ちょっとまいってしまった。
すごい店との出会い、平塚ですごい目にあった。
カレーですよ。
例によってほっつき歩いたり仕事しながらの遠出で湘南界隈。にいた。
そろそろディナーにせねばとGoogle mapで例の如く「カレー」とワードを入れて検索。
最近のわたしのやり方で、まず南アジア外し。
これには訳があって、某ハンター社長がフルで活動してらっしゃるのでわたしが手を出すなぞおこがましい。
お任せするところはお任せしてわたしはなるべく南アジア以外を拾って行こうと考えている。大事なところはおさえるけれどね。
とにかく単純な最近の好みの問題というのもあって、オリジナリティのある日本人シェフのカレーが大好きなのだ。
それで、どうにも気になったのが大磯、いや、平塚の端になろうか。花水川のほとりに位置する、
「モダンジャパニーズカレー ニューローズ」
という店。
この店にやられた。やられたのだ。
オープンからちょうど1年ほど経っているようで、まだ新しい。
まずファサードのピンクでおやっと思わされる。なぜってピンクなのにファンシーではないのだ。ピンクなのに大人っぽい。ピンクなのに女っぽくないのだ。ちょっとドリーミーな感じがあるパステル使いなのだが、子どもっぽくない。
これはなにかあるぞ、と感じて扉を開ける。
エクステリアと同じくピンクをテーマにまとめてあるインテリア。これ、やっぱりまったくファンシーではない。
いや、違う、そうではない。むしろクラシックな部分もどこかに感じるのだ。ヨーロッパ的、とでも言おうか、使い方がうまいのだ。
薄く上品なピンク、いや、ローズにナチュラルウッドのシェルフ、フレームは黒い鉄フレーム。ちょっとアーティスティックなシェードのランプが並ぶ、実にセンスがいい空間。
ちゃんと美学が見える。そんな心地の良いカウンターで、まずは注文を。
親切で気さくな大阪弁のおねえさん。感じが良い。その彼女、メニューを説明してくださるのだが、ちゃんと提案があるのだ。説明と提案、これにはうれしくなる。
こういうのがあるのはちゃんとしたレストランの魂を感じる。きちんとしたレストランにはシェフにもホール担当にも提案があるものだと思っている。
メニュー、まずドリンクを提示してくださり、次に前菜やアラカルト料理。最後にカレーやデザートのページを示してくれた。
ここまでのやり取りでこの店がどんなレストランで何をお客にしてあげたいのかがわかってくる。ここはカレー店ではない。たしかにわかりやすいよう、配慮として看板には咖喱の名前があるが、断じてカレーだけの店ではない。スパイス料理のレストランなのだ。だからまず飲み物を勧めてくれる。カレーだけ食べて帰るのはナンセンスだと知る。
実は飲み物で、ちょいと失敗したかな、これは食後だろう、という感じの痛恨のチョイスをしてしまった。
クルマで来ていたこともあって、ちょいと迷ってうろうろしてしまい、頼んだのは
「ほうじ茶チャイ」
ところがこれが良かった。旨かった。
はじめに頼んでまず先に出てきたのだが、薄寒い夜で、ほうじ茶チャイの暖かさで体が緩んでゆく。うれしかった。
期せずして正解チョイスとなった。ちょっと肌寒い夜にぴたりとはまった。
そして料理。
「旬の地野菜のサブジ」
をまずいただくことにして、その後にカレーをもらうというながれに。
「三浦のふろふき大根とスパイスラム肉味噌」「ローストクミンとミモレットのフライドポテト」などなど、アラカルトは本当に面白そうなメニューで好奇心がぐいぐいと引っ張られて思わずたくさん頼みたくなるのをおさえるのが大変だ。なにしろ今日は、ひとり。
とはいえおねえさんが「もし良かったらなんでも聞いてくださいね。一人で多そうなものだったらハーフもできるもの、ありますから」と。
素晴らしいなあ。こういう本来当たり前というか、レストランのサービスの部分、フレキシビリティがあるのが本物だと思うのだよ。本物のレストランだ。
カレーは2種選ぶことができる、
「ダブルチョイスカレー」
として、4種類あるカレーの中から迷いに迷って、
「春キャベツ同好会」という月替りの可愛らしい名前のものと、「ホテルビーフ」という名のビーフカレーに決定。
さて、カウンターの中のシェフは若いイケメンである。おじさん一人では少々恥ずかしい。それに気の良い大阪弁のおねえさんという絶妙の打線でインテリア、エクステリアも含めてもうここまででこちらはコールド負け決定なのである。
にこやかなシェフ、手際よく料理を進めていく。
さて、「旬の地野菜のサブジ」がやってきた。
初見でおや、わりと水分が多い感があるな、と感じる。
野菜、特にトマトを入れているのでそれを飛ばさないタイプの仕上げということだ。これが旨いのだ。えらく旨い。
タマネギ、舞茸、菜の花、トマトなどが入るサブジ、インドの野菜の蒸し煮の名前であるが、これ、タマネギがものすごく甘く、とろんととろけていて素晴らしい。
生姜の効かせ具合も良いアクセントでどんどんスプーンが進む。
おいしい油がたくさんでたまらぬ美味しさ。インド料理などでは脂が大切だ。香りや旨味がその油の中に引き出されているからである。
ギトギト感はまったくない。ああ、これはいい。
ここでおねえさんから提案。
わたしが「ああ、なんということだ。こんなにお酒に合いそうなアラカルトがあるのなら電車でくれば、、」など嘆いていたら。
彼女が「ハイサワーレモンってあるんですが、ここからアルコール抜いて湘南ゴールド絞るなんてどうですか?せめて気分出るように」うむむ、これはなんといいアイディア。
サブジ、頼んだんだけどなんか手持ち無沙汰でね。ノンアルコールのそれっぽいのあるといいもんね。こういう感じでサジェストってものがある。まったく気分がいい。
さあ、カレーだ。
「春キャベツ同好会」は、キャベツと豚肉のカレー。
ほんのり酸味は黒酢から。たまにグッと甘くなる瞬間があるのは豆豉の豆の部分を噛んだから。尖るスパイスのなかにどこかオリエンタルな感じが見え隠れする。
シェフ曰く「弱中華テイスト」。うん!なんとうまい言い方だろう。その命名で全て理解できる。とてもたのしい。
「ホテルビーフ」はまさにホテルスタイルカレー。
なんと言うのだろう、手のかかり具合やその調味から「尊い感じ」を受けてしまう。赤ワインも使い、しかし赤味噌も使うという自由な感じが楽しく、そして効果的。
土台はお肉を食べるためのソースとしてのビーフシチュー。あそこらへんにルーツを感じる仕上がりなのだ。
わりとドロドロさせない仕上げでそういうものを思わせる。ものすごくおいしい。辛口を謳うが、全然平気だ。
甘さの土台の上に辛さのレイヤーを乗せる作りなのだが、乖離がないと言うか、ちゃんと構成として完結していて、素晴らしい。こういうやりかた、味がばらけちゃってる例を何度も食べているので凄さが分かる。
カルダモンなど皿の周りに飛ばしてあり、それをすこし皿の中におとしてやって変化を作る楽しさといったらない。
特筆はきちんとごはんがおいしいこと。
厨房には業務用のガス釜が鎮座しており、元飲食業としては嬉しさがこみ上げる。やはり大型のガス釜で炊くごはんは格別なのである。
ごはんは色々と考え方があって、あんまりおいしすぎるごはんを合わせると、バランスとして肝心のカレーが死んでしまうこともある。
それでごはんの質、いや、質というよりも主張の強すぎる高級米を敢えて避ける店もある。
しかし、うまいごはんにカレー側を寄せてやってバランスを取るというやり方だってある。あとはコストとメニュー価格の問題で、地域性やなんやらという話に突入する。
お客さんの谷間が一瞬あってそんな話ふくめてシェフとおしゃべりができてとても楽しかった。
心あるシェフで、ちゃんとやりたいことがあってやっていらっしゃるのがわかる。
意外や高円寺の「ネグラ」の名前が飛び出したりして楽しい気分になる。イベントで一緒だったそうだ。
お店のサブタイトルに「モダンジャパニーズカレー」とあった。この名前とメニューの内容で色々と伝わってくるものがある。
アラカルトだったら「大根のウールガイ」「地きゅうり、カルダモン、ハーブのヨーグルトサラダ」なんてインド方面がチラ見えするものがあると思えば「ゴボウのフリット〜黒トリュフ塩〜」「平塚産生しらすの沖漬けとバゲット」なんていう洒落たミクスチャーも。
ソフトドリンクにほうじ茶、緑茶があったり。
スィーツに「新幹線で食べたバニラアイス」とか言われると痛いとこ突かれて頼まざるを得ないではないか。
そしてカレーには今日頼まなかった「ネオムルグマッカニ」に「モダンレモンチキン」と来る。その名前と内容、ちょっともう、惚れ惚れしてしまう。
もはや東京である必要はない時代になったのだ。
関東であれば、西の「ニューローズ」(平塚)東の「ベンガルタイガー」(西千葉)でいいのではないか。
モダンを謳うスパイス料理のレストラン。
ちゃんと着目していないと、取り残される。
夢夢お忘れなきよう。