寒い季節がやってきました。りんごの季節だよ。
カレーですよ。
りんごとくればわたしは焼きりんご。昔々、子供の頃に母がよく焼いてくれたのです。大人になってからは外で食べることを覚えました。
母の実家、つまりわたしの田舎は恵比寿にありました。母は今のガーデンプレイスがあるあたりに大きな敷地をもつメリヤス工場の娘。敷地の中にはアパートがあったりしたそうです。その後通り沿いの便利な土地との交換などあって少し小さくなった敷地の工場でよく遊んだ記憶があります。それでもすごいひろかったけど。モーターで水を上げる井戸があって夏で揉めたくて驚いた記憶があります。
母の兄、わたしの叔父は趣味人で赤いFJ40系のショートボディを持っていたのを覚えています。あれね、リアクォーターウィンドウが角に曲がってついてるあれ。本気の実用品だったみたいで、狩猟犬も数頭飼っていて居間にはガンロッカーがありました。
そんな家で育った母は独立心も旺盛で20代で洋裁の仕立て屋を自分で起こしたそうです。のちには淡谷紀子さんの衣装などをやっていたそうで。日劇の裏口から楽屋への納品、代金と別に淡谷さんからお小遣いをもらうこともしばしばあったようでお家にバスで帰るため渋谷駅で乗り換え、そのときに駅前の「渋谷西村総本店」の中にある「西村フルーツパーラー」で当時一番安いメニューだったという焼きりんごを食べて帰っていたそうです。現在「西村フルーツパーラー」のメニューに焼きりんごは載っていません。
そんな思い出もあって焼きりんごには並々ならぬものを持っているんですが、さりとてなかなかメニューに載っているお店は多くありません。しかもあたしはカレーの人でカレー以外はとんと知識不足、情報不足とくる。そんななかでカレー専門店で焼きリンゴを出してくれる店が東京と千葉に1軒づつあるんですよ。
ひとつは神田神保町の「共栄堂」。冬時期だけのお楽しみです。そして千葉、検見川の名店
「印度料理 シタール」
です。冬になれば思い出す、あのスペシャルなデザートメニュー。インドレストランらしいアプローチで、タンドリーチキンやナーンを焼くインドの土釜「タンドール」で焼き上げています。タンドリーチキンでも使われる長いステンレスの串「シーク」にりんごを串刺しにして焼いているんですって。
その名も、
「タンドRINGO」
だよ。タンドールで焼いた焼きりんご。唯一無二の存在です。とはいえデザート。夕食の後のお楽しみですからね。
まずはカレーだな。わたしは迷いに迷ったんですが、季節メニューを楽しみたくて、はじめに
「あったかサラダ」
を。
「シタール」の冬の名物でもあるこれ。温野菜にエクストラバージンオリーブオイルをたっぷり。焙煎したスパイスが加えられます。これがシンプルなんだけど美味しいんだよねえ。野菜はこういうのがいいな。
凝ったドレッシングも大好きなんですが(調味料好き)温野菜ならシンプル、効果的に野菜の良さを引っ張り出すこういうやり方が好みです。ああ、おいしい。
続いてカレー。
「オーガニック豆と北海道産バターの ダールマッカニー」
これ、大当たりだぞ。
「骨付きラム肉のカレーローガンジョシュ」とすごく迷ったんですが、この夜の口は豆を欲していました。ダールでも南の方のさらりとしたものだったらちょいと寒い冬の夜でもあるし、考えてしまったと思います。ムガル王朝宮廷料理スタイルであるマッカニーであったからディナーでのボリュームとしても遜色ないだろうな、と選んだんですが大正解でありました。
2種類の有機栽培ムング豆とラージマ豆に澄ましバターを落としてかなりリッチに仕上げてあります。その重厚な味わいはちょっと悲鳴をあげそうになるくらいの美味!パン類にベストマッチの粘度高く舌触り心地いい、濃厚豆ポタージュ的な仕上がりですこりゃもう。夢中になってしまったよねえ。お肉、いらないぞこれ。
それで、パンは
「大人のチーズナン」
をチョイス、ここまで全て冬の季節メニューです。
「大人のチーズナン」にもまいったねえ。ブルーチーズ、ゴルゴンゾーラが使われていますがもう容赦なくたっぷりでね。あのちょっと痺れる感じの舌触り、味。香りとナーンがこんなに相性が良いものか、と驚くわけです。が、その先があるんだよ。テーブルサービスとしてカスタマーセットにあるシタールオリジナルの「野生黒蜂蜜」をかけてやるんです。ワイン飲みのあなたならボトルが1本、軽々空いてしまうはず。そういう味、そういう堪らぬものなのです。ああたまんない。
あまりに濃厚甘美な味で、片やの「ダールマッカニー」も負けずの個性。勿体無くて合わせず別々に食べることになっちゃった。ちょっとまいってしまったよ。これ、あれだ。同じく季節メニューのページに載っていて気を惹かれた「ロングペッパー焼酎」とあわせるといいに違いないね。「シナモン梅酒」もいいだろうなあ。
スパイスリカーがさりげなく追加されているのにも感心。ちゃんと昨今の「スパイス料理飲み」のトレンドをキャッチアップしているんです。「印度料理 シタール」は老舗ですが、伝統を守りつつもひと所で足踏みなぞしていないんです。それが老名店たる所以。この外食産業の厳しい時代、古い看板だけで商売ができると思ったら大間違いなのよ。
妻はわたしの向かいでシタールのバターチキンカレーに悲鳴をあげています。さもありなん。この世界にはバターチキンとシタールのバターチキンの2種類があるのです。いや、実際に食べればその通りと思うはず。それくらい、よく知っている町場のインドレストランで食べるアレとはまったく違うんです。ちゃんと分けざるを得ないのです。
なんというのだろうな、おいしいチーズをミルクに仕立ててを飲んでいるような気分とでもいいましょうか。うますぎてナーンやライスの存在を忘れてひたすらすすってしまうんです。飲みたいバターチキンカレーなのであるぞ。
「トライアルカレーセット」
の中のチョイスで選んでいて賢い選択。シタールの代表的な定番からカレー2種類とナンまたはライスを選べるサービスセットです。
もう一つ選んだのがチキンドピアイザーで、これまた実にいい。美味しいんだ。昔はよく見かけたピアジャ、最近ではメニューにない店も増えましたがここシタールには定番で載っておりありがたいんです。良いものをしっかり継続してくださりるありがたさ。長く続く店での食事の喜びがこういうところにも見えますね。
さあ、「タンドRINGO」だよ。
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信州「なかひら農場」のりんごをまるごと!
シナモンなどのスパイスとレーズンを詰めて香りを閉じ込め、タンドーリ窯でじっくりと焼いた焼きリンゴの冷たいデザートです。バニラアイスクリームとの相性抜群!
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とメニューに説明がありました。これがとにかくとんでもなく美味しいんです。
インドの土釜、タンドールはご存知か。タンドリーチキンやナーンを焼くあれのことです。あれ使って焼きりんごを焼くなど、他のレストランには真似ができないでしょう。なにしろインドレストランならではです。
シーク(鉄串)にりんごを串刺しにして釜の中に差し込みます。タンドールは遠赤外線効果と蒸し焼きの調理器具。これでくったりするまで焼きあげます。粗熱が取れるのを待って香りの良く力強さ感じる素晴らしい蜂蜜、シタールオリジナルの「インド産野生黒蜂蜜」に漬け込むのです。提供時にはそこにアイスクリームが添えられる、というもの。
説明しているだけで眩暈がしそうであるよ。我を忘れる、という言葉がありますが、甘いものとカレーはいつでもわたしを忘我の境地に攫ってくれるのです。食べて、気絶して、ハッと気がついてまた食べてもういっかい気絶する、みたいな感じ。気がつくと皿は空っぽで涙が出てしまうんです。
泣いてないでもういっこ頼めばいいんですが大人気ないので我慢です。ああつらい。これ食べてない人生はもう手落ちとしか言いようがない。ほんとに。いつも通り、魂が抜けかけていますがなんとかからだを持ち上げてお会計です。
席に着いてすぐにマダムにお会いできて(これが目的でもあったの)、お話しを聞けました。これでECサイトからのギフトの不明点も解消。まったく痒い所に手が届くとはこのことです。助かった、助かった。大事な人への贈り物なので万全を期さないとね。その点シタールのECから送る冷凍のカレーやナーンのギフトは安心感が違います。
飲食店としての背骨の強さ。あたりまえを続けている強靭さ。
レストランはやっぱりひとだなあ。