わたしのカレーのルーツを確かめに行こうと考えました。わたしが外食でカレーを意識して食べ歩くようになったきっかけを作ってくれた店を訪れて色々と思い出してみたかったことがあります。
カレーですよ。
そのお店はご存知の老舗です。
東京のインドレストランの草分けとくればナイルレストラン、新宿中村屋ときますが、当然ながらここもそのうちの一つ。昔は九段の坂上にあった、
「アジャンタ」
です。
今はご存知の通り麹町にあります。日テレの旧社屋の隣に、、なんて説明をしているうちにその建物自体は無くなって更地に。今は広大なコインパーキングになっています。次の建物の建設までのインターバルなのでしょう。
さて。
なぜアジャンタがわたしのスタートラインなのか。長くなるのでものすごく短くかいつまんで説明すると、当時はたちにもなっていなかったわたしはこちらからデートに誘ったにも関わらずおねえちゃんを取らずにカレーを取った、そういう話しです。
アジャンタのありがたき伝統。
喫茶店から始まったからでありましょうか、アジャンタは九段の頃から通し営業なのです。麹町に移ってからは24時間営業の頃もあったんですよ、覚えてるかな。これは日テレ脇という特殊な立地からだと想像しています。日本のインド料理の創世記から続く偉大な店であると同時に、日テレがここにあった時代は深夜だろうが早朝だろうが食事ができる古き良き時代のテレビマンと芸能関係者のオアシスであり、現在は昼食難民のわたしみたいな人間にとって強い味方でもあるのです。
確かめたかったのはチキンの味。どうもついついマトンばかり選んでしまうのですが、ふと思い立って自分のアジャンタでのルーツ的なメニューは何であったかを思い出してみようと考えたんです。
当時、なにも知らなかった少年が異国のレストランで注文するとしたら、チキンカレーではないだろうかと思うんです。それともデートであったわけなのでもっとカッコをつけて何か違うものにしたかなあ。考えられるのはわかりやすいラインとしてチキンカレー、キーママター、あとは野菜カレー(サンバーではなく)あたりかしら。
なので今日は、
「ランチペア」
を注文、カレーは「チキン」と、これは趣味の方の「コフタ」としました。
アジャンタオリジナルのコールスローがつくセットです。そしてやはりナーンではなくライスとしてみます。
コフタ
アジャンタスタイルの肉団子カレーです。ぴりりと辛いのがいいね。しっかりと口もお腹の中もぐっとあったかくなるチューニング。その中にたくさん刻んでとろかしてある野菜の甘み旨みが見え隠れします。
慣れるとそれらが前に出てどんどん甘味と旨みが見えてくるのが楽しいなあ。
コフタ、肉肉しくてガチっとかたまる感じの肉団子です。いいな、旨いな。ジャガイモがえらく甘く感じられ、かぶが舌をスライドさせただけでほろほろと消えていくのが素晴らしいんです。
ああ、これは好みの味だなあ。
チキン
さあ、チキンだよ。少し舌にひっかかるこの食感はホールスパイスを荒く挽いたものかしら。いや、野菜刻みが全部溶けてないやつかね。これまた辛いんです。苦味を感じる辛さで、これが味を引き締めています。辛いけど旨いんだよ。
それとアロマ。アロマが大変な勢いで顔めがけて襲いかかります。ああ、実に気分がいいね。もちろん辛さと一緒に、です。
クローブの香りが鼻を抜けていって心地が良いなあ。チキンカレーの辛さはわたしの舌だと許容量を越えており、食べ進めるのに少々手こずります。この手こずる感じがわたしのアジャンタなのだよねえ。それ含めのお楽しみ、なのです。とはいえ「昔のアジャンタのチキンカレー」というキーワードもあるんだよね。どのあたりが違うんだろうなあ。
カレーの辛さはね、舌と脳と胃袋のアミューズメントという具合なのです。辛さで酔っ払ったようになるの。が、辛さ、ただの強い辛さではこうならないんだよな。こういう感じになるお店少ないもの。アロマもあってのこの陶酔感なのだと思うのです。
アジャンタは辛さと香りだねえ、と確信します。チキンを食べた後にコフタを食べるとさっきけっこう辛いんじゃないかな、と思ったコフタは実は甘味強いものだったと思い知るわけです。こういうのも楽しいのです。
テーブルには2つの瓶があります。ひとつはアチャール。これが日本に渡って各地に伝播されたタマネギアチャールの原型か、と感慨深いわけです。(諸説あると思うけど)
もうひとつは甘いフルーツチャツネ。これがいいんだよねえ。途中で少しフルーツのチャツネを添えて、混ぜてやるのです。これ大事なお楽しみの一環なんだよ。辛さを緩和するんじゃないんだよな。味を加えて幅と変化を作るんです。とても楽しいなあ。
キャベツのサラダ、これもいい。好きです。ブラックペッパーが効いてるんだけどキャベツの甘みが立っていてカレーの辛さの小休止にピッタリときます。
これ、すごく好きなんだよね。おかわりしたいです。
結局若い頃に初めて頼んだメニューはチキンカレーではなかったのではないか、ということがなんとなくわかりました。この辛さでは当時のわたしが完食できるはずがないもの。とはいえ女の子の前だからカッコつけたかなあ、どうだったかなあ。
次のメニューを試さねば。これは定期的に続けていこう。
そうそう、この絵。店頭にあるこの絵はわかりますか?お店がまだ九段の坂上にあった頃のアジャンタの店頭を描いています。白い木造の瀟洒な建物で、バラのアーチがありました。
わたしはこのアーチを何回もくぐったことがあります。それがとても誇らしい。