月と亀の和製ミールスはなんというか、和食なんですよ。和製ミールスなんて言われると「なんだよそりゃ!」なんて言い返したくなるのが人情かもしれないのですが。インド料理が好きな御仁などそういうところもあるんじゃないでしょうか。
カレーですよ。
しかし、だよ。これ、食べてみるとそんなことを思った自分を顧みて強く謝罪をしたくなるんです。なぜならそういう言い方以外その味を表現するのが不可能であるから。まさに言葉通りの和製ミールスがそこにあるのです。
前もそう思ったのですが、森下の、
「月と亀」
は、なんだか圧倒的なのです。
わりとなんの変哲のない名前のセットミールを注文します。変哲ないのは名前だけなんだけどね。すごいんだから、
「チキンカレー定食」
お店のお二人は変わらずに感じが良くて、ニコニコと声をかけてくださったりお話を聞いてくれたりしてとても嬉しいのです。ホッとする気分になるんだよ。下町のちいさな裏通のお店らしさとでも言うのかしらね。わたしが生まれ育った地域の空気感でもあるそういうものを深呼吸できる場所。心地がいいです。
さて。
サンバルがね、いいんです。優しい。余計なことをしていなくて、柔らか穏やかな味わい。すきだなあ、これ。からだに染み込むようにおいしさと栄養が入っていきます。
この和製ミールスは和製、和風だというのに想像以上にミールスなのですよ。冒頭のサンバル、それからラッサム、副菜のパパド、アチャールとポリアルが乗っていて、この構成はミールスであるとしか言いようがないでしょう。が、しかし、なのに。和の仕上がり、和定食でもあるのだよねえ。なんだろう、この凄み。穏やかで美しい味なのに凄みを感じます。
ラッサムには驚かされました。ネギと胡麻の力かなあ。強く日本食のニュアンスを感じられて、脳味噌が「味噌の味がすこしするぞ」など誤認するんですよ。よくある「ラッサムは日本で言う味噌汁」と言うニュアンス発言ではなくてね、味として、食べ物として本当に味噌汁を感じるんです。いったいこの体験はなんなんだろう。
チキンカレーはトマトアンドクリームな感じです。
食べやすくしつこく口の中に残ることがないのがチャームポイントです。
副菜たちもどれも美味しくて、サラダなど野菜をきちんと選んでいる証拠、ちゃんと野菜に味があることがわかんですよ(わりとよく味のしない野菜のサラダが出てくる店があるぞ)。大したものだよなあ。相変わらず野菜は生で出てくるとその店の腕前やポリシーが見えてきます。
お店を切り盛りするお二人の心根が見えるような料理です。なんとまあ気分のいい場所でありましょう。