その店はちょいとわかりづらい路地にありました。幹線道路から細い路地を折れてほんのすぐなんですが、その路地、歩行者だけ、クルマは入れません。クルマの入れない行き止まりの細い路地。そんな横浜市立杉田小学校の脇の路地なんてところに。なぜここにお店が、というような場所にそっとありました。
カレーですよ。
京急本線杉田駅とJR根岸線新杉田駅のあいだに国道16号、横須賀街道がとおっています。あいだは空くけどそれなりによく使う道でもあり、そして新杉田とくれば「バーグ」と決まっていたりするんですが。
「バーグ」が入っている国道16号に面した「らびすた」というビル。実質新杉田の駅ビル的に駅直で繋がっている施設の中に「バーグ本店」は入っています。クルマで行くにはちょいと面倒なんだよね。それで「バーグ」所望の時はついつい路面店の浅田や鶴見に行ってしまうんです。
で、この日は「バーグ」ではなく、と思ったんだよ。重く暴力的で直感に訴えてくるやつ(激ほめ)じゃないのを選ぼうと思ったから。そういうんじゃない日だってもちろんあります。さて杉田界隈、「バーグ」以外と知らなかった。そうだよなあ、迷わず「バーグ」だったから。そんなときちょっと良さそうなお店を見つけました。
「カレー専門店 カンパネラ」
もう5年、ここでやっているようでした。へええ〜!カレー専門店の5年。新型コロナウィルスの蔓延の時期を乗り越えたりと大変な時期を何度かやっつけてきたはず。それで続けてらっしゃる。ちゃんと訳があるはずです。期待をして入りました。
まず入り口、洒落ているなあ。看板やメニューなどのアートワークが大変にかっこいい。店内も同じトーンでセンスあるインテリア、エクステリアになっていました。
カレー、すごくよかったんだよ。
「フィッシュマサラカレー」
を頼みました。
メニューには「ポークマサラ」、「チキンマサラ」、「フィッシュマサラ」が定番として並び、この日は日替わりで「つぶ貝とほうれん草マサラ」、「舞茸とニンニクの芽チーズ牛キーマ」、「ホタテマサラ」、「エビとクリームチーズマサラ」など大変に魅力的なラインナップ。うーん、こりゃ悩む。かなり悩みましが「フィッシュマサラカレー」としました。ノルウェー産の良さそうな鯖を使っているようで、これに決めたぞ。で、大正解を引いた模様。
まずは楽しい見た目。ごはん、大盛りにしました。朝から何も食べていなかったからね。ごはん縦方向に大盛りになっているのがとても楽しい。うーん、これいいな。この縦長のごはんをくずさぬまま上からだーっとカレーをかけるの、楽しいな。カレーナイアガラみたい。いや、カレー華厳の滝か。
カレーソースはタマネギを丁寧に炒めた基本に忠実、正きスタイルで甘みと奥行きが素晴らしいものです。バランスがいいのだねえ。こりゃあおいしい。そのカレーソースと鯖の融合がまたなかなかに旨みパワー感じさせる良いものでね。夢中になります。少しの苦味と自然なあま味と奥行き。これはいいものだぞ。
店内の掲示の中に「マサラとは」というのと「アチャールとは」というのがありました。まさにこのお店の調整の落とし所が如実にわかります。マサラとアチャールという言葉に不慣れな人にも優しいという着地点。そしてこの味。
なるほどそうかと頷かざるを得ない。うまいなあ。いいなあ。好きな落とし所です。
経験値が高い人には真面目で手が掛かっていることがわかり、マサラという聞いたことがない言葉に警戒する人には「こんなに美味しいものがあるのか」と新しい扉を開けてあげる。そういう味。
現地そのままとかこうひねってここに出っ張りをつけてあそこをふくらませて、とかクセづけや考えすぎをしておらず、しかしきちんと心に響く美味しさ。それでいてちゃんと個性が滲みでています。こういうのが好きだなあ。こうしたバランスのものが「普遍」となるんだと思う。地域を考えそこに住む人を想像し、それを忘れないまま、自分のやりたいことも料理に反映。なかなかバランスするものではないと思います。
この立地での5年はそういうものを示しているのではないかな。わたしの12年半続いた月刊誌連載、雑誌が存続していれば即取材を申し込むところです。こういうお店に出会うとニヤニヤがとまらなくなるよ。しばらく秘密にしておきたいなあ。