いいお店に来たなあ、と思ったんです。お店がとても好きな雰囲気だったのです。やっと辿り着いた懸案のお店。
カレーですよ。
いや、やっぱり遠くまで来たりするとそれに見合うご褒美はあるものだなあ、としみじみ思ったんですよ。懸案事項というのは「コルマ」のこと。
「コルマ」とくれば湯島でありますが(新川もですが)、全国に散らばったその遺伝子に意外なところで出会うことがあるんです。わたしの場合はJAのスーパーマーケットでした。2021年の秋のこと。
「AコープJAファーマーズ 朝日町」
その売り場で地域のレストランなどが作った料理の冷凍販売コーナーにカレーを発見。製品名にコルマ、インドカレー、カシミールカレーなどいう名前の冷凍カレー並んでいたんだよね。いくらあたしがボーッとした男でもその名前のラインナップで湯島を思い出さないわけがないわけです。
それが前橋の、
「スパイス料理ニューデリー」
の料理だと知ったのは翌日、食べる時にラベルを見てのことでした。創業1978年。経緯は存じ上げないが湯島のラインナップを手本にしていることは間違いないでしょう。ホームページやら何やらで見ていると40年近く前に1年だけデリーのフランチャイズをやっていた経緯があるようです。
その時のことはブログ記事に2本に分けて書きました。そのうち1本は「カレーですよ最終回(仮)」のタイトルをつけたんだよ。実は自分のカレーのルーツと今のわたしの舌の成り立ちの解明ができてしまったんです。そちらはブログを読んでもらうとして。
やっと想い叶っての群馬、前橋。
「ニューデリー前橋本店」
にやってきました。大変に趣のあるお店だったのです。
建物はちょいと古いと思うんだよね。でもね、それは悪口では一切ないんです。この趣のあるクラシックな雰囲気の建物でこれから食事をすると思うとちょっと胸が高鳴るんだよ。実に素敵な建物だしね。
どうやら旧店舗と拡張した新店舗が隣り合わせでビルの1階すべてを占めているように見えます。
看板を見ると「Indian Restaurant NEW DELHI」とある方は、現在倉庫やサービススペースなどになっているのかしら。客席は塞がれているようです。
その右にある看板は「Indian Antiques Haveli」とあります。なるほどそうか、なんて色々と勝手に納得。インテリアの素敵な雰囲気もそこら辺にルーツがあるとみえます。多分アンティークショップ側に集約したんでしょうね。
なんというかね、色々と情報量が多いんだ、お店の中も。いい意味でごちゃついてるんです。長く続くお店独特の地層というか堆積というか、そういう歴史や時間の積み重ねがあって、そういう心地よい情報量の多さががつたわってくる気分いい空間。まったくもってアンティークショップ的空気です。
メニューも結構な幅があって、色々楽しくて、色々迷うんです。その中からやはりこれだろう、これ選ばないと!と決めたのが、
「Wラジャボンカレー」
というメニュー。2種魔のカレーが選べるセットでサラダもつくやつ。ドリンクセットも一緒にもらうことにしましたドリンクバー的なものらしいです。2種のカレーと来て迷うも迷わないもなく「コルマ」と「カシミール」となるわけであるよ。本日の命題でもあるからして。
やってきたカシミールは黒くて辛くてサイコーなのは変わらないんですが、やはり湯島などよりも少し辛さが穏やかな気がします。間違いなくニッポンのカシミール属性の味わいですが、以前湯島で期間を限って提供されていて「これ、いいぞ!」と強く思った「昭和のカシミール」によく似ているんですよ。
強い辛さの中にどこか甘みを感じさせる構成。ぜんざいの湯島のカシミールのソリッドで切れ味感じるあの味よりも少しエッヂが丸い感じ。わたしの舌だとこれくらいがちょいうどいい。
ここ「スパイス料理ニューデリー」は創業1978年。デリーのフランチャイズで始まり翌年にはもうフランチャイズを抜けています。しかし1978年時点でのカシミールの味はそこに残り固定され、78年時点での湯島の味がそのまま現代までやってきたというロマン溢れる想像ができるのです。
まるでタイムマシンが如き話しで、たまにこういう話を聞くと心惹かれてしまうんだよねえ。本当かどうかはお話を聞いたわけではないのでわからないんですけどね。
そして、コルマ。
わたしがデリーで最も愛しているメニューです。
湯島より焙煎浅めだからだと思うのですが、フルーティな甘味が特徴的。好みの甘さです。タマネギの溶けきらない粒の食感と味に舌が喜んで悲鳴を上げています。ああたまらない。今回、再確認のためにここ前橋までやってきたのですが、その再確認というのがコルマ。わたしのカレーが好きになったわけ、ルーツかもしれないというお話です。
わたしの母の作る特別のカレーがあります。今では年老いて自分の食事を作ることも少なくなった母ですが、かつては玉ねぎを大量に刻んで深く炒め、エスビーの赤缶に何やら色々なものを入れて奇跡のような旨いカレーを作ってくれていました。今から4〜50年の話しです。当時としてはなかなかおもしろいレシピだったんじゃないかなあ。新聞か雑誌に載っていたものを見て知ったそうだ。いや、当時の料理教室のレシピだったかな。
母のこのカレーがわたしのカレー好きを確固としたものとしたのだろうと容易に想像できます。
今になってそれがすごくよくわかるんですよ。
そしてタマネギ焙煎の果てのようなコルマに至る道が見えるようになったのは、食べ歩いてきた経験が気づかせてくれたもの。自分の舌のルーツを俯瞰するような思いがあります。なんと楽しい気づきでありましょう。玉ねぎの甘みを前に出したカレーが好きな自分の舌のルーツとコルマカレーという偉大なカレーの味が重なって光がさすように自分の舌が歩いてきた道が俯瞰できました。
前橋の古いインドレストランの、軽めの焙煎の甘さの中から遡る記憶。湯島の深い焙煎とのつながり。そういうことだったのか。辿り着いたのは、母のカレーを越えるような偉大なカレーはこの世界にはないということ。それが世の理。やはり、の帰結です。
わたしのカレーを巡る旅は一旦幕を閉じました。もうここからはこだわりも見栄も何もなく、ただ好きな時に好きなカレーを頬張るだけでいいと思います。
次の旅が始まります。
【追記】
写真のスクーターはクドウちゃんのやつではありません。フロムイタリアじゃないの。バジャジ・チェタック。インドでノックダウン生産されてたやつです。現代においては、このシチュエーションにおいては、価値が逆転しちゃってる気がします。この場所に佇むこの車両。しかもスペアタイヤカバーのセンスの良いコト!いや驚いた。やってくれるなあ、本物のこだわりだな。