群馬県太田市。上州名物とくればかかあ天下とからっかぜ。うまいもんなら太田焼そばに水沢うどん、鳥めしに焼きまんじゅう、と。
カレーですよ。
上州名物数あれど、やっぱり現代ならスバルもなかにブラジルレストランのフェジョアーダ、かな。そんな現代上州のここ、群馬県太田市の大泉界隈。
太田市に新しくできたボンゴバザールの2店舗目を視察しました。いや、そんなえらそうなもんじゃないな。普通にお買い物。そしてここでこの日は時間切れとなってしまいました。きょうはブラジルコミュニティ散歩はちょいとできそうもないよなあ。
とはいえ食事にもありつかねばね、おなかすいた。店探しです。太田あたりだとついついブラジル、ブラジルとなっちゃうんだけど、界隈のインドレストラン事情はどうなっているのだろう。そんなことを考えながら見つけたのが、JR太田駅前にある、
「イエロームング」
というお店です。
食べに行こうって決めたのはね、名前がいいじゃないか、と。いいよね、黄色いお豆だ。そうやってここに決めてやってきました。洒落たお店です。うん、そんな一言では言い表せない実力とセンスが群を抜くお店でありました。
クルマを置くために駐車場を探しつつ店前をゆっくり通りかかります。よし、やっている、、、おや、これは。こりゃあ洒落た店だな。洒落てるというのは置いておいて何かこう、いい店オーラが出ているな。なんだろうここは。気になるぞ。いい予感がするぞ。
外観、落とし気味の柔らかい印象の照明に印象的なインディゴブルーの壁、白い窓枠。建物自体も変に新しくピカピカじゃないのが居心地良さそうに感じさせてきます。よさそうだね。
店内も店頭以上にいいんです、快適。天井が高くて伸び伸びとできます。高い位置の本棚や窓辺の棚のチャイサーバーとジョウロ。とってつけたわざとらしさないセンスでまとめてあって腰が落ち着く感がありました。うん、こりゃあ気分がいい。
さて、面白いお店なんですよ。メニューは特にありません。それはつまり20種類あってそこからお選びくださいという、ニッポンのレストランスタイルではないということ。その日入ってきた食材でその日の気分で作りました、これを食べてください、というサジェスト。こういうのはとても好きだなあ。カウンターの上にきょうの料理の説明とサイズだけが出ています。
その日の気分、と書きましたがこれは実はすごく大事なことで、気分というものがなにで形作られるかというところに大きく影響されるところがあるんです。気分イコール心持ち、それと体調、か。精神と肉体の両輪で出来上がっているのが人間です。
その両輪から紡ぎ出される「気分」というもの。例えば雨が降っていていつもより体が冷えて感じる。例えば台風の低気圧の影響で頭痛がする。月の廻りなのかバイオリズムが落ちているようでしょんぼりする。どうも風邪気味な気がするなあ。「気分」にはそういういろいろなものが含まれています。そんな諸々を吹き飛ばすスパイスの使い方ってものがあると思っています。技法でもあり精神的なものでもあり。多分「知見」が一番正しい言い方かもね。
それは名前を「アーユルヴェーダ」と呼ばれることもあり、「漢方」と言われることもあります。難しいと考える人もいましょうが、あなたのお母さんもそれを自然にやっているわけです。ずっとあなたに施してきているのです。少し寒い朝、きのう鼻を垂らしていた子供達と風邪気味のお父さんのために朝ごはんの味噌汁に生姜を少しすりおろす。何気ないことなのかもしれないですが、それが人が長いことかかって経験によって手に入れた技法であり、お母さんがしてくれたそういうことを、いまはあなたが普段にご主人やお子さんに当たり前にやっているそれとおんなじじゃないかな。
閑話休題。
そういうものをこの店のシェフから感じたんです。すごく当たり前のことであると思うんだよ。でもそれができていない商売がなんと多いことか。なるほど、だからこのお店に快適を感じたのか。きっとそうだね。
この日は、
「コフタビリヤーニ」
でした。黒板にそれだけ書いてありました。
サイズが選べるのが珍しいな。しきたりなのか、慣例なのか。ビリヤニの多くは日本の地においても我々日本人にとって驚くべき量が出てくることがほとんど。じつは上手にできたビリヤニはその大量の見た目に関わらず食べられてしまうことも多いんです。日本のごはんと違ってぬめり、ねばりがなくさらりと軽いから。とはいえやっぱり多いものは多いんだよな(笑)。
ここ「イエロームング」ではSS、S、R、Lという量の段階があります。レギュラーなら大盛りを越えた量のはず。ラージは多分なにこれどうするの的な未知の領域に踏み込むことになるのではないかしら。なので、遠慮がちかつ欲張りな初老のわたし(笑)ということでSSにドーサの追加をしてもらうことにしたよ。
到着したビリヤニ。うーん、かわいい見た目であるぞ。ビリヤニ、ゆで卵半割り、ライタ(ちゃんと調味があって正しい)、グレイヴィ、フレッシュチャトニ2種とダール(セミドライ)、ポリアルという構成です。間を置かずに空いている場所にドーサも焼きたてがやってきて着地。熱々が食べられるのが素晴らしいねえ。さあ、いただきます。
まずビリヤニからコフタを発掘します。インドでのビリヤニの美学なのか、具材は中に埋めてあることがほとんどなんです。そしてそのコフタ、すごく旨い。風味よく味の輪郭はっきりで、しかし過剰ではないバランス。小さく悲鳴を上げてしまったよ。できれば抑えたいクセがあるんです。レストランでちいさい声で独り言が出てしまうクセ。「うまいなあ、、」知らぬ間に何度も出てしまうんだよ。困ったもんだ。しかたがないよ、本当にうまいから。
ビリヤニ自体もうまいなあ。強すぎず、コフタの味で食べていく感じが心地よい調整。香ばしく、軽く、途中でSかRにしておけばよかったかあ、と後悔。どんどん食べられてしまうから。グレイヴィが苦さを前に出しつつ複雑な味わいですごく脳みそに刺激がもらえます。ああ、本当にすごい、楽しい。ライタは多めなのが嬉しかったです。卵と合わせてビリヤニと混ぜると変化があって美味しいしね。そのまますくうと塩の加減がおだやかでうれしくなります。
ココナッツチャトニに青々しい香りをほんのりのせてくるのこのセンス。繊細でまいってしまうぞ。フレッシュで作るチャトニはやっぱりよくあるやつとは違って素晴らしいものです。いやまいったな。まいったまいった。
無発酵生地を使ったドーサ。これ珍しい、おもしろい。素朴な豆粉の味わいが甘味と共に舌に広がります。酸っぱくないのが不思議でね、インド料理のイメージではなく西洋風に感じられるところもあるなあ。ふんわり仕上がっています。
添えられたダールがまた大変に美味しくてね、華美なおいしさではなく素朴だけど手を掛け気持ちを込めている味がするんです。気持ちも舌もぐいっと掴まれる感。ポリヤルの控えめで野菜の味を前に持ってく味付けに感心。どこまでも行き届いているなあ。
いや、なんだかすごいものを食べてしまったよ。
すごいお店だよ。すごいシェフだぞ。
途中でシェフがにこやかに話しかけてくれます。それもまたうれしくて。店内にはその時わたしとビジネスパーソンらしき女性の二人だけ。二人に向かってシェフが穏やかに話しかけてくれます。奥様もやんわりした穏やか笑顔の方で料理のことなど教えてくれました。
もう一人のお客の女性が席を立ち、わたし一人になって。そこからお二人とのおしゃべりが弾んでとても楽しい時間になりました。甘い味の料理のことで話が膨らんでグジャラーとの全部甘い料理の記憶が蘇ったりね。まったく楽しい夜になりました。そのうえ奥様からチャイをご馳走になってしまって。
後で知ったことなんですが、夜営業は不定期らしいんです。お店のスタイルとして仕込んだ分を売り切ったら仕舞いということで、ランチで終わる日も珍しくないらしいんだよ。しかもビリヤニが出る日は水曜日(だったか)のみと決まっているようで、どうやら偶然、当たり中の大当たりを引いてしまったようです。サイコーだったもんな、たしかに。
東京から遠く離れた、と言っても2時間ちょっとなんですが、そういう場所に知っている顔ができて美味しい料理が待っていることを知ってしまったわけです。こういうのがアテを持たずに遠出をする醍醐味だと思うんだ。そして次回のアテができました。