カレーですよ4807(浜松 板屋町 ビストロヒルマン x アンミッカル コラボディナー その1)心地よい夜。

以前浜松、アンミッカルのえりさんのお店を訪ねて行ったことがありました。その時に彼女が紹介してくれた人がいたのです。ほんの数分、店で立ち話をしただけだったのですが、印象に残るいい男だったんですよねえ。それがビストロヒルマンの佐藤オーナーでした。

 

 

カレーですよ。

 

 

そのビストロヒルマンでえりさんがイベントを開くという話しがあったんです。行かねば後悔すると思ったのだけどその時はいけないタイミングの開催。

やっぱり大いに後悔しました。

さて、2度目のチャンスが巡ってきました。こんどは機会喪失はなしにしたい。そんなこんなで浜松行きです。

時間を作って宿を取りました。ガソリン超高騰の折、高速バスを使うことも考えたんですが、仕事柄一つの場所で同じ面子と仕事をするというわけにいかない取材稼業、注射はこの時は3回目待ちで。看板の維持と安全担保のため今回もクルマでの移動を選びました。気楽でいいよね、自分のクルマは。街中の移動のためにブロンプトンも積み込んだよ。

そんなこんなで途中のカレー店探訪も紆余曲折ありながらそれなりに成果を上げ、ホテルチェックインののち、ブロンプトンを展開して日が落ちた静岡駅前をぶらりと走って

 

「ビストロヒルマン」

 

へ。

 

はじめてのビストロヒルマンは、これがなんともいえず気分の良いお店だったんです。大変に落ち着ける雰囲気で、リラックスという空気感がある快適な場所。オープンキッチンの厨房機器や調理器具、酒瓶、趣味性の高い雑貨やオブジェ、写真や絵。ものがたくさんあるんですが、なぜか不思議とごちゃつく印象がないのです。

たくさんのものにかこまれたお店をいくつも見てきたのですが、わたしはそういうなかで本物かそうでないかを見分ける術を手に入れています。それは、ただものが多くあるだけでは、雑多なだけで意味がないということ。ひとつひとつにストーリが、背骨がなければ意味がないわけです。その場所にそのブツがある「理由」がなければいけない。全てを説明しろというのはナンセンスですが、このお店ではものが勝手に喋り出すのです。

あきらかに佐藤店主が好きで、趣味で、理由を持って選んだものがそこにある。一人で黙って飲んでいてもこちらを見ろと物が楽しそうな気を発するのです。それもこれも、店主の佐藤さんの強い意志や「好き」を選ぶ力の結果と見受けられます。そういうのがわかることで圧倒されるんです。

そんなヨーロッパ各地のテイストが見られるお店のオープンキッチンで、ブルーのサリーに身を包んだえりさんが不思議なほど違和感なく手際よく手を動かして料理を用意しています。キリッとした表情で動くえりさんがカッコいいねえ。惚れ惚れします。

わたしはといえばカウンターに腰掛け佐藤さんにビールを選んでいただいたりします。飲み物はおまかせします、と佐藤店主にお願いしちゃいました。選んでくださったのはスペイン産の不思議なビール。モルトの苦味は控えめ、ちょっと香りや喉を通る感覚がワインに似るもの。スペインの黒ラベルです。おもしろいな。

 

さて、コースの提供が始まりました。ひとつひとつ料理の説明が入るのもここちよいです。

 

スープ

浜松産蕪のポタージュ

カブの柔らかな柔らかな味わいとほんのり漂う根菜らしい青々しさ。手をかけたことがわかる滑らかな舌触りにおもわず弛緩してしまいます。少しのせられたクミンが甘く良い香りで幸せな気持ちに持っていってくれます。添えられた柑橘の果皮が酸味と香りをくれる面白さ。なんともはや、気持ちに寄り添ってくるスープだなあ。ほっとします。穏やかにコースが始まりました。

 

アミューズ

うわ、いっぱい出てきた。しかもこのプレゼンテーションです。

インド料理です、これ。

 

エビのラバフライ

ラバ、はなんであったっけか。そうそいう、たしかラバドーサってのがあったはず。そうだ、セモリナ粉。セモリナ粉を衣にしたディープフライ、揚げ焼きだねこれは。表面にたくさん振ってあるスージ、つまりスージハルワのスージだよ。粗びきセモリナ粉、それが食感よくクリスピーな印象を作りだしています。海老の美味しさをストレートに引っ張り出した嬉しいもので、これは西洋料理のコースで出てもおかしくない味のバランス。ああ、とてもおいしい。

 

チャート

チャート、ですよ。インドのストリートフードであるチャート。通りの屋台や駅などで売っている、軽食とかスナックなんて訳されることが多いものです。構成や要素は確かにそうなんですけど、こんな宝石のようなチャートは灼熱のインドのストリートには絶対にないはずです。ほうれん草のフリッターに柘榴の実を合わせてあります。甘味、酸味、ヨーグルトのふくよかさ。たしかにチャートの雑多な楽しさがあるねえ。なのにこれはあの感覚と並行しながらももっと高いところを飛ぶ別のもの。ああ、楽しい。美しい。

 

ゴビマンチュリアン

元々好きなインディアンチャイニーズのゴビマンチュリアン。ゴビはカリフラワー。マンチュリアンは中華風、とでも意訳しましょうか。えりさんのこれはその中でも特に好みです。ちょいとピリ辛で、乱暴に例えるならエビチリのカリフラワー版というか、しかしそれよりももっと繊細。こういうコース仕立ての前菜というポジションで出てくるからそう感じるのかな。そういう想像などするのも楽しいです。野菜でこれだけの満足感というのは、やはりこれぞインド料理のお楽しみ。いいですね。

 

カチュンバル

カチュンバル、こうなるか。なるほどと膝を打ちました。インド周辺国の、野菜をスパイス和えにしたいわゆるサラダです。生野菜をあまり食べないインド亜大陸においてわりと例外的なのではないかなと思っています。日本では角切りにした大根、にんじん、きゅうりなどをチャットマサラで和えたものが多いですね。えりえさんのこれはもっと繊細で、カットサイズが小さいのです。多分発芽緑豆のサイズに合わせたのだと思う。緑豆、玉ねぎ、ピーマン、きゅうりなどが入っています。柑橘の酸味の決め味は思わず笑顔になる爽やかさで洗練を感じました。洒落てるよねえ。インドとは違う方に向いた南国の楽しさ明るさを思いました。

ここでワインを選んでもらいます。前述の通り、お酒のセレクトはこの夜まるまる佐藤さんにお任せしました。適切なタイミングで適切なお酒が注がれるこの幸せよ。うれしいねえ。泊まりできいてクルマはホテルの駐車場に置いてあるわけで、まるで羽が生えたような気分です。このシチュエーション、いくらでも飲めちゃうぞ。とは言え量を飲むというのではなくて、質の良いものを選んでもらって嗜む夜です。キチンと個性も味わいもあるのに大変軽やかな白。おいしい。きもちいい。

 

牡蠣のピックル

コースオプションの牡蠣のピックルを出していただきました。これは大変危険なブツでね。牡蠣というものはなかなか扱いが難しく手強いのですよ。皿が大きければフォークナイフで上品にやればいいのですが、小さな器に入ると途端に一口でガブリといけよと歯を剥き出すわけです。フォークでぐるぐると弄び、さて。意を決してずぶりと突き刺しちょいと端っこを齧ると、いやこれは大変。旨味と深みと食感と香りと。全感覚を総動員しても受け止めきれないかもしれないおいしさ。ああ、ワインが進んで仕方がないぞ。

全然書ききれない素敵な時間。2回目に分けて続きます。