カレーですよ4591(ニルヴァーナニューヨークx浜松素材コラボレーション ポークビンダルーカレー)ニルヴァーナニューヨークの名の表記があるレトルトカレーに驚いた。

連絡はもらっていたんですが、届いたものを見て、改めて驚きました。あのお店がレトルトを出すのか。

 

 

カレーですよ。

 

 

数日前、突然久しぶりの方から電話をいただきました。杉山シェフ。ニルヴァーナニューヨークのヘッドシェフです。心あるいい男でね。声を聞けてとても嬉しかったのです。

お元気そうでよかった。ご無沙汰してしまってすみません。

なんでも、

 

「ニルヴァーナニューヨーク」

 

でレトルトカレーを出したのだとおっしゃる。これには驚きました。そういう取り組みをするお店ではないと思っていたからです。ご存知ニルヴァーナニューヨークは伝説の店として大事に思っている場所。そのストーリには圧倒されるものがあります。

 

1980年に創刊された「BRUTUS」という雑誌。都市生活者の大人の男性をターゲットにしたライフスタイル誌でいまでも尊敬する雑誌です。80年代半ばか終わりだったか、BRUTUSのコラムで当時ニューヨークにあったインドレストランの記事を読みました。1970年開業のそのレストランは2002年まで、アメリカ、ニューヨーク州のマンハッタン、セントラルパークを望む素晴らしい眺望のルーフトップにありました。

顧客にはビートルズやローリングストーンズのメンバー、ノラジョーンズやレオナルドディカプリオ、アンソニーホプキンス等々名だたるスターを抱え、若き日のマドンナもそこでウェイトレスとしてホールに出ていたという、ほかに例えようがない伝説の店。BRUTUSで知ったこの店の写真の天井のサイケデリックともいえるなアートワークや内装が今でも目に焼き付いて忘れられません。ホームページトップのバックグラウンドでまたあの写真に出会えた時には強く興奮を覚えたものでした。

古い友人に画家のリマ・フジタという女性がいます。当時ニューヨーク住まいだった彼女。ボクが若い頃、あの街に出かけて彼女に肖像画を描いてもらってレストランに誘って食事をする、などというささやかな夢を見ていました。時は過ぎ、彼女は押しも押されぬ人気画家に。また、チベット支援の先鋒に立っており、よくダライ・ラマ猊下と一緒の写真も見かけます。

レストランは、2002年に閉店。とても残念に思っていました。小さな夢はもろくもくずれ去り、そんな夢も忘れた頃。

2007年春、六本木に東京ミッドタウンが竣工。インドレストラン、ニルヴァーナニューヨークという店が入っていて、詳しく聞いていくと、驚いた事にそのレストランこそあのソーホーから東京六本木に転生したニルヴァーナだと知りました。その時の興奮は未だに忘れられません。

そして数年が経ち、食関係とはまったく関係のない映像関係での付き合いの友人との会話の中からニルヴァーナの名前が出て驚いていると「オーナーを紹介するよ」というひとこと。お会いしてみるとそれは魅力的な方、オリジナルニルヴァーナのオーナーを父上にもつ、ウォーレン・ワデュードさんでした。そのことに大変にショックと多幸感を味わったこと、忘れられません。ウォーレンさんが引き合わせてくださった杉山シェフはこの伝説的インドレストランが六本木に転生したこの場所のヘッドシェフでありながら日本の方でした。杉山シェフが腕を振るい、センスをぶつけての現在のニルヴァーナニューヨークがあります。ウォーレンさんが杉さんを抜擢したことが間違いなく功を奏し、正解であったことが店に行くとわかるはずです。

 

閑話休題。

さてレトルトカレー、聞くとこれ、ご縁あって、浜松食材とのコラボレーションで企画された一食なのだとか。素材では浜松産のタマネギ、浜名湖とんきい牧場産の豚肩ロースを使用。そして添付されるのが「カレー専用スパイスソース」トリイソース謹製なわけですよ。なんか面白そうだよ。

ためしてみると完成度高く、特徴も顕著なポークビンダルーという料理にさらにエッヂを加えようというこのレトルトカレー、とても興味深いものでした。

温めて食べてみるとぱっと目の前が明るくなるような酸っぱさが弾けるポークビンダルー。重くなく、強すぎずしつこくないのがいいですね。バランスというものがあります。心地よい食べ心地で、これはよいものだと気づきます。

ポークは味がよく染み込んでおり、ちゃんと噛んでいって味わいが広がる楽しいもの。高クオリティでとてもおいしいです。油の部分に旨みと幸せをきちんと感じさせるのは尊いなあ。豚はこれがなくっちゃね。ちゃんとしているねえ。爽やかな辛さと食後感が印象的。舌よりも頭のてっぺんから汗をかかされる感があります。杉山シェフの笑顔が脳裏に浮かんでくるなあ。

トリイソースのこれは、わたしも食べて知っているやつで「カレーがからくおいしくなるスパイス」という名前のソース。しかしそれは旧称の様子で。現在「カレー専用スパイスソース」という製品名に変わったそうです。おや、名前を変えたのだね。これ、開発の経緯が大変面白いんですよ。小さなお子さんがいるお母さんの相談がきっかけ。「辛いカレーが好きだけど子供がいると甘口のカレーにしなくてはいけない」というもの。リサーチもして同様の意見も多く聞かれるとわかり開発が始まったそうです。

拘ったのは「かけて辛くなるけど味がなじまないのはいけない」というところ。たしかにそういう商品が多くあるんだよな。「ただ辛味が増すわけではなくカレーらしい辛さを加える」というのを目標に作られている、想いこもる優秀なものなんです。甘く、香り高く、スパイシーで辛い。なめてみればわかりますよ。きっとこういう表現になるから。これは好みのいいやつだなあ。

ポークビンダルーにジャパニーズスパイシーウスターソース加えるという前代未聞のこの組み合わせ、さてどうなるかしら。

やってみればこのトリイソースの追加がなかなかに面白い。面白い以上にかなりいいんです。驚きました。

 

甘味で奥行きが、辛さで輪郭が、スパイスの香りで味の幅が、それぞれ広がってとても面白いんだよ。ウスターソースとくれば酸味の部分が印象に残るわけですが、そこをポークビンダルーとかさね合わせるというセンスはさすがの一言。味変アイテムとしてとても優秀だしもう少しかけてみたくなる。別で追加のトリイソースを本気で用意したくなったよ。

とにかく面白いのがポークビンダルーというまだまだインド料理通ではないと知らぬ人が多いではずのインド、ゴア州のご当地料理にウスターソースをかけてしまえという発想でしょう。これはまったく楽しいやり方です。しかも実によく合う組み合わせで目から鱗が落ちる。このアイディアには頭が下がります。

 

こういうことを考えられるフレキシビリティーとチューニングのちからがシェフの持つ腕前なのだと強く感じます。