【ブックレビュー】にっぽんのインドカレー / 塚本善重 書籍名の意味。【献本】

これは初台にある小さなレストラン「初台スパイス食堂 和魂印才 たんどーる」店主の塚本善重シェフのレシピブック。驚くべき本なのです。

塚本シェフが献本の手配をしてくださいました。

 

「にっぽんのインドカレー」

 

というレシピブックです。

まずタイトル。

このタイトルをつけることを許される男は塚本シェフだけだとわたしは思っています。はじめは編集さんたちから「これではダメ」と止められたらしい。うん、わかる。出版社、売らなくちゃいけないからね。キャッチーでわかりやすいタイトルが欲しいでしょう。

 

でもね、塚本シェフを、たんどーるという店を知っている人間だったら逆にこのタイトル以外ないだろ、とすぐにわかるはずです。だってこのタイトル、「にっぽんのインドカレー」は塚本さん自身、そのもののキャッチコピーみたいなものだから。

普通の人たちは、日本にやってきたインド人コックの作るインド料理、そんなふうにこのタイトルを受け取るかもしれません。そりゃあ無理もない。ここ20年の日本のインド料理、カレー料理の動きを知らないのならそうも思うでしょうし、それでいいんです。

 

編集さん、大丈夫。塚本シェフを知る熱狂的でしかも有名な料理家、シェフやマニアックでフォロワーも多いインフルエンサーが必ずこの本を取り上げてくれて、売れていきます。しかも息の長い本になる可能性が大きいですから。大丈夫。

かわいいデザインだよね。沼袋の店思い出すなあ。

少し前に書きましたが、現在カレー店を営む若いシェフたち。直接にせよいくつかの経由を経た間接にせよ、塚本シェフの影響を受けていない人は少ないのではないだろうか、ということ。和の食材を生かす、融合するという部分のことです。

現在では当たり前になりましたが本来インド料理には使わないであろう和の食材、それを使って美味しい料理を作るのは普通のことになりました。それがつまり「たんどーる以前とたんどーる以降」という時間軸の話しになるのです。

新印度料理を名乗った一段回目、そして、塚本シェフの大病とそこからの超人的努力を積み重ねての復活という二段回目。塚本シェフの料理は大きく舵を切ることになりました。健康、からだ、そういうものに目が向いて大きく変わったのです。

たとえば大袈裟な話ではなく、そのことがなかったら日本のカレー事情は進む方向もスピードも今とは違っていたはずなのです。それについては20年ほどカレーという括りの料理を俯瞰してきたので自信を持って言えます。

本をめくって思わず口を突いた言葉は「これ、ダメだろう」というひとこと。おもわず笑ってしまいました。

塚本さんこりゃだめだろ。だって全部出てるじゃないか。

梅カレー、和ッサム、山椒ココナッツ、ラムごぼう黒ごま。ああ、高野豆腐のスパイス煮もあるよ。こんな繊細なやつ他の人に真似できないに決まってるのに。チャイもプリンも、あっ!わたしの好きな海苔佃煮まで出ている!!

これ、全部だろ。たんどーるの全部が載ってるじゃないか。こんなのダメだよ。こういうのは私家本にしないと。

ああ、なんということだ。

 

塚本さんはわたしにこれを「10年分の集大成だよ」と言っていました。

それで理解したのです。つまりあれだ、もうここら辺をみんなに見てもらっても良いのだろう、と思い至ったということ。それはつまり、これを見える場所に置いてやって、また先に進もうとしているということ。これは確信できます。これを見せてしまっても塚本シェフでなければ同じものは作れないし、これをマネだけしている人には先に進む自分に追いつけないだろうという自信。だから全部書いたんでしょう。

 

そして、レシピのはなし。

彼の店で食べる同名の料理、同じものが作れると思ったら大間違いです。本が悪いわけでも肝心なことが書いていないわけでもありません。

レシピはガイドです。そのガイドを使って大きな輪郭を掴み、その中で自分のレシピにするために自らの手元に引き寄せてやって初めて書かれたレシピを理解しモノにしたことになるのです。レシピというものはそういうもの。オリジナルを再現なんて本当はできるわけがないのです。

大さじって何グラム?少々って?と問い合わせる人はもう少し考え方や経験を深めた方がいいかもしれません。もっと外食の経験を積むのもいいでしょう。

まずはこの本、手に取ってみることをお勧めします。最近ではそういう人も少なくなりましたが、ガチガチのインド料理好き、原理主義者の人などいいのではないかとおもっています。インド料理ではなくカレーではなく、おいしい料理とはなんだろうと考えるきっかけになるはずです。

自分とインド料理仲間などではない、ふつうの舌を持つ人に料理を食べさせるという時、何が必要かのヒントがある。そういう本です。

 

 

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