思い出のカレーというものがあります。いまはもう食べられない、とかそういうやつ。しかし奇跡としてそのお店がなくなっても、調理人が包丁を持たなくなっても生き残る味が、ごくたまにあるのです。
カレーですよ。
江ノ島とか、そうだよなあ。マスター向こうでどうしてっかなあ。
少し前にテレビに出たときのお話です。番組は「熱狂マニアさん!」だったかな。カレー好きの連中が集められレトルトカレーの紹介をしたんですよ。そのなかで全員が頷き、1等賞を取ったのが強く推している食品メーカー、「36チャンバーズ・オブ・スパイス 」の製品。
「ビーフルンダン」
わたしの大好きだった、いまはなき荻窪「馬来風光美食」のエレンさんが監修をしたものです。
えらく完成度が高く、大変な美味しさのプロダクト。どうにもこうにもうまいのです。レトルトという枠を軽々と越えてくる恐るべき仕上がり、味なんだよ。きちんとルンダンとしての個性も残しつつ、コンシューマーの幅広い舌にもフィットする旨さ、上手さ。
そんなすごいものを手掛けたエレンさんはもうこちら側にはいません。くだらない言い方だけど、しかしやはりちょっと、信じられない。
ルンダンという料理はインドネシア、マレーシア、シンガポールなどの周りで食される肉煮込み料理です。マレー系ムスリムの人々の料理がルーツのローカルフード。塊肉をココナッツやスパイスを使って煮込んだものです。なぜだか日本にもってくるとカレーという括りにされてしまいます。
味は少しすっぱさがあり、辛さの背骨と美しい香りという構成。スターアニスがオリエンタルな香りを紡ぎ、いかにもアジアの料理の雰囲気を醸し出します。生姜がぐっと効いていてからだの芯から汗が滲み出るのがいいよね。しかし決して難しい味ではないんです。多くの人が美味しいと感じるはずの落とし所。なんか素晴らしいなあ。
当然肉、ハイライトとなるわけで、食べ応えある良い塊がドスンと入ります。レトルトパウチの封を開ける前から袋の大きな膨らみがわかって食べる前から期待をさせてくれるんです。
エレンさんがいなくなって、それで思い出したようにまたこれを食べて、彼女の笑顔や可愛らしい声を思い出して。素晴らしいことだと思う。この料理「エレンさんの」ルンダンを食べるたびに彼女を思い出し、まだ絆が繋がっていることを確認できて、自分の中に血肉となって彼女の料理が残る。すごいことだよ、本当に。
図らずも、なのはもちろん知っています。しかし
「36チャンパーズ・オブ・スパイス」
は本当にいい仕事をしてくれました。故人の味、まだこちら側に残っているわたしたちが未だに楽しめているのだからね。こんな奇跡は稀なことだと思います。
エレンさん、そっちはどうかな?楽しくやってるかい。