カレーですよ4530(銀座 バンゲラズキッチン)カレー屋と呼ぶのはナンセンス。民族料理の素敵なレストラン。

なかなかチャンスを作れぬままに、移転改装後はじめておじゃましました。

マンガロール出身のオーナー、バンゲラ・プラシャントさんの想いこもるレストラン。ここは本当に素晴らしいレストラン。

 

 

カレーですよ。

 

 

同じビル内の同じフロアでの移転です。前の店よりも少し手前の有楽町側に移動して店内が大幅に広くなっていました。

以前のコンパクトな感じもいいと思っていたのですが、広くなってよりレストランらしさというか、ビブグルマンの称号を得た店としてよりらしくなったというか。ね。

もちろんもともとそうであったわけですが、とにかくカレー店ではなくてインド料理店でもなくて、ザ・レストランであることがより明確になった感があり、そこが大変好ましいと感じます。

 

「バンゲラズキッチン」

 

というお店はカレー店ではまったくないし、それ以上にインド料理店という狭い範囲でジャンル分けしたくない上質な料理が出てくる良いレストランなのです。

 

この日は友人の高級レストラングループの広報さんとその友人のアパレルの企画バイヤーさんという組み合わせでおじゃま、とても楽しい席になりました。少々サービスしすぎて喋りすぎた感があって反省したんですが(笑)インド料理や各国民族料理に興味を持つご友人が面白がってくれていたようでホッとしました。楽しいプレゼントなんかいただいちゃってわくわくしました。

料理、やっぱり素晴らしかったな。

わかってはいるんですが、ほんとうに何を頼んでも失敗がないのは驚きです。注文を任せていただいたので間違いのないようにと慎重に頼んだんですが、それは杞憂。そうだった。ここ、バンゲラスキッチンでは杞憂なのです。絶対大丈夫。

そして味もさることながら、そのひと皿ごとのプレゼンテーション、スタイリングがいいんですよ。美しいし、ちゃんと盛り付けのポリーシーを感じるのが好ましく思います。これなら大切な人を連れて行っても恥をかかないですみます。

さあ、食事です。

 

ペッパーロースト チキン

メインの素材を選ぶことができるんです。ほかのメニューでもそのように選べるものが多く、これは楽しくて良いなあ。ウェイター氏にその調理に合う素材はどれ?と聞くのもまた楽しいし、そういうのは趣味としてちょっといいんじゃないかな。

ペッパーローストはチキンかフィッシュを選ぶことができました。チキンにしました。

これ、この味はインディアンチャイニーズの範囲にある料理ですね。スリランカならデビル料理というところです。乱暴に言えば酢豚的な味付けと調理なんだよね。デビルを知っている人ならこの感じ、言い回しでわかってもらえると思います。ただ、当然それだけでは終わってはおらず、センスあるスパイスの使い方が光る素敵な料理。フレッシュカレーリーフとチリの風味が心地よく大変に美味しいんです。

チキンを合わせたのは、正解だったみたい。ほかに魚やイカなども合わせると変化が出て楽しい料理だとも思います。

 

フィッシュグリーンマサラロースト

ミントとコリアンダーが入った美しいグリーンのマサラで各種魚を(わたしたちはサーモンをチョイス)マリネしたものが炒め煮になっています。少し酸味が入る緑色のマサラがなかなか具合良くてね。きちんと必要な分だけの辛さもあって好バランスです。

食後のスッキリ感が美しく感じられて満足感、高いです。サーモンを使うというのがモダンでこのレストランらしさだね。大変納得がいきました。

 

ダールタドカ / ダルタルカ

 

これがもう!出色の出来でね、大変に好みでした。最高でした。物凄くおいしかった。

豆というものの良さをこれでもかと引き出したまったくもって素晴らしいシチューです。3種類の豆を使っているそうで、メニューにはカレーと書いてあるんですがこれは日本人へのサービスですね。カレーと呼ぶよりポタージュに近いんじゃないかなあ、これは。

この手の豆のスープやシチューの味は大体穏やかに収めることが多いと思うのですが、バンゲラズキッチンのこれは辛さで味の輪郭線をくっきりと浮かび上がらせます。優しく穏やかなのにどっしりと辛いんです。

チリはドライのレッドチリとフレッシュのグリーンチリを両方使ってあります。ガーリックとスパイスを最後にテンパリングで注いであり、それによってパンチの効いた食欲そそる仕上がりとなっているんです。

豆の煮込みでこれだけ美味しいもの、なかなかないぞと感じます。たしか御徒町のヴェジハーブサーガでそういう体験をしたことがあったはず。でもやっぱり他に思いつかないな。ほんの時たま豆の料理ですごいものに行きあたることがあるんですが、この夜はその日でした。忘れ難い。

 

チャパティ

フライパンではなく、縁無しフライパン、えーと柄付き鉄板が正解かな。インドの調理道具「タワ」で薄焼きにするインド全域で食される定番の無発酵パンです。全粒粉を使ってあります。これまた素朴だけど上品に仕上がっていてね。粉の香りよく、風味も楽しいんですが他の料理を邪魔しない控えめさがあってチャーミングに感じます。

 

ダルワダ

ちょっとスナックに近い感じのバリバリとした食感のワダ。ワダは豆粉を使ったドーナツとして覚えている方も多いと思いますが、こういう形と中身のものもあるんですね。

豆を挽いたものを繋ぎにして加工していないそのままの豆も入れてフィリングもすこしまぜてやってかためてありました。

食事の途中にこういう食感のスナック的なものを入れてやると変化が出て楽しいね。

煮込み料理の類、シチューの類に浸して食べるのももちろんおすすめです。ここらへんはお上品にやってると損します。ダイナミックに行きましょう、その方が美味しいから。

 

マンガロールビリヤニ(マトン)

名物の炊き込みご飯です。これを目指してやってくるお客さんも多いみたい。

香り高いバスマティライスをスパイスマリネで仕上げた肉や魚などと炊上げるビリヤニというごはん。例によってメインの具材が選べるのがとてもいいねえ。

炊き込みごはんとくれば日本人も血が騒ぐというものですが、我々の舌でいけば魚介の旨味とスパイスの融合が幸せを呼ぶフィッシュビリヤニはおすすめできるんじゃないかしら。

この日はハードコアに現地的なマトンビリヤニとしました。マトンは肉類の中では比較的複雑な味を出すものだと思うのですが、このビリヤニはそういう複雑さを楽しむのに打って付けです

野菜とライタ(ヨーグルト)を好みで混ぜると味の幅が広がるのも楽しいよ。大変においしかった。

 

スッカ

もう少し食べましょうか、ということで、スッカ。南インド風の炒め煮と考えるとわかりやすいでしょうか。

肉や魚介をギー、ココナッツ、スパイスなどで炒めて作ります。

グレイヴィ少し多めの炒め物の感じに仕上がっています。これまた風味豊かでとてもうまいねえ。比較的クセがなく酒のつまみにもパン類などに合わせてもいける万能選手。いいじゃない。

スッカはドライの意味だと聞きました。

 

ビシべレバート

これ、大変な美味しさでとても気に入ったんですよ。現地カルナータカ州でも好む人が多いというもので、これはなんというのだろうね。粥というのが日本人にはしっくりくるかもしれない。

東京ではそうそうレストランで見かけない珍しいメニューのビシベレバートは豆、野菜などを混ぜ込んで米を煮込んだもので、いわばインドのリゾットとも考えられるでしょう。

実においしい。実によかった。日本人にも分かりやすい、いわゆるカレー的な香りがするお粥で、ともすれば初めから混ぜてあるカレーライスじゃないか、なんていう感想を持つひとも出そうなのですけど。でもそれだけ馴染みやすいということでもあるし、しかしそんな単純なものではなく、ちゃんと味わうと繊細で穏やかにまとまった香りと風味にうっとりさせられます。これよかったなあ、大変に好みだった。

 

とにかくどれも圧倒的に料理がいいんです。なんと説明したらよいだろう。

レストランと食堂という関係の、さらにもうひとつ上の話をしないといけないかもしれない。

それはつまりカンテサンスとか四川飯店とか、なにか高いレベルで基準になるような、インド料理愛好家ではない多くの普通の人がその名を知るようなインドレストラン。そういうマイルストンがまだ東京にはないと感じるんです。もちろんナイルレストランもニルヴァーナニューヨークもある東京です。けれど他のジャンルの料理と比べるとおおくのひとが知っていて基準にする、たとえばミシュランの星がいつくかつくようなタイプのインドレストランがまだ不足しているということ。そして、そういう東京のインド料理のマイルストンになり得るパフォーマンスが確実にあるレストランがここ、銀座のバンゲラズキッチンではないか、ということ。そういう場所じゃないかと思っているんです。

いわゆるフーディの人々がフレンチやイタリアンと並べてもっとここを取り上げるようなカルチャーができないとダメだよね。そういう意味で東京はまだまだです。

同行の女性お二人、大変満足していらっしゃる様子。ホッとしました。

食事をしていたら偶然、別の友人が同じレストランにいてちょっと楽しい気分になりました。どうやら何か仕事できていたみたい。レストラン、食べ物関係ではない仕事をしていたと記憶している男で、おやっとおもったよ。

それにしても銀座にあるレストランで食事をしたり、そこで別の友人に偶然出会ったり。まるで昔のようだね、とSF小説のようなことを思いました。けれど、それはいま、現実なんだよね。

 

おいそれと外食をしたと公の場で発表しがたいおかしな空気。形を変えてしまったこの世界で、好きだったものをなんとかして守らなければいけないと思っているんです。去年からずっと思っています。