はじめに地下の飲食店街を探してしまったんですよ。思い込みだよね、高層オフィスビルの飲食街はだいたい地下にあるって。いや、だいたいそうなんだけど。
ない。ないぞ。案内板を改めてみると1階にあることを確認できました。あれれ、1階に飲食店街はないはずだけど。行ってみると、、建物、独立してた。しかも大きい。うはー、、キラキラしているよ。これは、、、これはすごいぞ。
ああ〜なるほど。大切な友人や大事な恋人を背筋を伸ばしてエスコートするに値するファインダイニングだぞここは。この場所にふさわしいレストランです、
「ダクシン 大手町店」
驚きました。
やっと最近になってファインダイニングと呼べるようなインドレストランの芽吹きが東京にもやってきていると感じるところがあります。その最前線をゆくレストランがここではないかと想像できます。超高層の谷間にそれと肩を並べる存在感のレストラン。(でも実は他のダクシンのお店とおなじくらいのお値段なの!)
久しぶりのラターさん、ダクシンのオーナーです。笑顔で迎えてくれます。「やせました?」など聞かれ「いえ、変わらず太ってます」など返してふたりで爆笑。
店は超高層の谷間にそれに付帯する形での戸建て路面店、2階建というもの。エントランスにはモダンな美しさがあり、ちょっと洒落た小さなホテルのよう。誰かをエスコートするときに「さて、ここだよ」と告げる時に誇らしい気持ちになると思います。
フロアは1階と2階。1階は少しカジュアルなイメージでディナータイムはバーになるそう。2階はより落ち着いた雰囲気でディナーメインとなっています。とはいえ2階窓際にカウンターも設えてあり、わたしのようなひとり外食のお客にも居場所がつくられていてとても助かるのです。
さて、ディナーだよ。
メニューを眺めるとダクシンのお馴染みのメニューも多くて少しホッとします。
さて。
こういう雰囲気でまず頼みたくなるのが、スープ。渡辺玲先生もおっしゃっていましたが、わたしも同感。インド料理を提供するお店で、レストランと食堂との差というのがあります。矜持と言ってもいいかもしれません。それはメニューにスープを載せるのか載せないのか、という話しなのです。スープが用意されるお店はキャンティーンではなくレストランとして自覚を持って運営されていると考えていいでしょう。
トマトスープ
これ、おいしい。酸味とまろみのバランスがとても良いもの。ガーリック使いでパンチを作り、イタリアンの食体験に近い感もあるんですよ。面白いなあ。パスタソースに仕立てることもできそう。こういうのでちょっと楽しくなるんだよね。そこに至る理由や歴史はたくさんありましょうが、別の国の料理がその国の料理と不思議な合致を見ることが多々あります。ルーツを探るのも、ただおいしい驚きと共に食べるのも、どちらもいいものです。
サンバルワダ
グレイヴィに浸したワダです。豆粉のドーナッツ。かなりスパイシーなサンバル、野菜煮込みスープは辛めに仕立ててあってとにかく香りがいい。そこにワダをじゃぼん、というわけです。わたし、こういうの好きなのです。インドの人は揚げ物をスープに入れちゃうのが好きな人も多いらしいですよ。わたしも賛成。しんなり揚げ物が好きなのです。スターターとして胃袋を刺激してくれるとてもおいしいものです。
パイナップルサラダ
ほんの少量のスパイスかなこれは。チリやマスタードシードなど見えます。それらを加えて短い時間火を入れているみたい。日本人的感覚でいくととても面白い。サラダという名前ですが、ただフレッシュを出すのではなく手を加え火を入れているのは興味深いです。加熱したからか、スパイスとの対比からか、甘味が際立っていました。チリの辛さやマスタードシードは極々控えめ。もともと美味しパイナップルがもう少し美味しさを増す感じ。
バンガロールチキンフレーク
家庭料理だそうで、マンチュリアン的、酢豚的甘酸っぱい味です。ラターさんのおうちの味かな。アジアの料理全般に言えることですが、その国の純粋な土着料理と華僑の人たちの持ち込んだ味のミクスチャーとの2本が柱になっている食文化ってのが多いと感じます。日本人の舌に馴染みやすい味なので覚えておくと役に立つと思います。インディアンチャイニーズといえばウェイターさんがピンと来てくれると思います。これ、ビールによく合うなあ。
タンドール料理も良いものが数々。
南も北もあるメニュー構成は楽しいし、食堂でなんでも出すのとは違うセレクトの洗練からくるモダンを感じます。タンドールの炭の香りがとてもいい、、と思ったら、違った!ここはガスタンドールだよ(笑)あたしとしたことが!
ではなんだろうこの香りは。
たぶん、なんですが、新品のタンドールを導入するにあたり運用前に仕上げを必要とするわけです。その折に黒糖でくず野菜を煮込んでできた粘度の高い液体をタンドール内側壁面に塗って弱火で炙り、また塗って乾かし、というのを繰り返すんです。インドで買ってきた自分のタンドールでもオールドデリーのタンドールショップで目撃した作法そのままに忠実にやりましたよ(牛糞燃料を除く/笑)。それが済むと本稼働になるんです。そのおろしたての新品タンドールの仕上げのときのあの香りかこれは。香りがまだシャープなのは仕上げたばかりだから、そのせいか。ちょっと経年変化を継続して観察、またタンドリーチキン とか食べて試してみたくなるよなあ(タンドールマニアなんであるよ)。
パニール
タンドール料理で肉よりそれ以外のもの、好きなんだよね。特に野菜はふっくら仕上がって旨みがギュッとなっておいしいんです。カリフラワーなどとても好みでね。パニールと野菜を焼いたこれも大変な美味しさです。肉もそうなんですが、タンドールは野菜もそのポテンシャルを存分に引き出してくれる調理機材です。遠赤と蒸し焼きの効果が重なって素晴らしい仕上がり。おかわりしたいぞホントに。
タンドリーチキン
これ、素晴らしい仕上がりだった!「タンドール料理で肉より野菜が好き」と言い切ったばかりなのにすぐに撤回したくなりました。鶏肉で「ほどける」という表現はなかなか使わないのではないかしら。まさにそういう食感ががあって驚かされます。これは機材だけではなし得ないもの。下準備のマリネの時間と内容でもでも大きく変わるし、もちろん串打ちから焼結までも技術や勘が必要。これは、大変良いものです。素晴らしいなあ。
タンドールの料理はお肉のもの、多いです。赤ワインがよく合いますよ。
これはインドワインのスラーの赤。いいぞこれ。「スラ・ヴィンヤーズ シラーズ」フルボディの辛口です。
パニールパコラ
ここでパコラ登場。インドのカッテージチーズのフリッターです。ワインによく合うねこれも。強い味付けはなく、ケチャップで食べます。インドの人、なんかケチャップ好きな印象があるんです。ワインはおなじくで「スラ・ヴィンヤーズ シラーズ」。辛口の赤はどんなインド料理によく合うと感じます。スパイスに負けてないんだよね。インド料理にはビールよりもワインな気がしてます。
さて、カレーの時間。
ラッサム
ラッサムはカレーじゃなくてスープです。酸味と辛さで緩んでいた舌と頭がシャキッとするねえ。いいラッサムです。リセットがかかるような鮮やかな味。ちょいとお腹いっぱいだったんですが再び舌と胃袋がみるみるうちにやる気を取り戻します。
チェティナードチキン
オリエンタルな香りはシナモンやクローブかしら。個性があって大変おいしいカレーです。辛さは控えてあり舌にキツくならない調整です。
食べ応え感じるよ。
ベジタブルマサラ
本当はスープ仕立てなんですって。あたしがラターさんにぐだぐだとドライタイプの話をしていたら、じゃあ!とセミドライに仕立ててくれました。おどろき、感激。野菜のカレー、ジャルフレージとかアルゴビとか炒め煮系の野菜カレーが好きなんであるよ。ありがたいなあ。
トマトベースでココナッツがフワリ。とても好みです。
パロタで食べたんですがパロタ自体も良かったし、そのパロタを刻んでクトゥパロタを作ってくださったりね(メニューにはないです)。あれだ、スリランカのコットゥロティ(もしくはタカタク/パキスタン)だなこれは。これもいい。うまい。ああ〜全部おいしいぞ。
どうにもえらい量を食べてしまいました。
友人たちと食事をすると(特に舌の趣味があう友人)色々なものが試せてとても幸せです。しかもエスニカンさんと来たのでラターさん(ダクシンのオーナー)がつきっきりでいろいろなお話を聞かせてくれるんです。至福とはこのことか!スワミマネージャーもテーブルに来てくださいました。銀座のアショカでの勤務経験もある腕っこきです。なんという贅沢。
ココナッツアイスクリームと(これが極上なの。そしてまだ食べる/笑)チャイでしめて、素晴らしい夜の終わり、です。
食事が終わりそうなタイミングでレモンが浮いたフィンガーボウルが出てきます。まちがいなく、ハイクラスな本物のインドレストランです。
最後に口直しでお馴染みのフェンネルが、きちんと説明書きがあって尚且つはじめから砂糖がけのカラーフェンネルと、素のシード、そのシードに合わせるためのザラメ糖までセットされたガラスの入れ物がやってきます。カインドネス、ホスピタリティとはこのこと。まいっちゃうね。
店内の少しくすんだ柔らかな生成色とスタッフの制服のクリーム色とが柔らかい印象を作りだしています。この色がラターさんの故郷のイメージの色だそう。そういうところまで作り込まれた素晴らしい世界観が用意されているのです。
なんとも気持ちのいいレストランです。インド料理という限定された括りで考えないでもいい、むしろその枷を外して食事の選択肢に入れるべき場所だと感じました。
さあ、ランチも早々に行ってこなくっちゃ。