まだあった。あと一袋あった。食べねば、食べねば。マスターが残してくれた魂だ。
カレーですよ。
ビッグサーがなくなってから4年。ちょっとおどろいたのです。それはつまり2019年6月にマスターが亡くなってからまだ4年しか経っていないということ。もっと時間が経ってしまった感があるのです、わたしのおなかのなかでは。吉田マスターの声や姿はまだありありと脳裏に残っています。
江ノ島にあった、
「ビッグサー」
の吉田マスターからの大いなる遺産、ビッグサーのレトルトカレー。手元に1つ残っていました。吉田マスターの置き土産だな、これは。
亡くなる半年ほど前に完成させた、こちらの世界に残してくださった置き土産です。本当にこころからありがたい。とても特別なものです。開発中に何度か試食をさせていただいたのがこの間のように思い出されます。タイミングが半年ずれていたら世に出なかった可能性が大いにあったカレーです。
マスターの店にはわたしの連載で訪ねて行きたかった。それが叶わなかったのはかえすがえすも残念です。
それもあってなんとかご恩返しを、という一念がありました。
「ぴあムック いとしのカレー 横浜・湘南」
というムックが出たんですけどね。マスターが亡くなった翌年だったか翌々年だったか。
誌面で協力を差し上げたんですが、このお話が来たときにとても嬉しかったんですよ。巻頭で4軒のお店を紹介してわたしのページはつつがなく原稿を出して完結したんですが。
後半にレトルトカレーのページがあってね、そこでマスターのカレー、「ビッグサー」のレトルトカレーが取り上げられていたんです。まあ、仕掛けをしたわけです(笑)トップページの4軒分と予備の候補をくださいと編集さんに言われててね。そこの一番最後にこういうエピソードでこういうレトルトカレーがあるんだぜ、と書いておいたの。編集さんが拾ってくれました。ほんとうにうれしい。
お世話になったマスターに何か恩返しをしたかったからね。マスターが御存命のうちに叶わなかったことが返す返すも残念でなりませんが、少しだけ形にできました。ほっとしたよ。
さてカレーは。
強い苦味と香り。ひき肉の旨味、苦味はスッと引く爽やかなもので、甘み薄くドライな味わい。ちょいとざらりとするパウダースパイスの舌触り、口の奥と鼻の奥に残るローズマリーのような香りも懐かしいなあ。うんうん、ちゃんとマスターの味だよ。これは間違いなく吉田マスターの味だ。
吉田マスターのご家族が製造と販売を守ってくださったんです。いつまで続けるかはご家族にしかわからない。とても尊いものです。
これを食べると、帰り際にいつも吉田マスターがかけてくれる言葉が蘇るんだよな。
「あした、元気になるよ。」
そうそう、なんというのか。食べると体の細胞が沸き立ち、体内の循環を感じるカレー。こういうのはなかなかないと思う。
最後の一つを食べてしまったなあ。
久しぶりに奥様に連絡をせねば。在庫、あるといいなあ。