126号を銚子方面に向かっておりました。片側1車線の3桁国道。ローカル道をまだ暗くならない程度の夕方、ゆっくりと進みます。肩から力が抜けたいいドライブ。
ちょうどいい塩梅に減ってきたお腹と「きょうはカレーをやめておこう」という強い意志。そんなのがあったんですが、偶然その2つとロードサイドの古い建物がシンクロしたんですよ。
「仲よしドライブイン」
そうかいてある気がしました。
気がした、というのはその看板ももはや薄れてほぼ見えないほどに消えかけていたから。でも、巨大な平家の建物と広い駐車場の存在感は無視して走り去るには惜しいものだったんです。ちょいと進んでしまったけど、路肩に外れてクルマをまわし、引き返すことに決めました。
戻ってみると、広い駐車場ともつかない場所の奥でも強く存在感を主張するお店の窓には灯りが灯っていました。
やっている。電気がついてる。よし、とてもうれしいな。ごはんを食べていきましょう。
引き戸をそっと開けて、気配を抑えて小さく「こんばんは」と声をかけてスーッと店に溶け込みます。知らぬ町で知らぬお店に入る時、余所者はこれくらいのトーンとボリュームに抑えたいと思っているんですよ。
メニューの短冊が賑やかに並ぶ厨房前の壁。渋めのテーブルとイス。土間然としたコンクリ打ちっ放しの床と広目の座敷。地域の集まりなどの賑わいも感じられるこの作り。
ああ、これはなかなか貴重なものだなあ。目が、脳が、喜んでいるのがわかります。
「肉にんにく焼き定食」
を注文しました。
実はちょっと焦って注文してしまったよ。お母さんが近づいてきてお水のコップを置いてくれたタイミングでスーッと注文したかったんです。
流れと空気をこわさずに、この場所のゆっくりな時間をそのままにしておきたかったから。自分にとってもそういうのが大事だとおもうから、ちょっとだけこだわってがんばるんです。
かつおにんにく醤油漬け定食とずいぶん迷ったのだけどね。あじフライ定食も捨てがたかったなあ。
どの定食もどんぶりも手堅い定番の名前ながら、この佇まいで出されてくるものに期待をせずにおれないんです。さて、果たして嬉しさ込み上げる定食がやってきましたよ。
アルミの四角くて縁の高い給食盆に乗ってやってきたわたしの定食。本当にシンプルで、その余計なもののなさにエッヂまで感じてしまうのはわたしが思いすぎだから、よそものだから。
たっぷりのメシと味噌汁、漬物、沢庵。味付けのり。そして肉にんにく焼き。余計なものが一切ないのがとてもいい。味も思った通り、いや、思ったものよりももう少しおいしいんです。ああ、うれしくなるなあ。
ストレートに効いたにんにくと甘辛い味付け。メシ泥棒とはこの味のことか、と一人でもぐもぐと呟きます。盛りの良いどんぶりの白飯がみるみるうちになくなっていくのが他人事みたいだな。
味付けのりも大変にうれしいです。思わぬところで再会する味付け海苔というのはなんともいいものだと思っています。
とにもかくにもお腹いっぱい、そしてそのお腹いっぱいはこの場所の穏やかな空気をいっぱいに吸い込んだからっていうのあるよなあ。
ちょっと言葉もありません。
外に待っている2021年の世界に戻るのがいやになるな。